石畳東のしだれ桜
愛媛県の内子町は木蝋の製造で栄え、浅黄色と白漆喰の壁が特徴的な昔の面影を色濃く残す町並みが有名。その内子の中心から車で約30分。北へ約12km。高い山の上に開けたのどかな農村が「石畳地区」。その石畳のシンボルといえるのがこの「石畳東のしだれ桜」だ。
山間の里に咲くしだれ桜の巨木
細い道が導いた山の斜面にしがみつくように民家や畑。少し路肩が広くなったところに車が10台ほど停められるようになっている。迷路のように入り組んだ道は少しわかりにくいが、「しだれ桜」の道標が所々に出ている。
車を停めて少し歩くと、大きな桜が頭上に現れる。これが「石畳東のしだれ桜」だ。
春の訪れと同時に鮮やかな緑色になった小高い丘の上に、巨大な枝下桜がその大きく力強い姿を見せている。
石畳東のしだれ桜は山地に自生するエドヒガンザクラの変種だそうだ。愛媛県の天然記念物に指定された樹齢350年を超える老木。衰えが著しく、一時は枯死寸前だったそうだが、地元の方の努力で息を吹き返した。人の手で、いくつもの支えをその枝に施されている。この桜は、今もここに住まう人に支えられ、その美しい花を毎年春に咲き乱れさせている。
昔は子供たちが幹に登り、枝を揺らして遊んだというが、今はそんなことは許されない。桜の幹、根本には近づけないように柵が張り巡らされている。人間であれ、植物であれ、お年寄りはいたわらなくてはいけない。幹は苔むし、一部崩壊もみられる。この桜の刻んだ年月が、はっきりと刻まれている。
年老いた老木でも、人々に愛される気持ちに応えようと、美しい桜の花を今年もいっぱいに咲かせる。ここは標高が高く、桜の時期は遅いとはいえもう散り始め。眩しい若葉も所々枝からのぞかせるが、それはまだこの木が精一杯生きようという証。老木からは、命の躍動が今もひしひしと感じられる。
小さなお堂が枝垂れ桜の下にある。まるでお堂を桜が守っているかの様にも見える。このお堂には、この桜の魂が神となって宿っていそうだ。
この枝垂れ桜は樹高6m、枝は東西に15mも伸びている。しかし、昭和26年頃の台風で主幹が折れ、その後急激に老化が進んでいるそうだ。主幹が折れる前は高さは20mを越え、枝は30mも広がっていたそうだ。
巨大なしだれ桜が彩る春の山里
見上げる石畳東の枝垂れ桜。お堂の上に堂々と枝を広げる姿はとても美しく、力強い。この美しく年を重ねた桜に詣でる人が続々と下界から険しく細い道を車で駆け上がってくる。それだけこの桜の姿は人の心を魅了してやまない。年配の男性が、この幹に愛おしそうに顔を押しつけて、何か感じ取ろうとしていた。
枝垂れ桜から見下ろす石畳の里山風景。石畳地区にはグリーンツーリズムや景観美化が息づいていて、里のあちこちで美しい春の花が咲いている。遊びにやってきたウグイスの鳴き声が谷間にひびき、とてものどかだ。この枝垂れ桜は里のどこからでも見える。まさに里の守り神であり、里のシンボルでもある。また石畳東のしだれ桜の近くには「石畳清流園」がある。水車小屋や屋根つき橋が復元された日本の農村風景そのものが残る場所。是非一緒に訪れて日本の春の美を感じたい。
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場所: 愛媛県喜多郡内子町石畳地区
交通: 松山自動車道・内子ICより車で約35分
花季: 4月上旬(5~10日ころ)
駐車場: なし(近くに10台ほど駐車可能な路肩あり)
【投稿時最終訪問 2008年4月】