北条鹿島【アウトドア満喫できる鹿がいる無人島】
松山市にある無人島「鹿島」。松山市北条沖、瀬戸内海のわずか400mに浮かぶ島で、周囲約1.5km。しかし、そんな小さな島にも関わらず113mの頂を持つ鹿島は海から突然こんもりと持ち上がった小山のように見える。
気軽に渡れる瀬戸内海の無人島
海の上に浮かぶ深い森には、その島の名前の由来となる野生のシカが多数生息している。以前から渡し船があり、市の観光名所として存在していた鹿島。「何もない」ところにわざわざ船で渡る事を敬遠して、今まで行ったことがなかった。しかし、今年から観光活性化のひとつとして、この市営の渡船の料金を一気に大幅値下げ。何とも手軽に利用できる料金になった。それならばと今回、鹿島に子供を連れて訪れてみた。
JR北条駅から渡船場までは約500mなので、電車でもアクセス可能。駐車料金は1台500円。ただし、運転手1名の渡船料金も含まれているので安い。海の横にあるが、鹿島の島影になり風があっても波はあまり立たないため、海水や塩を含んだ風に車がベトベトになる事は少なそうだ。待合室を兼ねた建物内の自販機で切符を買い、桟橋から船に乗り込む。
鹿島への渡船。その象徴である鹿のオブジェが船の上に設置されている。船の甲板へはそのままリヤカーなど乗せられる。島にはキャンプ場があるので、大きな荷物などは台車に載せて運ぶのも可能なようだ。
渡船内部。渡し船に乗っている時間は5分程度。そのために座席は少なく、吊皮があるなど電車みたいだ。運行時間も7時から21時過ぎまでと長く、日中は1時間に3便もある。料金は往復200円(こども100円)ととても安い。船内では松山市出身の芸人「友近」による観光案内が流れる。
民家は無いが、神社やお店がある不思議な島
あっという間に鹿島に到着。たった5分たらずの船旅だが、なんだかとても遠くに来たような感じになれる素朴な風景がまっていた。
鹿島には人は定住しておらず、船着き場周辺に「鹿島博物展示館」や数軒の飲食店があるだけだ。島内に舗装道路は無く、ベンチや東屋が所々あるだけで、人が歩く道しかない。柵の中にはシカが何頭かおり、エサを与える事も出来る。
島内には食料品店と食堂をはじめ、カフェと旅館が1軒ずつある。どの店もとてものんびりとした雰囲気が漂っている。沖縄の離島に一度一人旅したことがあるが、まさにそれに似た雰囲気がこの店すべてにある。
土の道に電柱が無造作に建っている風景はいかにも離島風景で、同じ松山の市内とは思えない。瞬間、その独特の雰囲気には沖縄の離島のイメージが湧きあがった。
鹿島神社。北条駅前から渡船場に向かう途中にある巨大な鳥居はこの神社のものだ。海の向こうから鳥居越しに望む鹿島の姿はとても神々しい。そんな鹿島に鎮座する本殿。「櫂練踊り」や「大注連縄の張替え」などの神事も行われている。
充実施設と快適ロケーションで大人気の鹿島キャンプ場
神社前の森から出ると、そこには開けた場所が。ここが一面キャンプ場になっている。「鹿島キャンプ場」だ。松山市を代表する地元のアウトドアショップ「KOMPUS」のスタッフがアウトドア雑誌「Be-Pal」でオススメのキャンプ場と推薦していた事もあり前々から気になってた。今回は泊まらないが、いずれ子連れキャンプする際の下見を開始。サイトは砂地。砂の目は細かくなく大き目で、時々石が埋まっている。稀にシカの糞が落ちているので、無い場所を選ぶか、除去する。シカの糞はそう臭くも汚くもないので神経質になる必要はない。奈良市が実家の僕は、子どもの頃はよく手で拾っていた代物だ(乾燥したものに限る)
料金は無料で受付も無し。フリーサイト。炊事場とトイレが2か所ある。
無料のキャンプ場にも関わらず、ウッドデッキ付の東屋が何か所もある。中には自由にお使いくださいとハンモックまでかけられている。何とも、沖縄の離島に来たような開放的な気分を味あわせてくれる。東屋には照明もついていたので、夜の利用も安心なようだ。
夏季には併設する浜が海水浴場になるので、シャワー施設が使える。中は確認できなかったが、外観や付近の施設のレベルからすると、十分満足して使えそうだ。
シャワー施設の隣、山側にある炊事場と東屋。洗い場と調理台が完備されている。照明もあるので、快適な利用が可能だ。
サイトの中央にあるトイレと炊事場。こちらの炊事場にはかまどがあり、なんと電源コンセントもついている。コンセントには通電しているかは確かめられなかったが、無料の施設としては至れり尽くせりだ。トイレはサイト中央に2か所。炊事場近くのトイレの方が大きい。どちらもウッディなつくりでとてもきれい。もちろん水洗。女子トイレには「音姫」もついているそうだ。
キャンプ場の入口の浜辺には「海とcafe」というカフェがある。以前からある休憩所の一部をカフェとしてオープンしたそうだ。その日は臨時休業だったが、中は子供が楽しめるキッズスペースのようになっている。外にはいくつものパラソルを備えたテーブルセットがあり、天気の良い日は外で気持ちよくコーヒーなどが楽しめそうだ。島独特の緩やかな時間と潮風に包まれて過ごす時間は贅沢だ。ここにテントを張ってから、お茶を楽しみに行くということもよさそう。カフェのもう少し港寄りには売店もあり、自販機もある。ちょっとしたお菓子やジュースなどはここでも調達が可能だ。
キャンプ場の港寄りの一番奥は遊具広場になっている。結構充実した遊具が置かれているので、子どもを遊ばせるのにもちょうど良い。
海側よりサイトを一望。とにかく広い。海と壁のように盛り上がる山に囲まれた平坦地はとにかくロケーション最高。車を乗りつけられず、荷物を船に乗せて運ばないといけないので、混みあうはずがない。広々快適なキャンプを楽しめる。夜も街灯がいくつかあるので真っ暗にはならないようだ。当然、夜は船の便が無くなるので、21時を回れば翌朝7時までは島は抜けられない。
静かな瀬戸内の島を満喫できる海水浴場
キャンプ場の一番奥はビーチになっていて海水浴が楽しめる。波も皆無できれいな砂が敷き詰められており、シーズン以外でも水遊びにはもってこいの場所。
この時は干潮で相当海面が下がっていた。しかし、今経っている足元の砂には波の跡が残っている。満潮時はここまで海面が上昇する。満潮の時は、水中の足元がきれいな砂になり、すこぶる快適な海水浴を楽しめる。
鹿島の海水浴場全景。広さはそこそこだが、船に乗り荷物を運ぶ手間もあるので、人口密度はシーズンでもそう多くはなさそうだ。人工のビーチなので、砂はサラサラでとてもきれい。島影になるので、波もとても穏やかだ。
さきほど「満潮時はすこぶる快適」と書いた理由はこれ。干潮時の喫水線は相当にワイルド。水は綺麗だが、波が穏やかなため、海藻などでぎっしりと覆われている。自然観察にはもってこいの場所で、巨大なウミウシをはじめ様々な生物や海藻類を観察できる。が、ここで泳げと言われるとややきつい。その気になれば、フィンとラッシュガードをつけて海藻の森探索というワイルドな遊びもあるが。砂浜からは背後に迫る山からの地下水だろうか。川のように水が砂の中から流れ出していた。
堤防からビーチを望む。鹿島と四国本土に挟まれたこのビーチはとても波穏やか。結構風が強かったのにもかかわらず、波ひとつ立っていない。海の深い緑に鹿島の原生林が映りこみ、不思議な空間を作り出している。
ビーチで遊ぶ妻と娘。常に波と潮流で揺らされる海面が水鏡と化すありえない風景。このビーチはには不思議な海が広がっている。
静かな海がもたらす不思議な風景は海の中にも広がっている。流れが無いからだろうか、栄養度が高くなっているからだろうか。海の中には信じられないくらい海藻が大繁殖している。一瞬とても汚れた海に見えるが、付近の水はとてもきれいだ。よく目を凝らすと、海藻の森の付近には魚影がいたるところに確認できる。もう少し潮が満ちれば、ここをシュノーケルしてみるのも面白そうだ。
島の周囲や山の中には遊歩道で見所も
沖合には、伊予の二見ともいわれる夫婦岩の「玉理(ぎょくり)」と「寒戸(かんど)」が浮かぶ。写真右の島の左側に3つ並ぶ岩のうち、両端の岩がそうだ。ゴールデンウィークには夫婦岩に大注連縄がしめられる神事が行われる。
島は遊歩道で一周できる。が、施設のない島の西側の半周近くは「通行止め」にされている。それはこの鹿島が崩れやすい地層であり、険しい斜面の上から時々石が降ってくるからという理由。確かによく見れば、道の所々に大小の石が不自然に落ちている。とはいえ、フェンスやゲートで道が閉鎖されている訳ではなく、看板とロープがあるだけ。「自己責任」でここを歩く人もおり、島の施設の人も自己責任で歩くなら・・・という感じらしい。この先にはさらに美しいビーチや奇岩、海食洞がある。
鹿島の山のそばには強固なフェンスが作られている。そのフェンスが山から崩れた岩を受け止めてくれているが、大分許容量いっぱいまで近づいてきた。勢い余ってフェンス外にも石や岩が落ちている。通行禁止以外の場所でも、崖下に不用意に近づくのは危険。
鹿島は頂上まで遊歩道がつけられており、キャンプ場と鹿島神社脇から登ることができる。山頂からは絶景、途中の道にはかつてあった鹿島城の遺構がある。この奥には野生のシカも多数生息しており、入口からプンプンとシカ臭さが漂ってくる。うん、奈良公園のあの匂いがここでもする。
今度はキャンプ場とは逆、島の北側に向かって歩く。鹿島でひときわ目につくのが「太田屋」。海に張り出した建物が特徴的。この広い海上の座敷では、名物の「鯛めし」を頂く事ができる。宿泊もできるようで、海を眺めながらの名物に舌鼓を打つ滞在は、また格別に思える。
島の北側、太田屋の横にある海岸。特に何があるわけではないが、ここからの風景も秀逸。かつてはこの浜に鉱泉が楽しめる国民宿舎もあったそうだ。
先ほどの通行止めの遊歩道はここに出てくる。しっかりと整備されている道にも関わらず、通行止めとは残念な限り。
思った以上に楽しかった鹿島。何もないけれども、それでもしっかりと整備されていて、その何もなさが心地よい魅力だ。キャンプ、海水浴、登山、そしてこっそりと島一周。まだまだこの島でやりたいことはいっぱいだ。娘はシカにエサをあげられなかったのでご機嫌斜め(エサを販売する売店が閉まったため)
気軽に渡れるようになった鹿島。また家族でも、僕一人でも訪れてみたいと思う。
北条鹿島近くの気軽に泊まれる宿
家族連れでも安心の全国チェーン
朝・夕食バイキングが500円
北条鹿島
料金: 大人200円 子ども100円 (渡船往復)
駐車場: 約40台 500円 (運転手の渡船料金含む、17時以降の利用、宿泊はプラス550円)
渡船営業時間: 7~21時(1時間2~3便) 4~10月は鹿島発最終便22時まであり
【投稿時最終訪問 2013年5月】