由布岳西登山口ルート【由布院駅から頂上を目指す静かな絶景コース】
由布岳・西登山口からの登山案内
湯布院のシンボルでもある由布岳(標高1,583m)は、通常、車やバスでアクセスできる正面登山口から登るのが一般的ですが、由布院駅から徒歩で登ることができる「西登山口」ルートもあります。獲得標高が1,000mを超えるため健脚向けではありますが、前半は静かな山歩きを楽しむことができ、絶景を独り占めできる魅力的なコースです。
由布院駅から山頂まで歩き通すことができる絶景ルートでありながら、利用する登山者が少ない“もったいない”ほどの名ルートです。今回は、夏の時期に西登山口から由布岳西峰を目指す登山ルートを紹介します。
早朝の出発:静かな由布院駅

大分駅から始発の普通列車に乗り、朝7時30分に由布院駅へ到着します。普段は外国人観光客で賑わう駅前も、この時間帯はとても静かで、まるで時間が止まったかのような雰囲気に包まれています。
湯の坪街道を抜けて西登山口へ

西登山口への最短ルートは「湯の坪街道」を通るルートです。日中は観光客で歩くのも難しいほど混み合うこの通りも、早朝はほとんど人がおらず、神秘的な静けさに包まれています。まだお店も開いていませんが、魅力的なお店の佇まいを楽しみながら進んでいきましょう。
西登山口から登山開始

西登山口には案内看板と登山届ポストが設置されています。ただし、初めて訪れる方にとっては「本当にここから登ってよいのだろうか」と不安になるほど草が生い茂っており、道の入口がわかりにくいかもしれません。特に朝はクモの巣や虫が多いため、不安な方は正面登山口から登り、西登山口へ下山するルートを選ぶのもおすすめです。
※由布岳正面登山口からのルートは以下の過去記事を参考に願います。
湯布院の暑さと杉林の道

草が生い茂っているのは入口付近のみで、しばらく進むと登山道は広くなり、杉林や雑木林の中を歩く静かな道になります。ただし、道が分かりにくい箇所もあるため、ルートを見失わないよう注意が必要です。
また、湯布院は盆地のため、早朝でも気温が高めです。この区間は全行程の中でも最も汗をかく登りです。無理をせず、ゆっくりとしたペースで登りましょう。急いで登ると、すぐに熱中症になる恐れがあります。

しばらく杉林の中を登っていくと、やがて平坦な道に変わります。美しく整列した杉の木立の中をまっすぐ進む道は、まるで神社の参道のような神秘的な雰囲気が漂っています。この場所を抜けると、ついに由布岳の絶景が目の前に広がります。
草原と由布岳の織りなす絶景

神秘的な杉林を抜けると突然視界が開け、雄大な由布岳と広大な草原が眼前に現れます。この瞬間は、思わず感動の声が漏れるほどの美しさです。まるで壁紙のような美しい草原を、誰もいない静寂の中、由布岳に向かって歩いていくという贅沢な登山体験が待っています。

壁紙のような美しい草原、しかも誰もいない場所を由布岳に向かって歩いて行きます。贅沢極まりない山行です。
ただし、夏の朝にこの草原を歩く際には2つの注意点があります。
1. ルートが非常に分かりにくいこと
踏み跡を頼りに進んでいると、いつの間にか正規の登山道から大きく外れてしまうことがあります。初めての方は登山アプリなどを使い、現在地を随時確認しながら進むことをおすすめします。
2. 夏の朝露による濡れ
草が生い茂っているため、朝露でズボンが濡れやすくなります。ゲイター(スパッツ)は必携です。ゲイターがないと、朝露がズボンを伝って靴の中まで入り、ゴアテックスの登山靴であっても中がぐっしょり濡れてしまいます。

この草原の中からは、出発した湯布院の街並みが見下ろせ、最高の眺望が広がります。夏でも朝霧がかかることがあり、その時はさらに幻想的な風景になります。

湯布院から正面登山口を経由して別府にむかうやまなみハイウェイ。日本離れした息を飲む山岳風景がいくつも連続します。

途中谷間を流れる小さな流れを渡ります。湯布院を通り抜けて大分市で別府湾に注ぐ大分川。その深い場所にある源流の1つです。飲用不可ですが、ここまでの夏の暑い登りでヒートアップした体を冷やしてくれます。
合野越(ごうのこし)からは涼しい夏の登山道

しばらく歩くと、正面には由布岳と並んで美しい姿を見せる飯盛ヶ城(標高1,067m)が現れます。このエリアは、大草原と山々の絶景を楽しみながら歩ける、西登山口ルート最大の魅力の一つです。
由布岳と飯盛ヶ城の間の鞍部を少し登ると、「合野越(ごうのこし)」に到着します。ここからは、正面登山口からのメインルートと合流し、多くの登山者とともに山頂を目指すことになります。
合野越では、ちょうど標高の半分である約500mを登り終えた地点です。ベンチも設置されており、休憩には最適な場所です。ここでしっかりと水分補給と休息を取り、体力を回復させてから後半の登りに臨みましょう。
なお、正面登山口から登ってきた登山者にとっては、合野越は最初の休憩スポットとなるため、西登山口から来て汗だくになっていると、少し「頑張りすぎ」に見えてしまうかもしれません。

合野越から先は、由布岳らしいダイナミックな風景が次々に展開される登山の後半です。標高1,100mを超えるこのあたりからは、空気が明らかに変わり、森の中に吹き抜ける風がとても涼しく感じられます。ようやく、暑い夏の平地から抜け出せたことを実感する瞬間です。

何度もつづら折りを繰り返しながら進んでいくと、やがて木々が開け、低木が広がる登山道に変わります。直射日光が照りつけるため暑さを感じますが、それを吹き飛ばすような涼しい風が吹き抜け、とても心地よい環境です。
標高はまだ高くないものの、由布岳が活火山であることを感じさせる特有の植生が広がり、眼下には緑の草原、湯布院の街並み、そして遠くには九重連山の雄大な山並みが一望できます。
2つの頂上への分岐点「マタエ」に到着

つづら折りの傾斜が急になり、岩場の登りをいくつか越えると、由布岳登山の重要な分岐点である「マタエ」に到着します。
マタエは、豊後富士とも呼ばれる由布岳の火口縁に位置するポイントで、ここから2つのピークへ向かうことができます。
東峰(ひがしみね)
初心者にも比較的安全で、多くの登山者が目指すピーク。
西峰(にしみね)
標高1,583mの由布岳最高峰。険しい岩場が続くため、十分な登山経験と装備が必要です。鎖やわずかな足場を頼りに進める方のみ挑戦しましょう。
マタエから先は風が一気に強くなり、気温も急激に下がります。東峰・西峰いずれに向かう場合も、レイヤリングや防寒対策をしっかり整えてから進みましょう。

マタエから振り返る湯布院の街並み。すさまじい高度感と、その高度を自分の足だけで稼いできた達成感を感じます。
西峰への岩場と絶景

西峰へは、いくつもの鎖場を越えて進みます。登山経験がある方にとっては、それほど難易度の高いルートではありませんが、しっかりとルートを確認しながら「三点確保」で慎重に登る必要があります。

岩肌の間から見下ろす湯布院の街並みや、大草原の風景は圧巻のひと言です。汗と朝露にまみれながら歩いてきた草原もはるか彼方の足元に小さく見えます。
由布岳西峰・登頂!

ついに、由布岳の最高峰・西峰に到着です。由布岳は独立峰のため、山頂には雲がかかることが多く、雲上の世界に来たような幻想的な風景が広がります。
西峰の山頂は東峰よりも広く、フラットな地形で、昼食をとるのにも最適な場所です。風が心地よく吹き抜ける中で、ゆっくりとした時間を過ごせますが、日差しが強くなると肌が焼けるように感じるため、日焼け止めや帽子、水分補給をしっかりと行いましょう。

西峰からは、湯布院の街並み、九重連山、さらに遠く阿蘇まで望むことができ、地球の丸みさえ感じられるような壮大なパノラマが広がります。
もう一つのピーク・東峰へ

時間と体力に余裕がある方は、ぜひ東峰にも足を運んでみてください。火口を挟んで向かい合う東峰からは、鶴見岳や別府湾、大分市など、海側の絶景が広がります。西峰とはまた違った風景を楽しむことができます。
火口の内部は、長い時間を経て自然が再生した原生林となっており、野鳥の楽園(サンクチュアリ)です。多様な鳥のさえずりが風に乗って聞こえ、耳を澄ませているだけで癒されるひとときを過ごせます。
下山と湯布院温泉のすすめ

下山ルートとしては、西登山口に戻るルートがとてもおすすめです。バスの時間を気にせず下山できるだけでなく、午後には草原の朝露もすっかり乾いており、登りの時のように濡れる心配もありません。
下山後に立ち寄りたい湯布院の日帰り湯が、「湯布院健康温泉館」です。
湯布院健康温泉館の魅力
• 金鱗湖を通り過ぎた先の、湯布院らしい田園風景の中に位置
• ザック(約35L程度)も入る大きなロッカーを完備
• シャンプー、ボディソープあり
• 広々とした内湯と露天風呂で疲れを癒せる
• 駅まで徒歩10分以内とアクセス良好
• 観光地の中心部に比べて混雑が少なく、ゆったり入浴可能
• 冷房完備で夏場は入浴後に涼むことができる
下山後は、混み合う観光エリアを避けて、静かな温泉で身体を癒し、登山の疲れをゆっくりとリセットしましょう。

おわりに
由布岳西登山口からのルートは、静かな山歩きから始まり、原生林、草原、岩場、そして山頂からの絶景と、登山の魅力が詰まった贅沢なコースです。体力と装備に自信のある方にとっては、まさに「登りがいのある」ルートといえるでしょう。
山と温泉をたっぷり楽しめる由布岳登山、ぜひ安全第一で満喫してください。