黒川温泉【静かな朝の湯けむり散策】
今は全国的に名を知られる熊本県の黒川温泉。しかし、以前は谷間に張り付くように小さな旅館が肩を並べる鄙びた温泉だったと聞く。
今では「入湯手形」を導入し、各旅館のその豊富な湯量で掛け流しの温泉を気軽に思うがままに堪能できる事で人気上昇。町ぐるみの取り組みで、古民家の雰囲気に統一した町づくりで、人気の観光地ながらとても落ち着いた佇まいになっている。
公共交通機関から遠く離れた山の中、細い道に坂が連続する地形、収容人数の多い宿が無く、団体客は立ち寄れない。そんな観光地にマイナスの要素すら、この黒川温泉では逆にその魅力を高める要因となっている。
浴衣姿で歩きたい静かな朝の黒川温泉
季節はまだセミが鳴く9月初旬。朝5時半、宿泊していた「新明館」を浴衣姿で抜け出して、まだ眠りからさめぬ黒川温泉の町並みをふらつく。
土壁に深い色の木、そして裸電球。純和風ノスタルジックな雰囲気。静かな朝の空気に包まれて、とても幻想的。やはり、黒川温泉に宿泊したのならば、静かな朝の、まるで別世界の散策は楽しみのひとつだ。
黒川温泉にはネオンや宿の派手な看板はない。それでも美しく、そして趣深く、宿はその名を誇らしげに示している。
黒川温泉の歴史を感じる数々の場所
「地蔵堂」
ここは黒川温泉の発祥の伝説がある、「首なし身代わり地蔵」が祭られている。
昔、貧しい塩瓜の甚吉という若者が寝たきりの父親の食べに瓜を食べさせてやりたいと考えていた。瓜を買う金がないため、商売にしている塩を少しお地蔵さまに供え、悪いと思いながらも瓜畑に盗みに入る。しかし、すぐに地主に見つかり、その場で甚吉は首をはねられてしまう。だが、地面に転がり落ちたのは、身代わりになったお地蔵さまの首だった・・・
その後、本田勝十郎という修行者が首だけの地蔵さまを持ち帰ろうとした。途中、黒川でひと休みしていたところ、地蔵さまに「ここに安置しなさい」と言われたため、村人に大切に託される。すると、この黒川に温泉が湧くようになった。
地蔵堂には使い終わった入湯手形が納められている。願いを書いて、ここに吊るしておくと、ご利益があるそうだ。
「黒川いご坂の大杉跡」
黒川のシンボルであった大杉だが、昭和40年の台風で倒木していまった。今は、根の部分だけが残っている。
「首無し地蔵」よりもずっと昔から黒川温泉を見守っていた。
「いご坂地獄」
地元の人たちの手で掘られた温泉で、その名のとおり、いご坂の上に湧く。ここで地元の人が野菜や卵をゆがいたりするらしい。黒川温泉のメイン通りに面している。
風情を醸し出す黒川温泉の坂
黒川温泉には坂が多い。特に、メイン通りと川沿いの旅館街を結ぶ3本の坂が名も付けられ、代表的な坂になっている。
写真の「いご坂」は黒川温泉で最も有名な坂。よく写真で出てくる坂道はここ。裸電球に照らされ、趣きある建物、そして緑に包まれた坂道は何度も歩きたくなる。かなり急道だが、ベビーカーを押してあがる事は十分可能。坂道の中央には、石段も設けられている。
「柿の木坂」
名前はあるが、3本の坂の中で一番短く、味気もない。よく急坂などの道で使われるコンクリートの舗装の坂で一気に下り降りる。道沿いにも趣きある建物は無し。
「べっちん坂」
共同駐車場と共同浴場の「穴湯」を結ぶ坂。3本の坂の中で一番長く、森の中を行く野趣あふれる坂道。一応ベビーカーを押すことは可能だが、結構急なので注意。
黒川温泉の共同駐車場。黒川温泉は道が細く、旅館も小規模なものが狭い立地にあるので、車で各旅館をめぐるのは宿泊者のみに限られる。そのため、入湯手形を使って旅館の湯をハシゴする外湯客はここに車を停めて、徒歩でお目当ての旅館をめぐる事になる。
ここには「風の舎」という旅館組合の事務所もあり、観光情報・宿泊情報はもちろん、お土産の購入なども可能だ。
「田の神様」
しゃもじを持っていることからわかるように、五穀豊穣を願って祭られている。静かな温泉街はお地蔵様に見守られている。
散策していると、味のある風景にいくつも出会う。浴衣に下駄での散策なり朝の黒川温泉なら、風情に感じられる。
山からもたらされる清水も、黒川温泉の大切な風景。
惰眠をむさぼる猫。野良だろうが、黒川温泉の中にいると、それだけでとても絵になる。
チェックアウトをしたらベビーカーの娘を連れて、再び午前中の黒川温泉を散策。
チェックアウト後の共同浴場めぐりもオススメ
黒川温泉には共同浴場が2か所ある。地元の人のための浴場だが、マナーを守れば観光客も利用可能。ただし、入湯手形は使えない。
「地蔵湯」は「地蔵堂」の前の坂を下った所にある。ここに安置された首なし地蔵の伝説で湯が最初に湧きだした場所と言われている。
料金:100円浴室:男女別・内風呂各1時間: 8:00~19:00
「穴湯」は河原にある、ロケーション最高の共同浴場。ザアザアという水音を聞きながらの入浴はとても気持ちよさそうだ。
料金:100円浴室:混浴・内風呂1時間: 7:30~19:00
穴湯は仕切られた脱衣スペースと湯船がひとつのシンプルなつくり。露天風呂に屋根と壁を取り付けたような、小屋のような空間。よくみれば、川原の石垣をそのまま壁に使っている。
こういう場所での入浴は、独特の雰囲気に包まれ、温泉気分満喫できるに違いない。ちょうど誰もいなかったし、100円を投入して、服を脱ぎ捨てて湯に包まれよう!
と思ったけど、ベビーカーに乗ったままの娘を連れて出来る技ではないので、今回はあきらめ。今度黒川に立ち寄れたら、是非とも入ってみたい。
黒川温泉散策は風景と温泉だけではなかった。美味しいものを食べさせてくれる店もいっぱいある。散策のついで、つまみ歩きしてみるのも楽しい。