芸予要塞探索ガイド【しまなみ海道・小島】

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芸予要塞・探照灯跡

28㎝榴弾砲

上陸すると否応なしに目に入るのがこの巨大な大砲。これは2009~2011年に放映されたNHKドラマ「坂の上の雲」の撮影に使われた、28㎝榴弾砲のレプリカ。実際にこの小島の芸予要塞には28㎝榴弾砲が6門備え付けられていたという。日露戦争時、旅順攻略に使う為、うち2門が芸予要塞から移送されている。そういった経緯より、「里帰り」という意味をこめて、NHKからこの小島にこのレプリカが寄贈されたそうだ。レプリカといえ、実際にドラマで稼働させていたので見た目は本物その。砲身内部のライフリングまで再現されていて、精巧で迫力がすごい。いまにも砲弾を海に向かって轟音と共に撃ち出しそうだ。砲台の横にはレンガ造りの小さな建物。船の待合室という位置づけだが、綺麗な水洗トイレとベンチ、今治や小島の写真が飾られている。なお、小島の中には商店は無い。唯一物が買えるのがこの建物にある自動販売機のみ。もしものことを考えて、小島に向かう船に乗る前に、食糧と飲み物は買い込んでおきたい。

小島の風景

小さな船を降りた桟橋からまず最初の戦跡「探照灯跡」へ向かう。探照灯跡には海沿い、山沿いどちらからでも行ける。今回は山沿いの道から向かう。振り返ると瀬戸内海らしい島の風景が広がっていて目を楽しませてくれる。

芸予要塞探照灯跡

やがて道は突き当たり、広場に出る。広場には「キャンプ場」と記されている。どうやらここでキャンプをしても良いようだが、トイレも水場も何もない。歩いて5分ほどの、先ほどの港の建物まで、水とトイレは戻らないといけない。

この広場の一角に、最初の戦跡である「探照灯跡」がある。丘をくりぬき、土台を巨石で固め、その名にレンガ壁の地下室の入口がぽっくり口を開けている。探照灯(サーチライト)は夜間に海峡を往来する船舶を確認するための照明。かなり遠方まで照らすことができたそうだが、現在は台座のみで、探照灯自体は残っていない。台座だけと言えども、戦跡としては超一級品。砲撃への防御を考えて造られた施設である事は一目瞭然。自然の山と分厚い石組みに支えられた台座は堅牢そのもの。明治時代に完成してから100年以上経過した現在でも、崩れることなく現存している。

芸予要塞探照灯跡

レンガ壁で作られた地下室。このスペースに探照灯を収納しており、必要な時に奥の竪穴から探照灯を台座上部に繰り出して光を照射したそうだ。

芸予要塞探照灯跡内部

探照灯地下室。完成してから100年以上が経過しているため、漆喰がはがれてコンクリートが溶けている。それでも砲撃に耐えられるようつくられたであろうこの部屋は頑丈で、崩れるような危険な個所は無い。地下室の奥は竪穴になっていて、この竪穴で探照灯を昇降させて運用していたようだ。海からの艦隊からの砲撃から身を守るように、山をくりぬき、石で固めた堅牢なつくりになっている。

芸予要塞探照灯跡

地下室の奥には光が射し込んでいる。この竪穴から探照灯を押し上げて、来島海峡を通る船舶を監視していたのだ。よく見ると、レンガ壁の所々に穴が開いている。ここにレールか梯子を設置して、探照灯を昇降させていたのだろう。古びた赤いレンガに四方を囲まれ、上から光とその光に照らされた緑色の植物が垂れ下がってきている。まるで、映画やゲームの中の世界に閉じ込められたような不思議な場所。かつては戦争のための最新鋭の機材を運用していた軍事施設も、平和な現世で忘れられた遺物として美しく時間の流れに抗っている。

芸予要塞探照灯跡

探照灯の地下室を堪能したら、今度は階段で上部に登る。山を切り開かれて作られた探照灯の台座はとても頑丈で、100年以上前の施設とはとても思えない。

芸予要塞探照灯跡

探照灯台座上部。中央の円形部分が竪穴になっていて、ここからサーチライト(探照灯)がせり出してくる。まさに要塞、秘密基地だ。ここから360度、海を行き交う船を照らして監視していたのだろう。サーチライトの光はとても強烈で、目視でも彼方にかすんでいる岬まで照らしていたという。

芸予要塞探照灯跡

探照灯がせりあがってくる竪穴はまるで井戸のよう。おそらく、海から敵艦の攻撃を受けた時は、この中に探照灯を収納して破壊されないようにしたのだろう。中を覗くと確かにそこは先ほど地下から見上げたあの閉塞された空間があった。ここには強烈な光を放つサーチライトが収納され、動力で昇降旋回していた。

芸予要塞探照灯跡からの眺め

探照灯上部からは来島海峡を一望できる。写真は小島に向かう船に乗った波止浜と、途中に経由した来島。来島と小島の間にはまるで川のように海がながれている。ゴウゴウと海の流れる音が止ることなくこの小高い丘の上まで聞こえてくる。ここを行き来する船舶を今いる場所から探照灯が照らしていたのだ。そして照らし出した敵艦を島の3ヶ所の砲台が火を噴いて攻撃する。のどかに見える瀬戸内の風景も、100年前は緊迫の軍事的拠点だった。探照灯上部からはしまなみ海道の「来島海峡大橋」も眺められる。橋が橋脚を下ろす場所まで探照灯が照らし出したそうだ。100年前のサーチライトの威力の強力さに改めて驚く。

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