日本二百名山・笹ヶ峰【南側・高知県側からの登山】
西日本最高峰の石鎚山付近には1800mを越える稜線が東西に走り、「四国の屋根」と言われる険しい山岳地帯になっている。日本百名山の石鎚山のほかにも、二百名山や三百名山が多数軒を連ねる。その中でも日本二百名山のひとつで、頂上付近に広大な笹原が人気の名山が標高1859mの「笹ヶ峰」だ。
笹ヶ峰の登山口は愛媛県側から林道を走りアクセスするのが最短手段。しかし林道は細く、駐車スペースも十分と聞いたことがなかったので、今まで二の足を踏んでいた。実際、寒風山トンネルや大永山トンネルといった整備された場所から倍近い時間をかけてアクセスする登山者も多い。しかし、近年になって笹ヶ峰にもう1本、登山道が整備された。南側(高知県側)から頂上から派生する尾根を直登するルートだ。登山口は、林道「寒風大座礼西線」の途中にある。この林道はダート道。北側(愛媛県側)からのアクセスよりも悪路だ。しかしダートはたったの3km。そんなオフロード走行の魅力も手伝って、高知県側からの笹ヶ峰直登ルートに向かうことにした。 登山口へはオフロード走行でアプローチ 西日本最高峰の石鎚山付近には1800mを越える稜線が東西に走り、「四国の屋根」と言われる険しい山岳地帯になっている。日本百名山の石鎚山のほかにも、二百名山や三百名山が多数軒を連ねる。その中でも日本二百名山のひとつで、頂上付近に広大な笹原が人気の名山が標高1859mの「笹ヶ峰」だ。
笹ヶ峰の登山口は愛媛県側から林道を走りアクセスするのが最短手段。しかし林道は細く、駐車スペースも十分と聞いたことがなかったので、今まで二の足を踏んでいた。実際、寒風山トンネルや大永山トンネルといった整備された場所から倍近い時間をかけてアクセスする登山者も多い。しかし、近年になって笹ヶ峰にもう1本、登山道が整備された。南側(高知県側)から頂上から派生する尾根を直登するルートだ。登山口は、林道「寒風大座礼西線」の途中にある。この林道はダート道。北側(愛媛県側)からのアクセスよりも悪路だ。しかしダートはたったの3km。そんなオフロード走行の魅力も手伝って、高知県側からの笹ヶ峰直登ルートに向かうことにした。
登山口へはオフロード走行でアプローチ
林道「寒風大座礼西線」の入口。は四国屈指の山岳道路「瓶ヶ森林道」へ高知県側から向かう道の途中にある。瓶ヶ森林道の起点となる、寒風山トンネルのすぐ手前、最後のヘアピンカープにこの林道の入口がある。まるで道を走る人を誘うかのように、広いダート道が開けているので入口はすぐにわかる。さっそくオフロードに飛び込みたくなるが、まずはこのまま道を進む。あと1分も舗装道路沿いに走れば、寒風山トンネルの南口、すなわち瓶ヶ森林道の入口に到着する。ここはこの山域への登山口になっていて、三百名山の伊予富士や寒風山、そして本日目指す笹ヶ峰への登山口になっている。ゴールデンウィーク前半ということもあり、朝早くから登山者でにぎわっている。ダートの林道に入れば、一切トイレはない。ここで用を足してから、先ほどの林道へと戻る。ちなみにこの場所に愛媛県側から向かうには国道194号線で新寒風山トンネルを越えて高知側に抜けてから向かうのが良い。愛媛側から旧道で直接寒風山トンネルを目指すと、寒風山トンネル自体が通行止めになっていて県境を越えられない時がある。この日もそうだった。
寒風大座礼西線の入口。広いダート道に開放的な風景、そして笹原の稜線が広がる風景。林道入口はとてもウェルカムな風景で心弾む。
走り始めてややすると、先ほどのウェルカムな風景は無くなり、険しいダート道に変わる。路面は砂利の駐車場などの走りやすいものではなく、岩盤むき出しや大きな岩が残るの結構ハードな路面。通常の車でも走れない事はないが、やはりSUVタイプの四駆でないときつそうだ。一瞬、登山口に自転車をデポしようかとも考えたが、大きな岩が路面に転がっているので相当に走りにくい。ただ、道路の幅は思ったほど狭くはなく、万が一対向車が来ても離合できる場所は多い。おそらく、工事用の重機が入れるように道幅を大きく作っていそうだ。見通しも良く、万が一対向車が来てもかなり早い段階で発見できる。しかし斜面から転がり落ちている石が目立つ。
途中、水量の多い沢を渡る。ここには立派な橋が架けられている。あまりにも橋が立派で、今までの林道ダートより安全に感じる。ここで車を停め、いったん休憩。
橋の上から眺める 沢には目指すべき笹ヶ峰を源にした水が流れ落ちいている。深緑の中、清涼な水音とマイナスイオンにはとても癒される。
笹ヶ峰登山口に到着。登山口の前は広くなっていて、ざっと10台は駐車できる。付近はなだらかな人工林なので、落石の心配もない。この日はゴールデンウィークの前半。先ほどの瓶ヶ森林道入口の一般的な登山口は満車だったのに、ここはたったの3台だけ。しかも全部四駆タイプの車だ。結局、この日の登山者の車はこれだけ。帰りも工事関係車両と思われるプロボックスとすれ違っただけだった。
スタートは樹林帯を行く急登
笹ヶ峰南側登山口の入口。簡単な看板が立っていて、昼でも暗い杉林の中へ道が続いている。この看板は運転しながらでも発見できる場所にある。車が止められそうな広い場所にでたら、左側を注意していれば見落とすことはないだろう。
スタート地点の標高は約1150m。ここから1859mの頂上までまで、標高差700mを最短距離で稼ぐ急登ルートだ。スタート直後は植林された人工林を行く。深く暗い森の中に道が続いている。地図を見てもわかるが、登山道は頂上から派生する稜線を直登していく。最短距離で登頂できるが、その分傾斜はなかなか急だ。
しばらく登ると植生は変化し、ブナが混在する自然林に姿を変える。足元の笹も密度が濃くなっていく。所々、巨大な杉の巨木がそびえたち、深く手付かずな森の風景を楽しませてくれる。
コース中に1か所、急な斜面にロープが設置されている。危険場所は少ないが、やや粘土質の地面で急勾配が続く。天候が悪い時はあまり足元はかなり注意が必要なルートだ。
さらに進むと、ブナの巨木が立ち並ぶブナ林に突入する。木々の間隔も空いていて、相当に開放感がある森。このコースの見どころのひとつともいえる。
ブナの木々も少なくなり、付近はダケカンバの森に変わる。標高はまだ1600mにもまだ到達していないが、瀬戸内海から一気に2000m近くまで立ち上がる独特な石鎚山系の地形は、しばしばこんな低標高でも森林限界を迎える場所がある。信州での高い場所でダケカンバの森をよく見かけるが、四国でもこれだけのダケカンバの森がある。このダケカンバの樹高が低くなると、いよいよ森林限界だ。
低くなったダケカンバの森の向こうに寒風山(1763m)が見えてきた。その名の通り、冬には強烈な北風が吹き抜ける山。この付近が森林限界を越えるのも、海を渡る強烈な寒風がもたらす風景なのだろう。
ダケカンバの森抜けると一面の笹原が広がる風景
ついに森は姿を消し、目の前広がる一面の笹原が現れる。「笹ヶ峰」という名前の通り、一面の笹に覆われた美しい山容だ。空の彼方まで続く広大な笹原は開放感にあふれる見事な風景。これぞ四国の山という素晴らしい眺めだ。森の中の容赦ない登りで噴き出した汗も、笹原を渡る涼しい風にピタリと止まる。とても気持ちが良い。この笹原に出ても、頂上目指して直登あるのみ。
容赦ない急斜面の登りは思った以上に体力を使う。笹原に出てからなかなか前に進まない。何もない草原がずっと向こうまで広がり、遠近感を狂わされているのもあるのだろう。いったいどれだけ進んでいるか、わからなくなる。そんな時は、寒風山から派生する稜線が目印。この稜線に近づけば近づくほど、頂上が近い証拠だ。
右側に目をやると、「ちち山」(1855m)を経て続く稜線。この付近にも見事の笹の草原が広がっていて、その下部に広大な原生林が広がる。急峻な山脈に広がる笹原。四国山地の特徴を絵にかいたような見事な風景だ。
登れども登れども、頂は近づいてくる気配がない。この美しい風景が無ければ、なかなかつらい状況である。余談だがこのコース、腰を下ろして本格的に休憩する場所がない。樹林帯では急斜面で木々が密生しており、平地や広場と呼べる場所は皆無だ。笹原に出てからも御覧の通り、笹の中を細い道で進んでいくのみ。唯一、頂上にほど近い場所に、すわり心地のよさそうな巨石があるくらい。ランチはコース途中でなく、頂上でとるように計画したい。
寒風山のピークが下になり、稜線が同じ目の高さになってきた。もうすぐ頂上だ。さて、山登りをしていると「偽ピーク」に何度も泣かされる。ずっと見えていたピークが頂上と思っていたら、そこに立つとさらに上がある。よくある経験だ。おそらく、この笹原を登る途中、見えているピークは偽ピークだろう。そう思いながら進んだが、やはりそれは偽ピークだった。しかし嬉しいことに、偽ピークに出ると、すぐ上に頂上が見えていた。やっとこの苦しい登りから解放だ。
頂上へ向かう前、来た道を振り返る。山肌を縫うように延々と続いているのが林道「寒風大座礼西線」。笹原が細まり、途切れる所から稜線は森になって落ちていく。その真下に上り始めた地点がある。写真右側に続く林道を登山前に車を走らせた。こうやってスタート地点に続く道が見えると、自分の足で稼いだ高度が手に取るようにわかり嬉しい。天気が良ければ太平洋を稜線の間に見ることができる。さて、先ほどまでの快晴は吹き飛び、急に雲が増えてきた。山の天気は変わりやすいとはいえ、かなりの予告なしの急変だ。頂上への歩を早める。
瀬戸内海と太平洋、四国を展望する笹ヶ峰頂上
やっと笹ヶ峰頂上(1859m)に到着。頂上は今までの笹まみれの急斜面とは違い、とても広々とした平地で笹もない。やっとゆっくりと腰を下ろして休憩ができる。が、急に吹きだした風。4月末の陽気は初夏を思わせるようだったが、まだまだ風は冬の冷気を忘れていない。じっとしていれば震えるような寒さを思い出させてくれる風。ここは風の吹き抜ける場所だというのが実感できる。防寒具を着込み、小さな社が建つ石垣の影に身を潜めて昼食を貪る。
頂上からの風景。まずは西側。笹原の向こうに見える稜線で連なった山が「寒風山」(1763m)
その奥へ稜線沿いに「伊予富士」(1756m・三百名山)
続いて稜線を右に進みひときわ高いピークが西黒森(1861m)、そのすぐ横が瓶ヶ森(1896m・三百名山)
瓶ヶ森の後ろにかすむ山が、西日本最高峰の石鎚山(1982m・日本百名山)
笹ヶ峰頂上からの眺めは1800m級の山々が峰を連ねる四国有数の山岳地帯。そのダイナミックな風景は飽きることが無い。こうやって見ているとここから石鎚山まで稜線を縦走してみたくなる。山荘やキャンプ適地があるので、十分可能だ。しかし、この四国有数の山岳地帯は、四国でも人気のドライブルートでもある。実は寒風山と伊予富士の間に「瓶ヶ森林道」の入口がある。伊予富士直下までに標高を上げ、その後は標高1500~1600mをこの稜線沿いに名峰の直下を走っている。ちょうど稜線の向こう側になるのでここからは見えないが、雲上の笹原を走る山岳道路は最高だ。
北側の眺め。天気が良ければ瀬戸内海が見える。桑瀬峠から寒風山をへて笹ヶ峰に続く稜線は、北側に前衛の山を持たず、直線的に谷が海に続く。そのため、北風を直接に受ける主稜線になっており、この付近の見事な森林限界の原因のひとつである。冬の寒風山には2回登ったが、風が吹き抜ける場所に出ると本当に北風が強くて寒かった。
西側の眺め。向こうに見えるピークはちち山(1859m)。ちち山の向こうにかすむのが赤石山系と別子銅山。赤石山は花の名山。別子銅山は日本三大銅山として数十年前まで煤煙を上げていた山。現在は森に還り、森の中に眠る産業遺産群が人気を集めている。
南側、登ってきた斜面を振り返る。頂上直下にはなだらかな斜面の広い笹原になっている。この笹原の端が、登山中に下から見上げた時の偽ピークになっている。
組まれた石垣に身を隠し、風をやり過ごす。空に突き刺さったかのように聳える山々の頂と同じ高さにいる。それは美しくも厳しい風景。大自然の中に身を置いている事を実感しながら、下山の支度をする。
急下降の下山のために体力は残しておこう
下山開始。祠のある石垣の南側からが寒風大座礼西線林道への下山口にあたる。今回僕はこのルートを往復したのだが、多くの人はここを下山ルートにしている。瓶ヶ森林道入口に車を置き、桑瀬峠まで登り、寒風山を縦走して笹ヶ峰に至る。そして、ここから笹ヶ峰の南側へと下り、林道「寒風大座礼西線」を歩き、瓶ヶ森林道入口に戻っている。ソロでもMTB、パーティーなら車2台を用意すれば、デポをするのも比較的簡単そうだ。
壮大な笹原を下っていく。雄大な四国の山々と笹原を見下ろしながら下るのは気持ちがいい。が、この下りは結構ワイルドだ。急な下りなので足への負担が大きい。特に樹林地帯に入ってからの急な下りは厳しく、木々に手をかけながらゆっくりと下っていく。柔らかい地面の土も手伝って、このルートの筋肉への負担は容赦ない。下りなのに汗だくになるという、なかなか手ごわい。一気に標高を下れたが、登山口にたどり着いたときは足はガクガク、汗はダクダク。
特段の危険場所はなく、オフロード走行ができる車と技術があったり、4kmの林道歩きを登山後にできる体力があれば有意義なルート。とにかく静かな山行とダイナミックな風景を楽しませてくれるルートだった。
笹ヶ峰の高知側からの登山に便利な宿
笹ヶ峰を南側(高知側)から登山をする場合の起点は国道194号線、寒風山トンネル南側出口付近から林道をアクセスすることになります。この寒風山トンネル南側に位置する温泉宿が「木の香温泉」です。道の駅になっており、特産品の購入はもちろん、今登ってきた山々の麓で浸かる露天風呂は格別。落ち着いた山の宿としての宿泊もできるので、登山の前後に利用したい宿です。
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