由布岳登山【雲海とブロッケン現象】

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人気の観光地「湯布院」のどこからも望め、必ず由布院の写真にはその雄姿を披露してくれる「由布岳」。日本200名山で「豊後富士」とも呼ばれるトロイデ式火山。標高1583mの由布岳は美しい草原に包まれた独立峰であり、そしてふたつの頂きを持つ双耳峰。その独特な姿は湯布院を訪れる人の心にいつも大きな感動を与えてくれるだろう。今回はそんな由布岳に登ってみた。由布岳の頂上では信じられないくらいの美しい風景が待っていてくれた。

湯布院のシンボル由布岳はアルペンムード溢れる美しい山

由布岳

由布岳の登山口は、由布岳の脇を越えて別府と湯布院を結ぶ「やまなみハイウェイ」の峠にある。湯布院を見下ろす絶景の展望台「狭霧台」よりも別府寄りの場所だ。由布岳登山口の看板も出ているので迷うことはない。

由布岳登山口駐車場

登山口入口にある駐車場。30台駐車可能もシーズン中はすぐに満車になる。

由布岳登山口トイレ

トイレと東屋が駐車場内にある。お世辞にも綺麗と言えないので「狭霧台」など手前でトイレは済ますべき。

由布岳登山口

駐車場から横断歩道を渡ると登山道の入口。登山届ポストの備え付けもある。一面に広がる草原は、ハイキング気分で登って行きたくなる。自由にお使いくださいと杖が何本か置いている。しかし由布岳は、1500mを越える火山の単独峰だ。頂上付近はさながら北アルプスのような厳しい気象条件と地形に見舞われる。軽装備で入山する家族連れやカップルを多く見かけたが、頂上に立つには最低限の登山知識と登山装備が必要になる。しかも、それらが必要かどうかわかるのは、頂上まであと15分といった所に来てからだ。

由布岳

朝の草原の中を歩くのはとても気持ちが良い。登りはじめは8月末の朝6時。昼間の猛烈な暑さは身をひそめ、草原を渡る清々しい風が心地よい。
由布岳への登山ルートは、この草原を直登し、森林の中にはいり、一番左の草原の山と由布岳の鞍部まで登る。その後、由布岳斜面をジクザグに登っていく。

朝の由布岳

草原に朝日が射し込んできた。青々とした草原が、まるでこれから迎えるであろう、秋色のように金色に染め上げられる。涼しい風が手伝って、まるで秋のようにも思える。遠くにたなびく低い雲も、秋の近付きを知らせてくれている。

朝の由布岳

由布岳もまぶしく朝日に照らされる。登山の開始と同時に輝いた由布岳は、まるで僕を歓迎してくれるかのようだ。
さて、美しい風景を楽しむのはここまで。森の入口に到着した。ここにはベンチやトイレがある。休憩はできるのだが、トイレは登山口のものに輪をかけて汚いので緊急用と考えたい。
森に入るとどんどん標高をあげていく。朝日も射し込まず真っ暗な密度の濃い森。大きな岩がころがり、下草の生えていないなど、火山でできた山の特徴が随所に見れる。ただ、登りの勾配はそれほどきつくはない。

飯盛ヶ城

出発からおおよそ40分。「合野越」という、由布岳と飯盛ヶ城(1067m 写真正面)の分岐点に到着。広まった場所になっていて、ベンチなどもあるので小休憩できる。

由布岳登山道

由布岳への登山道。とても良く整備された道で危険個所は皆無。山肌を大きく蛇行するため、傾斜も緩やか。

由布岳登山道

由布岳山麓に広がる深い森。下草が生えない森は簡単に立ち入れそうなくらいの広がりを見せる。間違って登山道から入り込まないよう、所々ロープが張られている。時々野生のシカがいるのを確認できた。

由布岳

しばらくすると、あれだけ深かった森が急に低くなり、その姿を突如として消し去る。森林限界を越えたようだ。それと同時に由布岳の雄姿が再び間近に現れる。
通常、森林限界は日本アルプスなどでは2500m付近にある。しかし火山という独特な地質で単独峰のため風に常にさらされる由布岳は1200~1300mでの森林限界が存在する。山麓の草原は山焼きがされているが、ここは何もしなくても大きな木がはえられない場所だ。

雲海広がる湯布院や遠く九重連山を望みながらの絶景登山

由布岳から見下ろす雲海の湯布院

木々がなくなったため、下界も見下ろせるようになった。湯布院の上には見事な雲海が広がっている。

湯布院と雨乞牧場

湯布院と雨乞牧場、そして遠くには九重連山が広がる美しい風景。そこに滞在するだけで美しいと感じる湯布院の風景を上空から一望できるのは、登山の汗をかいたものだけの特権だ。その汗も、上空を渡る涼しい風にかき消されていく。

雲海の湯布院

雲海に包まれる由布院の町。湯布院は盆地であるため、秋や冬には深い朝霧に包まれる。その絶好の展望所は、登山口よりやや下にある「狭霧台」ではあるが、それ以上の風景を由布岳から望む事が出来る。

由布岳から見る九重連山

遠くには「九重連山」を望む。九州本土最高峰「中岳」(1791m)など、1700m級の山が連座するまさに九州の屋根だ。

雲海の湯布院

由布院の駅付近、町の中心部も雲に包まれる。まるで飛行機から見下ろしたかのような風景が、自分の足で見ることができる。

由布岳から見下ろす下界

頂上に近づくにつれ、荒々しい山肌が迫ってるようになる。その岩肌越しに見える由布院の町。なんとも不思議な組み合わせだ。
頂上に近づいてくると、大きく蛇行していた登山道の幅が狭まってくる。そして、傾斜が急になり、大きな岩もゴロゴロとしはじめる。

由布岳からの眺め

時間がたち、雲海も随分と薄くなってきた。美しい草原が広がる由布院の大自然をあらためて感じさせてくれる。草原の中を蛇行して走る道は「しまなみハイウェイ」。湯布院から別府に向かう山岳道路で、草原の中のドライブはとにかく気持ちが良い。

由布岳最高峰西峰へはアルピニストのようなハードな世界

由布岳マタエ

出発から約2時間。「マタエ」という由布岳の火口の淵にたどりつく。ここから「西峰」と「東峰」、由布岳の2つのピークへの分岐点になる。さすがにここから溶岩があふれ出しただけあり、付近は岩の塊ばかり。空の上に突きだした部分なので、雲と風が容赦なく吹きつける。斜面と森に守られた今までとは全く違う場所であることを感じる。

由布岳噴火口

由布岳の噴火口。深い灌木に覆われ、その中には足を踏み入れる事は出来ない。空を飛べる鳥たちだけが、自由に噴火口の中を飛び交う。空の上にありながら、火口の中に身を潜めれば風雨から身を守れる場所。まさにここは鳥の天国で、多くの鳥が鳴きながらこの中を飛び交っていた。

由布岳西峰への岩場

さて、今日は時間的に2つあるピークのうち一つしか踏めそうにない。それならば三角点のあるメインピークの「西峰」であろう。マタエから西峰にとりつこうとするが、険しい岩場に鎖が延々と上まで取り付けられている。
これには少し驚いた。鎖場が西峰にはあると事前情報で知っていたが、こんなにハードな岩登りとは想像もしていなかった。当日は強風と時折かかる深い霧。一瞬登頂をためらったが、気を引き締めて岩場にとりつく。

由布岳西峰のい岩場

鎖場は思った以上に長く、何箇所もある。鎖場以外でもやせ尾根を歩かないといけない場所も多く、常に転落の危険がつきまとう。先ほどまでの歩きやすく安全性の高い登山道とは全く別世界。ハイキング気分で歩いていたら、突然北アルプスの岩稜の上に出てしまった。まさにそんなところだ。
実際に岩場通過の難易度や高度感、そして吹きつける風などは北アルプスのそれに匹敵する。この西峰に登るには、登山経験と登山知識がないとまず無理だ。このマタエにも分岐の看板しかない。せめて、「東峰のほうがまだ安全」というような注意書きがあっても良さそうだとも思う。途中、マタエで会った登山者は、今日は初心者がいるので鎖場のある西峰には行かず、東峰に登ると言っていた。

由布岳東峰

岩登りの最中、雲がすっと晴れる。すると東峰の姿が目の前に現れた。写真右下の広い場所が「マタエ」斜面を駆け上がってきた雲が絶えず流れていく場所だ。写真左下が噴火口。マタエから茶色く筋が頂上まで続いているのが道。こうやってみると、鎖場や岩場は東峰にはなく、この西峰よりも随分登りやすそうな道だ。尾根道もやせておらず、しっかりとしてそうだ。初心者はやはり分岐点から右へ、東峰への登頂にとどめておくべきだろう。

由布岳頂上は雲の上の別天地

由布岳頂上

険しい岩場を乗り切ると、やっと由布岳頂上(西峰)に到着。標高1583mの由布岳は美しい草原に包まれた独立峰であり、そしてふたつの頂きを持つ双耳峰。その由布岳の最高峰がここ「西峰」の山頂た。険しい岩場を鎖場で乗り越え、標高差800mを登り切った登山者のみが立つ事ができる場所。それは足もとにも、そして頭上にも雲が風に乗って流れていく、空の中の世界。

雲上の由布岳

単独峰である由布岳には、雲を乗せた風がよくぶつかる。そのぶつかった風は由布岳の斜面を駆け上るため、火口付近は常に風にさらされる。森林限界を越えているので、風や霧、雨から全く身を守るものが何もない世界だ。当然のことながら、レインウェアや防寒具が必要になる場所。
この日も由布岳に吹きつける強烈が、頂上に何度も何度も雲をぶつけてくる。火口の対岸にあるもう一つの由布岳の頂上、東峰は、絶えず雲のヴェールに包まれた状態だった。

由布岳頂上からの眺め

登った西峰は風下側になっているようで、そして由布院の街側のピークということもあり、町を頂上から見下ろす事が出来た。とはいえ、由布岳を回り込むように流れ続ける雲に、その視界のほとんどを奪われている。まだ朝の8時半。朝食をとりながら由布岳を見上げている人々は多くいるだろう。しかし、由布岳から見下ろしている人は、今のところ僕ひとりだけ。なんとなく、どうでもいいような優越感に浸れる瞬間でもある。
さて、ここでゆっくりしたいところだが、今は旅の途中。見下ろす由布院の町に娘と妻を残したままだ。それに午後からは天気が崩れる予報。多くの雲を運ぶ東からの強い風は、確かにこの晴天を長く持たせてくれはしないだろう。ゆっくりしたいところだが、ケルンの影のわずかな影に身を隠しても風は防ぎきれない。天気が崩れる前に、危険な鎖場や崖を通過してしまおうと、早々に頂上を後にした。

絶景の中の奇跡!幻想的なブロッケン現象に遭遇

雲の上の由布岳山頂

頂上直下のやせ尾根を歩く。崖がスパッと切れ落ちた岩場の上部に出る。すると、山麓を流れる雲の向こうに、由布盆地が見えた。しかも、流れる雲か太陽に照らされて、虹が出るという、素晴らしい演出つき。視界を遮る雲にはうんざりしたが、こういう幻想的な演出をしてくれるなら大歓迎だ。
しかし、次の瞬間、僕は思いついたかのように、登山道を離れ、岩をよじ登り、この断崖絶壁ギリギリの場所へと向かった。もしかしたら、会えるかも知れない・・・あの怪物に。

ブロッケンの怪物

「出たっ」
注意深く、植物に隠された「崖の端」を探りながら、ギリギリの所まで崖に近づく。崖の下を覗き込むと、そこに思った通り「ブロッケンの怪物」が居た。虹の輪に囲まれた、霧の向こうに人影が映っている。

ブロッケン現象

これはブロッケン現象という自然現象。観察できる場所は断崖絶壁の上など。崖下に霧や雲が流れている時に、背後から太陽光が射し込む時に起こる。霧がスクリーンの役割をし、自分の影が映るわけだが、その影に後光のように虹が映る。
急峻な地形と太陽が真横にある時間帯、そして何より霧や雲の発生。いろんな条件が絡み合ってはじめて見れる、神秘的で貴重な現象だ。

由布岳西峰

振り返ると、雲を突き抜けて上空に顔を出す、由布岳・西峰。頂上まで続く険しい岩稜。まさか、頂上がこんなに険しいとは下から由布岳を見ているだけでは想像もできない。人間の住む領域をはるかに離れた場所には、まさにそこに神や魔物がいるのかとも思えてしまうような息をのむ現象が次々に起こる。

由布岳のブロッケン現象

単独峰の由布岳ならではのブロッケン現象。通常は深い谷間に立ち込める霧にブロッケンが出現するだけだが、単独峰の由布岳には噴火口をのぞいて深い谷は無い。見下ろせば常に下界を一望できる。そんな由布岳で見れるブロッケンは、その神秘のヴェールの向こうに湯布院の人里をまるで蜃気楼のように見せてくれる。これは最高に美しいブロッケンだ。

由布岳からの眺め

雲が途切れると、当然のことながらブロッケンの怪物も消えうせる。しかし、雲のスクリーンの向こうに現れるのは、絶景。まるで飛行機から見下ろすかのような、美しい緑の山々が雲の下に広がっている。これも、雲の上に突きだした単独峰から眺められる、美しい眺め。幾つもの牧場が広がる九州らしい、日本離れした美しすぎる風景。
交互に現れるブロッケンと絶景に、ついつい強風に吹かれる崖の上の岩場にいる事を忘れてしまう。足もとの注意をおろそかになり、ふと我に返る。長居をしたいところだが、残された時間も少なく、この場所にいること自体常に危険な行為。カメラをザックに仕舞い込み、残念だが再び下山を開始する。

雲上の青い空から緑の大地へ下山

由布岳登山道

由布岳の噴火口の縁を沿うようにゆっくりと降りていく。噴火口の口はとても鋭く、岩場を内側に、外側に何度も回り込みながらだって行く。

由布岳東峰

雲に包まれていた東峰が突然姿を現した。神秘のヴェールの中から突然現れた、雲の上に鎮座する山容はとても神々しく、由布岳のもう一つのピークを務めるにはふさわしい。西峰とは違い、随分ずっしりとした地形。東峰への登山道には今とりついている西峰野ような危険な鎖場や岩場などは無いそうだ。今日は時間的に東峰には登れないが、今度初心者連れで行く時の楽しみに、こちらのピークはとっておこう。

由布岳西峰

鎖場を降り切ってきて一息。見上げる西峰。写真左側の岩場を、鎖を頼りに降りてきた。あの点に突きだすような岩場の上で、ブロッケンに出会いがあった。

由布岳鎖場

さて、鎖場はまだ続く。この鎖場を降りれば、西峰と東峰の分岐点である「マタエ」という鞍部に降りれる。マタエからはとても歩きやすい、快適な登山道だ。まさにここが雲の下の下界への降下口。もう一度気を引き締めて、三点支持で岩場に取り付きながら、断崖絶壁へと体を送り出す。

由布岳マタエからの風景

マタエに無事到着。ここからの登山道は由布岳の山腹をジクザグに降りていく緩やかな道。大仕事を終えた達成感をすでに抱きながらも、ゆっくりと標高を下げていく。
先ほどまで足元を流れていた雲が同じ高さを流れ、森林限界が徐々に近づいてくる。それと同時に、すっかり忘れていた夏が近づいてくる。寒いとまで感じた頂上とは違い、空気がどんどん重く湿ってきて、暑苦しくなってくる。森からはセミの鳴き声が聞こえてきて、深い緑が近づいてくるごとに、その鳴き声も大きくなってくる。どこにも属さない、遠い場所に行っていた気持ちが、一気に日本の夏へと引き戻される。

由布岳の草原

深い森を抜け、再び由布岳の山麓の草原に戻ってきた。朝とは違い、高く登った日に照らされる緑は、まだ夏真っ盛り。

草原と由布岳

予定どおり11時ぴったりに登山口に戻ってきた。登山口は風も穏やかで、蝉の鳴き声が響き渡る真夏の世界。だが由布岳の頂上は、雲が強い風にたたきつけられる、寒さすら厳しい岩の世界。この牧歌的な風景を見ていたら、いとも簡単に登れるように思えてしまうだろうが、あの雲の中は全くの別世界。
僕の到着と同時に出発した軽装のカップルやどう見てもきちんとした装備をしていない家族連れとも下山途中すれ違った。あの雲の上の世界を見てきただけにそんな格好や遅い時間の出発で大丈夫かと心配してしまう。それに今日は午後から天気が崩れるのに・・・案の定、この日の午後2時から、バケツをひっくり返したような大雨に湯布院は見舞われた。
独特な地形がもたらす美しい山、由布岳。その風景と自然現象は本当に素晴らしく、信じられない美を存分に見せてくれた。しかし、その反面、この山の美しさには、その美しさをもたらしている自然の厳しさや怖さも潜んでいる。そんな由布岳には久しぶりに、自然の美しさと厳しさを思い出させてもらった。

由布岳登山地図

湯布院の宿泊情報

由布岳登山をするならやっぱりすぐ近くの山麓にある湯布院に泊りたいところ。至る所に湯けむりが上がる湯布院の宿はほとんどが源泉かけ流しの温泉をもっています。比較的小さな規模の宿が多く、洗練された静かな大人の滞在が楽しめます。登山後、ゆっくりと静かな温泉に入って疲れを癒すにはもってこいの温泉地です。

■湯布院を代表する人気旅館

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