木曽駒ケ岳登山【駒ヶ岳ロープウェイ】

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中央アルプスの盟主、標高2956mの「木曽駒ヶ岳」。森林限界を越える険しい山だが、駒ヶ岳ロープウェイを使えば、標高2612mの千畳敷カールまで一気にアクセスできるため、比較的登りやすいため、多くの登山者が訪れる。

夏でも雪が残る千畳敷カールを登る

千畳敷カール

駒ヶ岳ロープウェイを降りると、夏でも雪が残る雲上の別天地・千畳敷カールだ。遊歩道の奥にある分岐路からが本格的な登山道。
この先には、カールから見上げる宝剣岳(2931m)やここからは見えないが、木曽駒ケ岳(2956m)が待っている。まずは頭上にそびえる宝剣岳の懐目指して、山を登って行く。

雪の千畳敷カールを登る

7月初旬の登山道の様子。稜線に向かうこの山道は「八丁坂」と呼ばれている。急な斜面はまだ一面の雪に覆われている。稜線までは標高差約250mほどの登り。時間にして1時間弱。大したことはない。しかし、夏の初めは雪が多く、雪が少なくなると登山者が増えて行列する。登りはまだいいが、慣れていない人は簡易アイゼンやストックがないと下りは大変。かなりのスローペースやスリップをする人が続出している。
この雪は稜線直下まで続いていた。コースを示す棒が立てられ、関係者の人が雪かきして道を確保してくれている。
念のため、関係者の方に聞いてみた。
「今年は雪は多いですか?」
「平年並みですね」
【注意】
雪が融けた後も、登山道は大小の石が転がる足もとが不安定な道です。簡単に登れそうですが、登山装備と経験が無い人の事故が多発しています。
また、空気も薄い上に、独特の地形の為、天候は突然急変します。安易な気持ちや行き当たりで、準備なくこの道を登らないでください。

木曽駒ヶ岳登山

登山道から右方向の稜線を見上げる。雪の上にはハイマツのグリーンベルト。さらにその上には真っ青な空。溜息が出そうな美しさだ。

残雪の宝剣岳

今まで見上げていた宝剣岳が、目の横にまで近づいてきた。稜線はもうすぐだ。もうすぐ、空の世界に出られる。

木曽駒ヶ岳登山

稜線に近づくと奇岩が多くなってくる。画面中央にある岩は「オットセイ岩」というそうだ。確かに、そう言われると、そう見えなくもない。
左下に見えている建物が、駒ケ岳ロープウェイの千畳敷駅と隣接するホテル千畳敷。日本でいちばん高い所にある「駅」と「ホテル」だ。

千畳敷カールの花畑

稜線間近までくると、一足早く咲き始めた高山植物が出迎えてくれる。紺碧の青空をバックにチングルマが美しく咲いていた。

稜線に出れば一気に広がる絶景パノラマ

浄土乗越からの中岳

登りは終り、目の前に今まで見えなかった山の向こう側の景色が開けた。ついに稜線に出た。木曽路の山々が目の前に広がる。
目の前に見える頂は中岳(2925m)
目指す木曽駒ケ岳は中岳の向こうにあり、ここからは中岳の影になって見えない。ここから稜線沿いに中岳を経由して、木曽駒ケ岳を目指す。

千畳敷カールを見下ろす

振り返る伊那路方面。出発した千畳敷は、ずいぶんと足元にある遠い景色になってしまった。
千畳敷カールから登った稜線鞍部は「乗越浄土」と呼ばれる場所。ここには「宝剣山荘」や「天狗荘」という山小屋があり、中央アルプス登山の貴重な基地のひとつとなっている。宿泊はもちろん、食事、食糧・水購入、トイレなどが有料で利用できる。夏でもストーブが焚かれた休憩室があり、有料だが急な荒天時にはありがたい避難場所になる。
予報では天気は午後からは崩れるようだ。確かに、木曽側からは多くの雲が湧き始めている。間違いなくひと雨来る雰囲気。さっきまであんなに青空だった天気が、ほんの数時間で雨になる。これが山の天気の怖いところだ。天候がもつのはあと3時間くらいだろうとこの時に判断。少し休憩したいところだが、トイレだけ利用させてもらい、出発する。木曽駒ケ岳へは乗越浄土からおおよそ1時間で到着できる。

宝剣岳頂上

少し見上げると、宝剣岳の頂上が間近に見える。先に登頂した登山者が、この山の「お決まり」ともいえるポーズで記念撮影をしている。僕はあの頂上に立ったことはないが、あの場所であのポーズをするにはなかなか勇気がいると聞く。
宝剣岳山頂まではここから約20分。しかし、宝剣岳の頂上にたどり着くには、足元の不安定な岩場をクサリ場などを乗り越えていかないといけない。天気は下り坂の今日、往復40分のロスは痛い。登頂は諦め、木曽駒ケ岳へ足早に向かうことにした。

中央アルプス天狗岩

「千畳敷カール」から「乗越浄土」に登りきったら、今度は稜線の上の雲の上のトレッキングとなる。しかし、雲の上といいながら、もうすぐここは雲に包まれるであろう空模様だ。急ぎ足で、本日のピークである「木曽駒ケ岳」(2956m)へ向かう。
宝剣山荘の横から見える巨大な奇岩は「天狗岩」

三ノ沢岳

稜線を行くと、左側に見事な三角形をした山が見える。地図を見ると、「三ノ沢岳」(2846m)とある。名山入りしていない山だが、それでもその山容は立派でアルプスの風景にふさわしい。

中級者以上推奨、花畑広がる横手コース

滑川源流

足元には、木曽駒ケ岳と宝剣岳の間の水を集めて流れる深い谷が広がる。谷は「滑川」となって、木曽川へと注いでいる。この高度感はとても気持ちがいい。
さて、この谷が見える頃、木曽駒ケ岳へ向かう稜線の道は分岐を迎える。ひとつは「中岳」(2925m)を経由する登り道。もう一つは「中岳」に登らず、西側斜面を巻く巻き道だ。
普通は巻き道の方が楽だが、その分岐点に立てられた看板には「危険」と大きく書かれている。確かに、分岐点から見ただけでも、登り道より巻き道の方が険しそうだ。昭文社の「山と高原地図」にもルートは破線で、危険マークがしっかりと添えられている。
天気が悪化しそうなので、できるだけ時間は短縮したい。岩場の通過はあるが、鎖場もなさそうなので今回は巻き道を選択した。妻も登山初心者とはいえ、御嶽や乗鞍岳、蝶ケ岳などの森林限界を超えた山はいくつも制覇している。もはや超ビギナーではないので、問題はないだろう。

木曽駒ヶ岳横手コース

さて、これが巻き道である「横手コース」。写真中央、左から続く細い筋が登山ルート。結論から言うと、登山装備をきちんとしていて、登山経験がある程度ある人なら問題はない。ここが「危険」というならば、北アルプスの穂高周辺の一般登山道の方が相当危険だ。もちろん、滑落すればたたでは済まない道だが、滑落しそうな場所はそんなに多くない。
恐らくこれだけ「危険」と書いているのは、容易に登山未経験者・非装備者がここまで来れる山域なので、その警告のためだろう。当然のことながら、装備・経験に自信のない人は中岳を経由する比較的安全な道へ進むべきである。

木曽駒ヶ岳横手コース

とはいえ、三点支持を使うような岩場も数か所ある。それに悪天候時や積雪期は格段に危険度は上がるだろう。天気が良い時に限って利用したい。
さて、この道を行くと、今まで見れなかった高山植物がいっぱい咲いている。

イワカガミ

【イワカガミ】
山地にも咲く花だが、高山に咲くものは「コイワカガミ」というそうだ。色が鮮やかで、よく目につく。

チングルマ

【チングルマ】(白色の花)
高山植物でもかなり有名で、よく咲いている。花が終わると美しい綿毛をつける。

ミヤマキンバイとイワツメクサ

【ミヤマキンバイ】(黄色い花)
これもよく見かける高山植物。とても色鮮やかな黄色は美しい。
【イワツメクサ】(白い花)

花びらがいっぱいあるように見えるが、実は5枚だけ。根本付近から二股になった花びらが5枚で10枚の花びらに見える。

木曽駒ヶ岳のお花畑

曇り空から日が射し込んだ。そのとたん、一面のお花畑は美しく輝く。崖の上の細い道にいながら、その美しさには目を奪われてしまう。

木曽駒ヶ岳登山

見下ろす足もとにずっぱりと切れ落ちる深い谷。その深い谷へと引きずりこまれる急斜面の岩場に、美しくも小さな高山植物がいっぱい花を咲かせている。

木曽駒ヶ岳の花畑

雲の隙間から射し込む光が、お花畑の斜面をまだらに照らしだす。お花畑に落とされる光と影の交錯がとても幻想的な世界を演出する。花畑の上を影と光は交互に駆け抜けていく。しかし、どんどん影が支配する時間が多くなってきた。

木曽駒ヶ岳登山

迫力のある岩場が続く巻き道。その奥に見える岩稜は、まさにアルプスの景色。その圧倒的な高度感と荒々しい風景を楽しみながら、気をつけて道を進んでいく。

木曽駒ヶ岳

横手ルートの最後の方は特に危険場所もなく、間もなく中岳を経由した道と合流した。合流したところに、「駒ケ岳頂上山荘」があり、その前にキャンプ指定地がある。見上げる山が木曽駒ケ岳。山頂の祠がもう見えている。もうすぐだ。天候はまだ崩れそうにないので、このキャンプ場で昼食をとってから頂上へアタックすることにした。
キャンプ場と言っても、テントを張るために整地した区画があるだけ。水道も洗い場もなく、水とトイレを有料で小屋から提供を受けるだけの施設だ。下界で買ってきたパンやカロリーメイトを食べながら、学生時代にここでキャンプをしたことを思い出していた。
重さ20kgを超えるザックを背負い、ここでキャンプをして登頂したのだが、あまり思い出せない。何故だか、このキャンプ場の夕食で初めてイカスミパスタを食べ、その黒さにショックを受けたことだけ思い出した。10年も経つと、人の記憶なんて曖昧になってしまうもんだなぁと、駒ケ岳を見上げながら思わず苦笑いしてしまう。

雲上に突き出た空の上の木曽駒ヶ岳頂上

木曽駒ヶ岳頂上

駒ケ岳頂上山荘を出発して20分も経たないうちに、着した。日本百名山のひとつ、「木曽駒ケ岳」(2956m)
雲を眼下に従えた、空の中の頂上だ。
僕の登頂は大学時代に登った時と合わせてこれが2回目。妻は初めて。これで妻の制覇した百名山の数がひとつ増えた。

駒ヶ岳神社

頂上には「駒ケ岳神社」の立派な社がある。社を守る鎮守の森はなく、さえぎるものなく風や豪雪にさらされる中、厳かにそこに鎮座している。

駒ヶ岳神社

駒ケ岳神社の祠は2つある。木曽の祠と伊那の祠。こちらの祠は比較的新しく、厳しい天候から周囲に積み上げた石垣で守られている。

木曽駒ヶ岳からの宝剣岳

頂上から振り返る「宝剣岳」(2931m)
ケルンの向こうに広がる険しい岩綾は大迫力の風景だ。

駒ヶ岳頂上山荘

見下ろす駒ケ岳頂上山荘。周辺はキャンプ指定地にされており、シーズン中は色鮮やかなテントの花が咲く。この日はシーズン直前、まだ時間も早く、テントは一張もなかった。
小屋のすぐ後ろにそびえる山が「中岳」(2925m)
一般ルートは中岳に登る道だが、今回僕たちが歩いたのは右側の中岳の山裾を巻く道。見ていただいてもわかるように、途中から険しい岩肌の斜面中腹を歩く道になっている。初心者は多少しんどいが、中岳に登る安全な真ん中の道を行きたい。

中央アルプス

駒ケ岳周辺の山に端を発し、深い谷が伊那路へと刻みこまれている。ここから流れ出した水は、天竜川へと注がれる。
さて、東側(伊那路)の空には青空が広がっているが、西側(木曽路)からあやしげな雲がどんどん広がってきている。天気は西側から崩れる。間もなくこの稜線の天気は悪化するのは明らかだ。残念だが、頂上での滞在はそこそこにして、来た道を急いで下山する。

急変する山の天気から逃げるように下山

伊那前岳

宝剣山荘付近まで戻ってきた。目の前に見えるのは伊那前岳(2883m)へと続く稜線。稜線は雲の上の世界ではなく、間もなく雲の中の世界になりそうだ。

浄土乗越

やっと「乗越浄土」まで戻ってきた。ここからロープウェイ駅のある千畳敷までは下るだけ。稜線に雲が迫ってきているが、時折西日となった太陽が雲の切れ間から美しい千畳敷カールの世界を照らしてくれる。
下りは登り以上に困難がある。それは雪の上の下り。カールにいっぱい残った雪の上の下りは慣れていないと、とても歩きにくい。登山者の多くが何度もこの雪の上で、尻もちをつき、恐る恐る1歩を踏み出していた。
しかし、この踏み固められた雪は慣れるととても面白い。かかとに体重をかけて雪の中に打ち込み、怖がらずに普通に階段を降りるように歩けばあら不思議。アイゼンやストックがなくてもスイスイと雪の上を下っていける。僕は雪の斜面を下り降りるのが大好き。だから雪山に行くと、下りのコースタイムが異常に早い。この日もなかなか下れない妻を尻目に、ひとりで下まで雪の上を駆け降りた。
夏の雪の感触、そして自然の中で風のように走り抜ける感触はとても気持ちいい。雪の下りに苦労する他の登山者からの「すごいっ」という声も、まんざら悪いものではない。僕は妻を迎えに行くふりをして、またこの快感を楽しむため、雪の斜面を駆け足で登りなおした。

宝剣岳

カールから見上げる宝剣岳。登り始めた時と比べるとずいぶん雲が増えてきたが、まだ美しい風景。

千畳敷カール

伊那前岳の稜線。雲の切れ間からスポットライトのように射し込んだ日光が斑に山肌を照らす。音もなくゆっくりと、光と影は緑色の斜面を走って行く。

残雪の中央アルプス

ついに稜線の向こう側から雲が越えてこちら側に流れ込んできた。間もなく、先ほどまで居た稜線や山頂は雲の中の真っ白な世界になるだろう。これがこの日最後に見た、光に照らされた山の姿となった。

千畳敷カールから下界を見下ろす

剣ヶ池まで下り、逆さ宝剣岳の撮影のチャンスをうかがっていた。早く雲が一瞬手でも切れないか・・・
しかしふと山の下を見ると、なんと雲が下からも湧いてきた。もう足もと間近まで迫ってきている。それと同時に、堰を切ったように宝剣岳の稜線から雲がカールへと流れおちてきた。
世界は一瞬にして光を失い、真っ暗になる。来る。これはやばい。一瞬にして周囲を包み込む雲は大荒れの予感。遠くでは雷も鳴り始めた。撮影は諦め、ロープウェイ駅への階段を足早に登り始めた。ロープウェイ駅につくと同時に、周囲には雨音が激しく響き始めた。
一瞬にして変わる天気。これが山の恐ろしさ。遮るものが何もない高山で冷たい雨に打たれると一気に体温が下がる。岩だらけの足場はとても滑りやすくなる。雲に包まれ、何も見えなくなり、道に迷いやすくなる。そして、雷が自分を包む雲や、自分と同じ高さを飛ぶ雲の中で発生する。
天気が良い時には想像もできない気持ちいい雲上の世界は、過酷で危険な世界に一気に変わる。今回は、この雨を見越して宝剣岳への登頂はせず、木曽駒ケ岳での頂上の滞在も短くした。そのために難を逃れることができた。
雨と雲に包まれて、早々と照明を点灯させたロープウェイ駅から下山に向けて出発したのは間もなく。もちろん雨にあっても大丈夫のように雨具の用意はちゃんとしていた。しかし、これで宿で雨具を乾かさなくてもいいと思うと余計な仕事がひとつ減ったみたいでちょっと気持ちが楽になった。
ロープウェイで下界に降りると、雨はやみ、路線バスで車を預けていた駐車場に戻ると、すっかり夏の太陽がまた焼けるような西日を投げつけてきた。車の中に登山の荷物を積みこんだら、本日の宿に向けて、車を走らせた。
菅ノ台の駐車場付近には温泉施設が何軒かあり登山の汗を流せるが、宿のチェックインの時間が迫っている。今日の宿は、木曽駒ケ岳の向こう側。新しくできた国道361号線の権兵衛トンネルを使い、中央アルプスの真下をくぐりぬけて、伊那路から木曽路へと入った。

木曽駒ヶ岳登山地図

駒ヶ岳ロープウェイ周辺の宿泊情報

木曽駒ヶ岳登山を終えたら、疲れを癒すために最寄りの温泉宿に泊まりたい所。駒ヶ岳ロープウェイのシャトルバス乗り場がある駒ヶ根高原、早太郎温泉にはホテルや宿が集まっています。中央自動車道・駒ヶ根インターからもすぐの場所で様々な宿を選ぶことができます。観光の拠点にはぜひおすすめの場所です。

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