幼児連れで親子で楽しむ上高地散策
信州の観光地として1,2を争う人気のスポット「上高地」。美しい北アルプスの山々と、それらに源を発する梓川の織りなす美しい風景は、誰もが写真で1度は見たことがあるはずだ。そして、そこは日本のアルピニストの発祥の地であり、多くの登山者が訪れる。僕にとっては上高地は特別な場所で、今回の訪問は14回目になる。
上高地を初めて訪れたのは高校生の林間学校。何となくバスに乗せられ連れてこられたこの風景に激しい衝撃をおぼえた。あの山に登ってみたい。そう思い、大学になって山岳系サークルの門をたたいたのが、僕のアウトドアライフの始まりだった。その後、この上高地から何度も山に登った。妻と結婚してからも、人生の節目になる度にここに訪れた。僕の人生の礎となるものをくれた場所。僕にとってはここにいるだけで、心が休まり活力がもらえる場所となっていた。
人生の節目となるたびに訪れていた上高地だったが、まだ人生のとても大きな節目に訪れていない。子どもができてから、まだ上高地に訪れていなかった。上高地はマイカー規制があり、車では入れない。整備が進んでいるとはいえ、ベビーカーで気軽に乗り入れられるような場所ではない。娘がしっかり歩け、オムツも外れた3歳になって、今回初めて上高地を家族で訪問した。
天気予報は雨で沢渡駐車場でも雨が降っている。しかしスマホで上高地のライブカメラを確認すると、上高地で傘をさしている人はいない。上高地の天気は曇りだ。意を決して、沢渡から上高地行きのシャトルバスに乗り込んだ。
雨や曇りでも美しい上高地の幻想的な風景
上高地に到着。久々に穂高連峰と対峙した。まるでドライアイスのように、鞍部から雲が流れ出す山々の風景は、生憎の天気でもとても神々しく神秘的。時折雨はぱらつくが、穂高がこれだけはっきりと見えるなら、これ以上はすぐには崩れないだろう。バスターミナルから河童橋まで、プチトレッキングを開始。
北アルプスの名峰の惜しみもなく集めて流れる梓川。エメラルドグリーンでどこまでも透明な水は、訪れる人の心をいとも簡単にその流れ中に奪い取る。清流流れるカラマツの森の散策。深呼吸すれば、桁違いの緑の薫りで肺の中が満たされる。まさに別天地。神々の領域にいる事を感じられる。
あっというまに河童橋に到着。上高地の観光の中心地であり、絶好の穂高の展望スポット。観光客と登山客が忙しく、途切れることなく行き交う。そんな人々が見上げるのが、日本第3位の標高を誇る奥穂高岳を盟主とした穂高連峰だ。
河童橋より望む穂高。残念ながら山頂は雲に隠れてしまっている。それでも雲は薄いカーテンのようで、時折その稜線が姿を現しては消えていく。
流れる梓川。今日は残念な天気だが、晴れた日は梓川はエメラルドグリーンに輝く。美しい山々から流れ出した清流はまさに宝石を思わせる透明度を誇る。
梓川はこの穂高から流れ出しているように思えるが、この穂高から流れ出すのは支流という贅沢。さらに穂高の奥へ10km以上歩いてたどり着ける日本第5位の標高を誇る槍ヶ岳が梓川の源流だ。
幼稚園児なら楽しく散策できる上高地
河童橋を渡る娘。本当は大正池から河童橋まで4kmをトレッキングしたかったのだが、集中力が持続しない3歳が大人の足で1時間の距離を歩くなんて無謀。実際、道端のキノコや川の中の石には興味を示したが、穂高連峰は娘の眼中になかった。まだまだ、身近なものしかわからないのだろう。それでも、娘と一緒に上高地に行くというこの瞬間、やっと達成だ。
いずれ一緒に山に登ってほしい。そう思うくらい、娘は強烈な晴れ女だ。上高地に住み着くカモを追い回し、石ころを拾い(持ち帰りは国立公園なので禁止)などしていると、上機嫌に。すると、不思議なことに、明神岳の上部の雲が退き、青空がのぞき始めた。
雲の退き、穂高が全貌を露にした。ふわりと山肌を纏うヴェールのように雲がたなびく、とても神々しい姿。奥穂高岳と前穂高岳をつなぐ、吊尾根の美しさが、輝きを放つ。天気予報は完全雨。下界も雨だった。それでも穂高はこうやって奇跡とも思える風景で僕たち家族を迎えてくれた。僕は神を信じない人間だが、この上高地は唯一神がいる場所だと信じている。いつもこの神は僕の味方でいてくれる。そんな気がする。
この風景こそが、ぼくを山に駆り立てた景色。美しい梓川、その向こうに広がる岳沢と呼ばれる緑の谷。そして、その上に雲を纏ってそびえたつ険しい穂高。何かで殴られた、何かに貫かれた。そんな衝撃的な風景。この風景に出会って3年後、僕はこの山の頂に立つことになる。
美しい岳沢。音もなく雲が流れていく谷間に広がるグリーンベルト。僕は山頂よりもまずここに行きたいと思っていた。それはアルプスの少女ハイジに出てきそうなスイスの風景に思えた。
穂高の風景を楽しみ、家族で記念写真を撮ったなら、梓川の河原に下りてきた。梓川はゆっくりと下っていく。その向こうには、北アルプス唯一の活火山、焼岳が噴煙とも雲ともわからぬ煙を頂きに纏わせている。
川遊びにはちょっと冷たすぎる梓川
「お水で遊ぶの~」
さっそく靴を脱ぎ捨て娘は川遊びを開始。大きな岩もなく、尖った石のない梓川の河原は水遊びにもってこい。だが、娘は水の中にはあまり入らない。それもそう。梓川の水は殺人的に冷たい。それは冷蔵庫でキンキンに冷やした水のように冷たく、足を浸けると痛いのだ。
お父さんも我慢ならず水の中に入り、娘と違いずんずん深いところまで行く。が、10秒もすれば悲鳴。すぐに岸に上がるが、涙が出るほどに足が痛い。大学生の時に山から上高地に下山し、打ち上げと称して後輩をここに突き落としたが、今思えば大変悪い事をしてしまったと痛みの中でふと思う。
機嫌よく川で遊ぶ娘。すると、信じられない事に青空が穂高の上に広がり始めた。その神秘的な風景に、そこにいる人々はみな、目を奪われる。大好きな動物園に行くときは、必ず雨の天気予報も覆す娘の晴れ女パワー。上高地で楽しくなってくると、ずんずん天気が良くなっていく。これは将来、山ガールに育て上げて、パーティーに入ってもらわないと・・・
梓川で上機嫌で遊ぶ娘。娘には晴れ女パワーを発揮するため、「上高地」を「神様のおうち」とふきこんでおいた。すると、少し変わった形の岩を川の中に見つけ、突然拝みはじめた。聞いてみると、その変わった岩が「神様」らしい。・・・う~ん、神様はもう少し遠い山の上にいて欲しいのだが。しかし、「神様」を娘が見つけたことで、天気がどんどん良くなっている。本当にその岩が神様なのかもしれない。
静かな雨上がりの夕方の上高地
雨にとまどい、娘が車で寝てしまったので、上高地入りはとても遅い時間になった。上高地の滞在はあっという間だった。しかし、到着した時は雨がこぼれそうだった上高地も、今は青空が覆い始めている。穏やかな美しい風景を最後に穂高が見せてくれた。
元々雨で人はまばら。そして夕方。この風景が広がった時、河童橋はとても静かだった。静寂の中、音もなく佇む風景は、とても美しく、感動的だった。来てよかった、そしてまた来たい。そう思い、上高地を後にした。
最終便間近のバスにはほとんど人は乗っていない。ゆっくり走り出したバスから最後に見えたのは、美しい大正池の風景。水鏡となった鏡面に穂高連峰が映し出された姿は、上高地の有名で人気の風景のひとつ。
今回は大正池には寄らなかったが、今度は娘と一緒にここからトレッキングをスタートしたい。娘もまた上高地に行きたいと言っている。また次に訪れた時は、ここを歩く家族の姿、静かに佇むこの穂高に見てもらいたい。そう思っていると、バスは釜トンネルの暗闇に吸い込まれた。
上高地とはしばしの別れ。でも、また来たい。何度でも、何度でも。
上高地
交通:長野県松本ICから車で約1時間、沢渡駐車場にてシャトルバス25分
松本電鉄新島々駅から上高地行きバス乗車
岐阜県高山より約1時間、平湯温泉より上高地行きシャトルバス35分
施設:上高地ビジターセンター・キャンプ場・食堂・土産店・ホテルなど