松山・道後平野サイクリング【風景と歴史と温泉】

最終更新日

Comments: 0

愛媛県の県庁所在地・松山には道後平野が広がり、サイクリングするにはもってこいの場所がいっぱいある。
今回の「道後平野サイクリング」は、往路は道後平野を形つくった「重信川」を河口から遡上する。市街地を流れる川ながら、豊かな自然とサイクリングロードが整備された河川敷は、サイクリストには天国といえる。
復路には「四国霊場88か所」のうち4つの寺をまわり、しかも四国の名湯「道後温泉」に訪れるスペシャルプランだ。

松山空港から重信川遡上サイクリングスタート

松山空港

スタートは「松山空港」。往路は松山空港から「レスパシティ」というショッピングモールまで、重信川を走る約25kmのコースだ。
松山空港の南側には、飛行機の離着陸が見れるデッキが設けられた公園もある。遠くの地に思いを馳せながら、ここから僕も自転車に乗って旅立つ。
空港の端までくると、県道22号線に出る。この県道は空港と垂直に接している。離着陸する飛行機が来れば、頭上すれすれを飛んで行く。大迫力の瞬間を気軽に止まって待てるのも、自転車のいいところだ。

重信川河口

松山空港から約5km。重信川の河口に到着した。ここは水鳥がいつも遊ぶ、穏やかな場所。瀬戸内海と重信川が交わる、風光明媚な伊予灘の風景を楽しんだらいよいよ上流に向けて出発だ。

重信川河口

重信川を遡るサイクリングの始まり。
重信川は標高1233mの東三方ケ森に源を発し、わずか36kmという距離で海に流れ込む川。とても急なように思えるが、川の流れが南から西へと変わる東温市の見奈良までは非常に流れは緩やか。周囲の山から水を一手に集めるので、非常に水量も豊かで、大きな川幅をもつ川だ。

重信川サイクリング

しばらくは河川敷の土手の上の、四輪車は入れない道を進む。土手の下には住宅地、河川敷には畑などが広がる、穏やかな風景。時々、見事に車止めをすり抜けて入ってくる農作業などの軽自動車に気をつければ、のんびりと走れる道だ。

重信川出合橋

しばらく走ると、交通量の多い県道にぶち当たる。県道を渡って直進する道は自転車道では無い。しかも、車が多い上に、重信川の右岸は松山市の水がめとなっている石手川となって分岐する。ここはこの「出合橋」を渡って、重信川の左岸へ渡ろう。
ちなみに、この「出合橋」の下の河原は、9月から10月にかけて、愛媛県の風物詩の「いもたき」の会場となる。里芋などを中心とした様々な具を鍋で炊き、大勢で囲んで月見をしながらの宴を楽しむ風習だ。期間中は満員でなければ、当日に予約なしで訪れても、場所といもたきのセットを用意してくれる。手ぶらで訪れても、郷土の風物を楽しむことができる。

重信川

出合橋から上流を望む。この出合橋や少し上流にある国道56号線が走る「出合大橋」から上流を望む重信川の風景。それが、この川の代表的な風景だ。
北には西日本最高峰の「石鎚山」(1982m)の姿も望め、冬ならば頂を真っ白に染めるその姿はすぐにそれとわかる。

伊予鉄道郡中線

松山を走る私鉄の「伊予鉄道・郡中線」の踏切を渡る。伊予鉄道は明治20年設立の歴史ある鉄道で、この郡中線も明治29年開業だそうだ。町の中の駅や線路には、レトロを感じる場所がいっぱい残っているので、自転車で改めて訪れてみるのも楽しそうだ。
踏切を渡ったら、国道56号線が渡る「出合大橋」の下をくぐる。

松山川内自転車道

「出合大橋」の下をくぐり、一般道を少し行くと、「松山川内自転車道」の入口がある。ここは重信川の左岸河川敷に造られた、サイクリングロードだ。対岸の、プロ野球の試合も開かれる「坊ちゃんスタジアム」がある「松山中央公園」を起点に上流へと自転車道は続いている。

松山川内自転車道

自転車道に降りて、のんびりと重信川の河川敷を行く。前方に皿ヶ嶺、そしてさらにその奥に石鎚山を望みながらのサイクリングはとても快適。広い河原を渡る風もとても気持ちいい。
が、なんだか天気が悪くなってきた。前方から吹きつけてくる風もきつくなり、ペダルがずいぶんと重く感じる。

重信川沿いに点在する泉で癒される

赤坂泉
赤坂泉
赤坂泉

重信川をさかのぼると、多くの「泉」と呼ばれる場所があることに気づく。ここはその一つである「赤坂泉」で、国道33号線が渡る「重信大橋」の近くにある。
大きな泉の底からこんこんと美しい水が湧きだし、小川となって流れている。周囲は親水公園となっていて、10月のもう肌寒くなった時期なのに、子供が元気に水遊びしていた。
重信川の河床は砂礫層となっていて、川幅の割には流れている水はとても少ない。雨が降らないと、涸れてしまう場所もあるくらいだ。その水の多くは伏流水として、地下に流れており、このように湧水が湧く場所は「泉」という灌漑用水として古くから利用されてきた。きれいな水に何度も出会えるサイクリングは、とても心踊らされる。

重信公園

「重信大橋」をくぐると、その先で流れ込む砥部川を渡る橋がない。いったん迂回して、砥部川を県道23号で渡り、続いて県道194号線の「重信橋」で重信川を渡る。そして、今度は重信川右岸を上流に向けて走り出す。
土手沿いに道はあるが、マウンテンバイクなら河川敷にある「重信公園」の砂利道を走るのも楽しい。小さな泉や、とても近くに感じる重信川の流れはなかなか気持ちいい。

重信川サイクリングと石鎚山

重信公園が終わると、あとは延々と土手沿いの道を行く。車もほとんど通らない、快適な道だ。はるかかなたに見えていた山の形がどんどんとはっきりしてくるのは嬉しい。写真左上、遠くには西日本最高峰の石鎚山(1982m)がくっきりと見えている。

龍沢泉

しばらく進むと、また泉がある。「龍沢泉」だ。森の中に囲まれた泉にはこんこんと美しい水が湧きだしている。泉の中だけでなく、それを取り囲んでいる石垣の中からも水が流れ出している。

龍沢泉水中

湧きだした水は農業用水として使われるそうだ。泉からは水路がひかれ、たっぷりの水が流れだしている。泉の中に防水カメラを入れてみる。とても冷たい水の中は、どこまでも美しく澄み切っている。中には小さな川魚が遊んでいて、まるでオアシスのように感じる。

拝志大橋

さあ、かなり両側の山が重信川に迫ってきた。この旅の終着が近いことを感じられる。ここは重信川を渡る「拝志大橋」。奥に見える山は、今まで目指して走ってきた「皿ヶ嶺」だ。
「皿ヶ嶺」は標高1270mの山で、ブナの原生林が広がり、四国では珍しい高層湿原を頂上直下に抱える山。この橋を車で渡ると登山口に向かうことができる。
ちなみにこの橋は、江口洋介主演の映画「となり町戦争」のロケ地。となり町との「境界線」がひかれていた場所だ。

花畑のあるショッピングモールで折り返し

見奈良花畑

拝志大橋を渡って間もなく、重信川は90度向きを変え、北上するようになる。ここで自転車の旅は折り返し地点。これから先の重信川はその表情をがらっと変え、深い谷間を流れる、まさに中流の様相になる。
その重信川のカーブの内側には「レスパシティ」というショッピングセンターがある。「クールス・モール」というアウトレットやスーパーがあり、「利楽」という気持ちいい温泉もある。さすがに帰路があるので、温泉に入る気はしないが、アウトレットの中に何店かレストランもあり、スーパーもあるので昼食にはもってこいの場所だ。
そして、このレスパシティの見どころは、「見奈良の花畑」。ショッピングモールの南側にはとても広い、一面の花畑が広がる。3月の菜の花畑、10月のコスモス畑はとても美しく、多くの人が訪れる場所だ。石鎚山に連なる山々を背にして田園風景の中に広がる花畑は、愛媛でも指折りの人気だ。
レスパシティの中にあるスーパーで遅めのお昼を調達して平らげたら、復路の出発だ。同じ道を帰るのも何なので、途中から違うルートを走ることにする。
往路はいくつもの泉が湧く重信川のほとりの自然を楽しむコースだった。帰りは、松山市内の四国霊場をお参りしながら道後温泉を目指す約19kmの「プチ遍路」コースだ。
往路に苦しめられた強烈な向かい風は復路では頼もしい追い風。あんなに重かったペダルが信じられないほど軽い。最速ギアで自転車道をまるで風のようになって走る。

松山市内の四国霊場を巡るお遍路サイクリング

西林寺

重信川に架かる「久谷大橋」まで河川敷の道を戻れば、この橋を渡る県道40号線を北上する。するとすぐに四国霊場48番の「西林寺」に到着する。
ここで、少しお遍路について。
お遍路とは、88か所のお寺をめぐって四国を一周する巡礼・修行の旅。弘法大師の足跡をたどる旅で平安時代に始まったとされる。今もその信仰は四国には深く根付いていて、巡礼をする人は県内外から多く訪れる。
お遍路さんの格好は、白装束に菅笠、そして弘法大師の化身とされる金剛杖を持つ。車や公共機関、観光バスを使い巡礼する方がほとんどだが、歩きで何十日もかけて巡礼する人も多い。四国の道を車で走っているとそんな「歩き遍路」という人を多く見ることができる。
四国には「お接待」という風習が残っていて、お遍路さんをもてなすことで、自らの願いをお遍路に託すというもの。その為、歩き遍路には四国の人はとても優しく、食べ物を頂いたり、時には宿を提供してもらったりなどということもある。
さて、まずは西林寺の仁王門をくぐる。この門は、罪人がくぐれば地獄に堕ちるという恐ろしい門。少しドキドキしながら境内へ入り、お参りする。
通常、お遍路をするときには本堂・大師堂で読経し、納経帳に朱印をもらうなど、参拝の方法が細かく決められている。だが僕はお遍路の格好していなければ道具も何も持っていない。この日は普通に参拝する。僕がお参りしている間にもお遍路さんが次々やってきて、般若心経を読経している。

浄土寺

西林寺から県道40号線を北上。伊予鉄道横河原線の鷹ノ子駅を左折して、線路沿いに道を走る。看板を目印に、少し住宅地に入ったところに49番「浄土寺」がある。市街地の喧騒がうそのように、静かで趣のある山門には長い歴史と人々の思いを感じざるを得ない。

繁多寺

浄土寺からは「日尾八幡神社」のある交差点を右折して北上する。同じ県道40号線だが、ここからは「松山東部環状線」という名称がある。
途中、案内板を目印に県道から外れて上り坂を登って行く。小高い山の裾野に、50番「繁多寺」がある。山に囲まれた、自然の香が漂う静かな山寺。もう時間が遅いということもあり、訪れる人の数もとても少なかった。
ちなみにお遍路さんは参拝をした印に納経帳に朱印をもらうのだが、その受付時間は午後5時まで。すべてのお寺の共通の時間で、この時間を回るとお遍路さんは参拝ができなくなる。そのため夕方5時を回ったお寺は、とても静かになる。

石手寺

繁多寺から松山東部環状線をさらに北上し、石手川を渡ると、51番「石手寺」に到着。道後温泉からほど近いこともあり、今までのお寺とは違い多くの観光客も訪れるお寺だ。
昔、この一帯を治める領主の男の子どもは生まれた時から左手を握ったまま開けなかった。このお寺で祈祷をうけると、その手からこのお遍路の元祖とされる衛門三郎の生まれ変わりを示す小石が出てきたという。その言い伝えがこのお寺の名前の由来で、安産祈願に訪れる人も後を絶たない。お寺の入口には弘法大師の像があり、遍路用品のお店もある。

石手寺参道

鎌倉時代につくられた歴史ある山門へと参道を進む。もう時間は遅く、訪れる人の姿はほとんどない。静かな参道は、とても神秘的で厳かな空気が漂う。

石手寺

黄昏空に三重塔がシルエットとなり、訪れる人がいなくなった広い境内は、不思議な雰囲気。蝋燭の光に照らされた薄暗く静か境内に漂う線香の煙。昼間の喧騒が嘘のようで、仏が現れてもおかしくない。石手寺の境内はとても広く、洞窟めぐりや、山の中を歩きまわってお参りする小さな霊場などがある。

夜景が美しい夜の道後温泉

夜の道後温泉本館

石手寺の前の道を西へ向かって走ると、旅館が立ち並び始める。ここが愛媛県最大の観光地、「道後温泉」だ。
聖徳太子も入ったと言われる道後温泉は日本最古の温泉。そのシンボルであるのが「道後温泉本館」。その前の道は、以前は車や観光バスで大渋滞だったが、近年は石畳の道になり、車が入ってこられなくなり、自転車を押してゆっくりと散策できる。夜でも多くの観光客や、浴衣を着た近隣の旅館の宿泊客でとても賑わっている。

夜の道後温泉本館

道後温泉本館は、夜のライトアップがとても美しく、幻想的。ジブリアニメの「千と千尋の神隠し」の湯屋のモデルとなったと言われ、すぐそばにはジブリショップもある。
明治27年に建築された本館は木造3層構造。中には又新殿 (ゆうしんでん)という、皇族専用の浴室もある。現在は使われておらず、有料で内部を見ることができる。
赤く輝く屋上にある楼閣は振鷺閣 (しんろかく)
純和風建築の本館にあって異色の光を放っている。赤いギヤマンをはめ込んだ障子越しに放たれる光は、とても不思議で、幻想の世界へと誘われる。振鷺閣の中には太鼓があり、朝・昼と夕方の3回、打ち鳴らされる。朝の太鼓とともに、地元の人が一番風呂を求めて道後温泉の本館に訪れる。そんな湯の町の刻を告げる刻太鼓の音は「残したい日本の音風景100選」にも選ばれている。

夜の道後温泉本館

道後温泉本館の側面。大衆浴場としてはとても大きく、重厚な造りは貴重で、国の重要文化財にも指定されている。1階には浴室、2階には大広間、3階には個室がある。
本館の入浴には、入浴方法によって料金が異なる。入浴のみ、大広間での休憩つき、個室での休憩つき、グレードが上の浴室の利用など。休憩室を利用すると浴衣を貸してくれるので、この縁側からタオルを肩にかけて身を乗り出して風に当たるのが気持ちいい。
この道後温泉には、夏目漱石や正岡子規が足しげく通っている。夏目漱石の小説「坊ちゃん」は松山に教師として赴任した漱石自身の体験をもとに書かれたもの。小説で主人公は、道後温泉をモデルにした「住田の温泉」に毎日通っており、夏目漱石がこの温泉をいかに気に入っていたかがわかる。
ただし、漱石が松山で気に入ったものはこの温泉のみのようだ。松山の町や住んでいる人の事は、「品がなくどうしようもない田舎者」のように相当に悪く書いている。そんな松山をバカにした「坊ちゃん」だが、今では堂々と松山のイメージキャラクターになっている。「坊ちゃんスタジアム」や「坊ちゃん列車」、「坊ちゃん団子」など、松山のものならなんでも坊ちゃんと名を冠しているのが不思議だ。ちなみに道後温泉本館の3階には「坊ちゃんの間」があり、夏目漱石の松山での足跡を紹介している。

夜の道後温泉駅

道後温泉の歴史は古く、周辺には歴史やレトロ感じる場所がたくさんある。そのひとつ、伊予鉄道の「道後温泉駅」。
道後温泉観光の入口となる路面電車の駅だが、駅舎にも電車にもレトロの香りが漂う。路面電車には最新型も走っているが、古い電車には木の床の内装など、とても歴史を感じる車両もある。特に夜の時間は、不思議な雰囲気に包まれ、平成の世にいることを忘れさせてくれる。
ここからは路面電車の線路沿いにJR松山駅を目指す。途中、山の上にそびえる「松山城」がある。夜はライトアップされていて、闇夜に浮かぶ美しい姿は松山のもうひとつのシンボル。
松山城のお堀を過ぎてもう少し西へ向うと、日本でここにしかない平面交差する線路がある。伊予鉄道の列車の通過を踏切で路面電車が待つという、面白い風景が見られる。
この踏切を超えると、ライトアップされた歴史を感じる駅舎が見えてくる。JR松山駅に到着。今回のサイクリングはここで終了だ。

道後平野サイクリング

道後温泉の観光と宿泊情報

日本最古の温泉とされる道後温泉には、数多くの宿があります。どの宿にも趣向をこらした温泉を楽しめ、さらには湯篭をもって浴衣姿で道後温泉本館や椿の湯といった外湯巡りも楽しめます。道後温泉から伊予鉄道の駅に続く商店街「道後ハイカラ通り」にはたくさんの店が並んでおり、各ホテルの軒先には無料の足湯があり、道後温泉は散策するにはもってこい。海にも近く美味しい魚を食べられる店も多数。毎時0分に稼働するからくり時計も見応えがあって楽しく、ゆっくりと宿をとって道後温泉を楽しみたいですね。

シェアする

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください