寒風山【愛媛の霧氷・雪山登山】

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意外に思うかも知れないが、温暖な愛媛にもたっぷり雪が降る。いくつもの島が浮かぶ瀬戸内海から一気に2000m近くまで立ち上がる四国山脈は、冬には一面の雪景色になる。その雪景色を楽しむため、標高1763mの『寒風山』への冬山登山だ。
愛媛県西条市から国道194号線で新寒風山トンネルをくぐる。そこはもう、高知県。ここから旧国道で旧寒風山トンネルの入口まで登る。わざわざ高知県に行ってから車で登る理由は二つ。
ひとつは旧寒風山トンネルが閉鎖されている可能性があること。そしてもうひとつは、高知県側斜面が南側になるので、雪が積もりにくいこと。案の上、登山口の駐車場までの道は、一部積雪と凍結があったも、四駆ならノーマルタイヤでも十分登れた。

アクセスしやすい高知県側から寒風山へ

霧氷の山

駐車場につくと、アスファルト以外の地面の上には雪が積もったり、凍結したりしている。付近には霧氷はないものの、見上げると山の木々は霧氷で真っ白になっている。
この日も暖冬で比較的暖かかったが、さすがに標高2000m近く、四国山脈でも指折りの強風の吹くこのエリアだ。純白に輝く霧氷をめざし、登山を開始する。

寒風山冬山登山

登山道には所々雪が残り、凍結している。滑らないように、アイゼンを装着する。稜線が近づくにつれ、美しい景色がどんどん近づいてくる。

寒風山冬山登山

稜線間近まで登ってきた。霧氷の姿が肉眼でもはっきりと見える。
霧氷とは、空気中の水蒸気が寒さで木の枝に凍りついたもの。その姿は、白い花を咲かせた木々や、白いサンゴ礁に見える。特に青空と霧氷の組み合わせは、最高に美しい。

桑瀬峠への登り

稜線までもう少しだ。どんどん空は青く、雪は白く、その色の純度を高めていく。標高があがるにつれ、空気も突き刺すような冷たさになっていく。しかし、山を登る体はぽかぽか、上着を少しずつ脱いでいく。
霧氷を作り出すのは冷たい空気を強く吹きつける風。全ての物を凍てつかせる風。しかし、その風も、命を育む太陽が空に登っている間は、その力を失う。しかし、その恐ろしい風は、空気を綺麗にしてくれる。冬の景色はどこまでもクリアに見える。山の向こうのまた向こうの山まで。どこまでも見えている。
稜線や頂上からの景色。霧氷も綺麗だろうが、遠景も今日は綺麗だろう。瀬戸内海はもちろん、太平洋や四国の地形までもが手に取るように今日はわかるだろう。そんな期待が、山を登るスピードを上げようとする。
山の斜面を登る。冬で雪が方々に残っているのに、体はみるみる熱くなり、汗ばんでくる。下界の音も届かない場所。静寂が支配する中に、響き渡るのは、自分自身の音。激しい鼓動と息遣いだけだ。

寒風山雪山登山

もうすぐ苦しい登りがひと段落する稜線へとたどりつく。稜線からの素晴らしい景色を予感させるように、険しい山の頂が姿を現した。岩肌は凍てつき、無数の大きなツララが方々にぶら下がっている。稜線とは、尾根筋のこと。右も左も山が切り立っている部分で、この稜線の一番高いところが頂上だ。
斜面を登り、稜線に出てると、見える景色は一変する。足元には下界が広がり、目の高さには険しい山々が連なる。稜線はまさに、雲上の世界だ。

北風の通り道「桑瀬峠」から美しい冬の稜線歩き

冬の桑瀬峠

今まで山肌しか見えなかった斜面が途切れ、空が広がる。稜線の鞍部、桑瀬峠に到着だ。
目の前に広がった今まで見えなかった風景。四国で最も高い石鎚山を取り巻く山々。その風景は圧巻で、荘厳。厳しい自然が織り成す、圧倒的な風景だ。

寒風山雪山登山

今まで日の当たる南側斜面を登っていたのでわからなかった。稜線に出て、初めて日の当たらない北側斜面と対面できた。北側斜面には美しい霧氷の森が広がる。そして稜線より高いところにある、山の岩肌は、冷たい風に常にさらされ、真っ白に凍てついている。

雪の桑瀬峠

足元から冷たい北風が山の斜面を一気に駆け上がってくる。その風は登りで火照った体の熱をも一気に奪うほど冷たい。よく見ると、風は真っ白な粉雪を谷から巻き上げながら舞っている。
稜線は雲の上の世界。空と同じ場所にあるわずかな地面は、常に風にさらされる場所。ザックからもう1枚、防寒具を取り出し、身に纏う。手袋もしないと、とても寒い。冷たい風に吹き付けられるが、今日は太陽が守ってくれる。空の上に1本伸びた道のような稜線を歩きだす。風と一緒に青空の中を歩く、足元に美しい景色を眺める散歩道。雪を敷き詰めたその道は、まさに雲上の白いプロムナードだ。

北風に霧氷が舞う稜線は幻想的な世界

伊予富士稜線

霧氷は足元から吹き上げる風に乗り、空に舞い上がった。それも、一斉に。青空に舞った白い雪は、太陽の助けを借りて、真っ白に輝く。

霧氷

冬枯れした木々から飛び立つ霧氷。その美しい光景は、そこに迷い込んだ人を魅せる。カメラマンなら、この光景、自分のものにしたくてたまらない。

霧氷の伊予富士稜線

この光景は、風に吹かれて霧氷が粉雪となって舞い散っておきる。霧氷とは、木々に雪や氷が纏いつき、真っ白になった事。
ここ、寒風山は、その名の通り、寒い風が吹く場所。瀬戸内海から海風が一気に斜面を駆け上り、太平洋へと走っていく。

霧氷舞う伊予富士稜線

霧氷と強風が作り出す美しい冬山の風景に何度も足を止めて見切とれてしまう。冷たい風に舞う氷に巻き込まれると、肌が切れるように痛いが、それでも自然の雄大さを感じる。

霧氷舞う桑瀬峠

風に乗り、空高く舞い上がっていく霧氷の欠片。はるか彼方、雲の向こうには、光る太平洋が見えている。物語のような幻想的な風景だ。

冬の伊予富士稜線

山の頂を連ねる、天空の一本道。その道を行く旅人を見守るように、粉雪はずっと空を舞っている。陽の光を浴び、混じりけ無く真っ白に輝く。その光の中で歩を進める足取りは、励まされ軽くなり、時には魅せられ重くなる。

青空の下に輝く真っ白な霧氷の神秘

霧氷と青空

空に手が届きそうな冬の山の上。青空の中に輝く霧氷は、まるで真っ青な透き通った海に真っ白な珊瑚礁のように見える。

青空と霧氷

青空を背にした霧氷はまるで、紺碧の海の中に輝く真っ白なサンゴ。真っ青な光に包まれても、その白さを失わない。

寒風山の霧氷

霧氷は木の枝に水蒸気や凍りついたり、雪が固まり積もったもの。2000mに近い山の上では、冬は寒い夜が明けると、木々が真っ白になる。夜の氷点下の寒さが、氷の芸術を、険しい山々というキャンパス一面に描きだした。

霧氷

美しい結晶を纏った霧氷。時折強く吹く風に、霧氷はこの結晶を空に放ち、濃紺の空に煌めきを与える。
しかし、この霧氷の寿命もあと数時間。日が高くなれば、霧氷の森は姿を消すだろう。その繊細で儚さが見るものの心を奪う。

まるで物語の世界のような真っ白な美しい森

霧氷の森

空中の森の風景は、真っ白な木々が一面を覆う白く輝く美しい森だ。

霧氷の森

空との大地との境、凍てつく風に晒された稜線の森の木々は、真っ白になっている。四国の冬山らしい、美しい風景だ。
稜線の向こうには、日本三百名山の伊予富士(1756m)が見える。伊予富士も真っ白になり、美しい冬の表情を見せてくれている。

霧氷の稜線

空から舞い降りた風が森の中を通り抜けていく。すると森から霧氷の欠片が白い粉雪のように空に舞う。

霧氷の森

山々に囲まれ、空に包まれた稜線の森。自然に慈しまれた森は、優しく、真っ白に染まる。

霧氷の森

空と地上の境は、現実と物語夢の境界線。おとぎ話や映画の世界に出てきそうな真っ白な森がとても美しい。

雪の稜線から見下ろす瀬戸内海と太平洋

寒風山からの西条市

寒風山稜線から見る西条市丹原町方面。直線距離にして20Km離れている。普段は20km先の景色がこんなにはっきりと見えることはない。冬の北風は、遠くから風景さえも運んできてくれた。

冬の瓶ヶ森

すぐ手の届きそうなところにある瓶ヶ森。しかし、その頂は、ここから直線距離でも6km。それでも山頂に立つ人が見えそうだ。遠近感が全くない風景は、登山者の時間配分さえも狂わせてしまう。

雪の瓶ヶ森

断崖絶壁に立ち、眺める瓶ヶ森(1897m)。北風が突き刺さる絶壁は凍りついている。このクリアな景色を作り出した北風がいかに冷たいか物語っている。

寒風山から見下ろす高知県

今いる場所は愛媛県と高知県の県境。南を見下ろせば、そこは高知県。谷底を走るのは国道194号線。
194号線は遥か彼方、太平洋まで駆け抜けていく。しかし、この谷底を流れる川はやがて大きく進路を東に変える。そして、さらに遠く、徳島県まで流れ、吉野川という、四国を横断する長い川旅をはじめる。この周辺は、四国を代表する大河、吉野川の減流域だ。川はここから山々を深く削り、遥か遠くの海を目指す。

寒風山からの太平洋

標高1700mを越える山々の遥かむこう。いくつもの山々を越えた、空との境。写真の左側に白く光る場所。それは太平洋。瀬戸内海のすぐ近くにあるこの山から、遥か遥か向こうの太平洋が見えている。
ここは瀬戸内海から一直線に15km。そして、ここから太平洋までは50kmも離れている。

雪の寒風山からの瀬戸内海

瀬戸内海を見下ろすと、信じられない景色が飛び込んできた。写真中央に見えるのは「来島海峡大橋」で「しまなみ海道」の橋のひとつだ。
ここから来島海峡大橋までは直線距離で40km。40km先の、全長4kmの大きな橋が、ここから肉眼ではっきりと見えるのだ。今までこんな景色は見た事がない。いかに、この風景を包む空気が透き通っているか。

40kmといえば、大阪駅から京都駅の直線距離。
新大阪駅から関西国際空港までの直線距離。
松山城から大洲城までの直線距離。

さらによく見ると、その後ろの島影の後ろにはうっすらと本州(広島県)が見えている。本州までの距離はここから直線で65kmもある。
温暖な瀬戸内海の島々には雪は滅多に積もらない。その島々と、雪を頂いて真っ白になった木々の写真。まるで、遥か遠くの場所にあるもの同士がくっつけて、1枚の風景になったようだ。

雪山と瀬戸内海

すぐ足元には、旧東予市街が広がる。15km先の町の人々の営みが手に取るようにわかる。
そして、持っていた地図を広げてみる。海と陸との境が、地図と全く同じ形をしているのが面白いほど良くわかる。
寒い寒い北風。しかし、それは、遥か彼方から、見えない景色を目の前まで運んできてくれる。霞と一緒に、空間の距離をも薙ぎ払う北風がもたらしてくれたのは、地球の表面を感じる光景だった。

雪の寒風山頂上からの展望は絶景

霧氷と寒風山

好天の中の冬山、寒風山の登山もいよいよ大詰め。稜線を行く道を、寒風山の頂が手を伸ばせば届きそうなところまでやって来た。
空と大地の境界線である稜線。ここに居ると、一面の青い空というヴェールに全ての物が覆い包まれる。霧氷の森の中から見える瓶ヶ森。青空の下、身に纏う白が眩しく美しい。

冬の寒風山

見上げる山肌。真っ青な空のすぐ下には広がる一面の笹原。所々、雪を纏った潅木と氷をぶら下げた岩肌。一面の青一色のシンプルなキャンパスに描かれた、複雑な幾何学模様のようだ。

寒風山の霧氷

青空を背にした霧氷の枝。それはとても美しい。まるで、雪の花を咲かせているようだ。

冬山登山

一面の青空を取り囲む、雪を纏った地上の物たち。青い空には、風に飛ばされた粉雪が宙を舞う。

霧氷と空

青い空から眩しい光が降り注ぐ。地上の景色は、空と違い、光と影のコントラストに彩られる。

冬の寒風山

青い空から見下ろすと地上はこんな感じだろうか。凍てついた岩は、その寒さに涙か鼻水のようなつららをぶら下げる。そして、そのはるか下には、地上の世界が広がる。圧倒的な高度感に、思わず足がすくむ。

寒風山の霧氷

もうすぐ頂上だ。しかし、空と山の境目は、厳しい世界。容赦なく吹く寒風が、1本のモミの木を完全に雪と氷に閉じ込めていた。

冬の笹ヶ峰

やっと寒風山の頂上に到着した。向こうに見えるのは二百名山の笹ヶ峰(1859m)。
稜線は、青い空との境を描きながら、はるか西の地平線へと続いている。
山の左側が北側斜面、右側が南側斜面になる。北側斜面は、冷たい北風を受け、日が差し込まない冷たい世界。それに対し、南側斜面は、風がさえぎられ、いっぱいの陽射しを浴びる。稜線を境にし、まるで別世界のようだ。

冬の寒風山頂上

青い空の下に広がる大地。大地と空を分かつのは地平線。頂上からの眺めは地球の丸さを感じさせる。
頂上でこの光景とランチを楽しんだ後は下山。どこまでも続く青空と、その下に広がるどこまでも続く風景は下山時も変わらない。しかし、あれだけ真っ白になっていた、雪の花を咲かせた霧氷はもう、姿を消していた。霧氷は地面に落ち、ぬかるみへと姿を変えていた。美しい白に囲まれて道は、あっと言う間に汚れた歩きにくい道に姿を変えてしまった。
明朝にはまた、凍てついた道に変わるぬかるみの中を、青い空に別れを告げて、歩き出した。

寒風山登山に便利な寒風山トンネルすぐの温泉宿

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