雪の石墨山【石鎚山を展望する霧氷の稜線】

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この日は日本三百名山のひとつ、標高1756mの「伊予富士」に会社の上司と登るつもりだった。しかし、直前に記録的な大雪が降った。石鎚山の東側に位置する伊予富士にも雪がたっぷりだろうと喜んでいたが、日が全く照らない曇天の寒い日が続き、今まで見たことがないくらい、石鎚山が真っ白になった。信じられないくらいの雪の量だ。これはうかつには近づけない。急きょ行先変更。向かったのは石鎚山や伊予富士を遠望できる標高1456mの「石墨山」だ。石鎚山の西側にあるので大雪の影響も少なく、見上げるときれいな霧氷も付いている。これなら心配も少なく登れそうだ。

冬の石墨山登山口までのアプローチ

雪の国道494号線

石墨山の登山道入り口。小さな看板が立っているところから山に入っていく。アクセスは国道494号線。うっすらと雪が積もっているがアイスバーンなどはない。4WDならノーマルタイヤのままここまでは軽々登ってこれる。1~1.5車線の道が続くが、この状況なら交通量も皆無といえるので、離合の心配もしなくてよい。

冬の石墨山登山口

登山口に車を停め、アイゼン装着をする。久々に、土を1回も踏まずに頂上までの雪道を楽しめそうだ。
登山口からはしばらく人工林の中の登り。その後、開けた場所に出ると、東温高校の山小屋がある割石峠に到着だ。ここから幼木が密生する斜面を登っていく。雪の量も少しずつ増えてきた。

石墨山稜線へは一直線の急登!

雪の石鎚山

振り返ると、真っ白に雪景色した石鎚山が神々しくそびえている。とても温暖な愛媛県の風景とは思えない。まさに信州の2000m級の山の姿だ。

雪の石墨山登山

割石峠から、石墨山稜線を目指す道には「つづら折り」という言葉はない。山の斜面を緩やかだろうが、急だろうが一直線に登っていく。そのためこんな、ロープにつかまらないと登れないような急な坂もある。雪の積もった急坂を登るのは、なかなか疲れる。

稜線には真っ白な石鎚山の展望や霧氷の森が広がる!

雪の石墨山

やっと稜線についた。待っていたのは、素晴らしい雪と霧氷の絶景。「うおお~、すごい」思わずその美しさと急登を登りきった喜びに声を上げる。写真左上には、遠く瀬戸内海に浮かぶ島々も見えている。

雪の石墨山

霧氷の向こうに望む石鎚山。石鎚山の頂付近は深い雪が積もり、すそ野の下の方まで霧氷がびっちりと覆っている。雲の上に頭を出した、西日本最高峰らしい、素晴らしい山容だ。

雪の石鎚山

石鎚山をアップで。写真中央のちょうど中央の尖っている部分が石鎚山頂上。写真ではわかりにくいが、この尖っている部分は山肌でなく、石鎚頂上小屋だ。普段ならここからその形ははっきりとわかるが、すっかり雪に埋もれてしまっている。石鎚は相当な積雪だったと容易にうかがい知れる。やはり、今日は石鎚山系に行くのはやめて、この石墨山に来て正解だった。霧氷もきれいだし、軽アイゼンが気持ちいい雪の深さだし、何といっても石鎚の眺めが良い。
ここからはこの美しい石鎚を左に眺めながら、霧氷となったブナ林の中を抜ける雪の稜線を行く。美しい風景を楽しみに、霧氷の森の中へと入っていく。しかし、稜線に出てから、一気に気温が落ちてきた。歩き始めたころには、登りで火照った体は、稜線を渡る冷たい冬の風に一気に冷やされていた。まだ登りは続くが、今までの這い上るような道ではない。稜線を行く道は、霧氷の森へと続いていく。

霧氷

稜線歩きで目を楽しませてくれるのが霧氷。先日の大雪と寒波でとても立派な霧氷ができている。まるで白い葉や白い花をつけたような、真っ白な雪化粧をした木々がとても美しい。下界の濃紺色の森を背にした霧氷の森は、とっても美しく幻想的だった。

雪の石墨山

霧氷の森を行くと、突然目の前が開け、一面の笹野原が広がるところがある。ここからは、四国カルスト周辺の、雪化粧した山が見渡せる。一面を雪に覆われていた霧氷の森も良かったが、こういった開放感抜群の展望も良い。

冬の石墨山

霧氷の向こうに、麓の里山を望む。まるでその風景は雪国に来たみたい。山深い愛媛県がもつ、温暖な海辺の風景とは違う、もう一つの顔だ。

石墨山の霧氷

ここは僕が石墨山の一番お気に入りの眺め。すそ野へと広がっていく霧氷の山肌がとても美しい。秋にはここは、紅葉が駆け下りていくグラデーションが楽しめる。

稜線唯一の難所を越えたらプチラッセル!

雪の石墨山の岩場

僕が大好きな風景を望めるところは、この石墨山の唯一の難所でもある。向こうに石鎚山を望みながら、切り立った崖の上を通過しなければならない。夏場でも慎重さを要求される場所に、たっぷりと雪が降り積もっている。が、凍結していなかったこと、雪が岩の隙間に降り積もっていたこと、アイゼンを装着していたこと。それらが幸いして、雪がない時よりも簡単に岩場を越えることができた。
雪の登山道は夏場に比べて歩きにくいと思われるが、アイゼンを装着すると状況は一転する。雪が山肌の凹凸を隠してくれて、自分のペースで歩けるようになる。特に下りは雪がクッションになるので急斜面を走り下りることも可能だ。

雪の石墨山

岩場を過ぎた所から、道に踏み跡がなくなっている。どうやらここから先は、先日大雪が降ってから登山をした人がいないようだ。否応なしに新雪を踏みながらの登山がここから強いられる。
ふっかふかのバージンスノーを踏みしめながら歩くのは気持ちいい。が、問題は山積みである。まず、登山道が雪に埋もれているので道がわからない。これは、この道を歩いたことがあり、ある程度ルートファインディングができないと、先には進めない。おそらく先ほどまでの足跡の主は、ここから先の道がわからずに引き返したのだろう。僕は道を知っているし、道の隠れた雪道は何度も歩いているので、それは問題がなかった。
しかし、本当の問題はラッセル(もどき)だ。すでに雪の深さは相当なもので、木々の幹を見てもかなり深く埋もれている。1歩足を踏み出すと、膝くらいまではずっぽりと雪に埋もれる。一番先頭を歩く人間は必然的に雪を踏み固めなければならない。雪に埋もれた足を引き抜くのは、想像以上に重労働だ。本格的な雪山の腰まで埋もれる深さではないが、それでも先頭を歩くのはとても疲れる。二番手以降の人は先頭の人が踏み固めた雪の上を歩けるのでまだ楽なので、通常雪山では先頭を行く人をローテーションで交代する。が、僕は今日、「会社の上司」と来ている。しかも上司はスパッツなどの雪を防ぐ装備がなく、この道も初めてだ。一応、「新雪の感触、楽しみますか?」と尋ねてみたが、あっさりと拒否された。決定だ。僕が頂上まで、ぜーんぶラッセルしないといけない・・・
新雪の急斜面は特にしんどい。ここだけは太もも近くまで雪に埋もれる。途中、何度も何度も雪の中に手をついて倒れそうになる。写真を撮る為に、ストックをザックに取り付けていたので、バランスがとれない。カメラをザックに入れて、ストックを取り出そうかと思ったが、頂上はもう少し。そのまま歩き続ける。こういった道を行く時はやはり、スノーシューがあると助かると思った。

雪に埋もれた真っ白な石墨山頂上

雪の石墨山頂上

やっと到着。標高1456mの石墨山頂上。頂上はまだ大雪の後、誰も立っていない。足跡ひとつない、ふっかふかの新雪に覆われた頂上なんて初めて来た。僕が一番乗りだ~。新雪に覆われた頂上に、僕は一番乗りで雪塵を舞い上げながら飛び込んだ。
無事に新雪の石墨山山頂に到着。頂上からは東側180度の展望しかないが、それでも石鎚山・瀬戸内海・太平洋方面の主要な眺めはすべて網羅している。ここは最高の展望の山でもある。

冬の石鎚山

石墨山頂上から見た西日本最高峰の石鎚山。霧氷の向こうに見る真っ白な山は、温暖な愛媛県の風景とは思えない。標高1982mの石鎚山の左側には山が続いていない。かすんでいて見ないが、石鎚山から下っていく山の稜線はすぐに瀬戸内海に没するのだ。穏やかそうな瀬戸内海だが、石鎚山付近だけは、一気に海から2000m近くまで山が立ち上がっている。

雪の石墨山頂上

さて、僕は石墨山に冬に登るのは初めてだ。ここが頂上であるのは地理的にも、見える風景からも間違いないと確信していた。しかし、あるはずの頂上の看板がない。この大雪で新雪の中に埋もれているに違いない。万が一、後でここが頂上でなかったなんてことになると、上司を連れているので大変だ。新雪で道が見えないところを雪をかき分けて進んできたのだから十分にあり得る。
必死に記憶を頼りに、山頂の看板をあるだろう場所を掘り起こしてみる。あった。意外に簡単に見つかった。よかった。ここが頂上に間違いない。頂上に立った確信を得れたら、頂上からの展望を楽しむ。

石墨山から展望する真っ白な四国の山々の絶景

雪の石鎚山

まずは西日本最高峰の霊峰、石鎚。写真中央が最高峰の天狗岳。そのすぐ左の岩の塊が頂上の弥山だ。こんなに雪深く険しい石鎚の表情はなかなか見れない。

冬の四国の山

左の真っ白なところが石鎚山。石鎚山から右方向に標高が1700~1900mの名山が連なる稜線が続く。四国でも指折りの登山者に人気のエリアだ。写真右下の方に見える湖は面河ダム。その真上方向、石鎚山からの稜線が真っ白になっているところが、今日行くつもりだった伊予富士や寒風山がある山域。あんな真っ白になっているとは・・・6本爪アイゼンにストック程度ではやはりこの石墨山にルート変更して正解だったと思う。

冬の四国カルスト

南側を見ると、日本三大カルストのひとつである、四国カルストの山々(左奥の山)秋吉台、平尾台と比べ、四国カルストは標高1500m近いの山の上に広がる雲上のカルスト地形。小さいながらもスキー場のある四国カルストの天狗高原は、雪で真っ白になっていた。
さて、本当なら頂上で熱いコーヒーでも入れてランチを楽しみたいところだ。が、温度計は氷点下4℃を指している。冬山なら特に寒い気温ではないが、温暖な愛媛としてはかなり寒い。しかも瀬戸内海の上空を冷たい北風が容赦なく渡って来て稜線に吹きつけている。体感温度はもっと低い。
カメラを操る僕の手が、かじかむのを通り越した感覚になってきた。感覚になるというより、感覚がなくなってきている。一眼レフもあまりもの寒さのため、フル充電したはずのバッテリーがもう電池切れ寸前だ。
ここでの昼食は諦め、パンを素早く食べたらすぐに出発することにした。北風がひどい稜線を下りてから、一息つくことにした。復路の下りは登りとは違い、雪に自分たちがつけた足跡があるので道を探す必要はない。それに下りは雪がクッションかつ、足場になるのでとても楽だ。無雪期には木の枝を持ちながらゆっくり下りないといけない急斜面でも、走り下りることができる。雪煙を巻き上げながら、坂を走り下りる楽しみは、冬の山ならではの楽しみのひとつだ。

美しい雪景色を眺めながら早足で下山

雪の石墨山

あっという間に岩場まで戻ってきた。振り返ると、先ほどまでいた標高1456mの石墨山の頂上が、もうあんなに遠くになっている。

冬の石鎚山

岩場の向こうに見える石鎚山。何度見ても、その雄大な風景は飽きない。しかし、今から霧氷の森に入るので、しばらくはその姿ともお別れ。

石墨山の霧氷

霧氷の森の中も面白いように下っていく。稜線に吹きつける北風は、森の中では幾分マシになった。あっという間に稜線の終着。霧氷の森を抜けると、空の様子は一変していた。・・・晴れてきた!

エビノシッポ

雪が作り出した芸術品が無造作に雪に突き刺さっていた。凍てつく風が作り出した氷の芸術。この氷がもっと成長すると「エビノシッポ」になる。雪に落とす影も何だかいい味を出している。

雪の石墨山

太陽に照らされ始めたパウダースノー。そのきめの細かさがよく分かる。しかし日が出てもまだ、稜線を吹き抜ける風は身を刺すように冷たい。

雪の石墨山

霧氷の向こうに見下ろす里山。雪が田に所々残るまだ寒い山あいの集落だが、この雪に閉ざされた稜線から見るととても温かく見える。

石鎚山と霧氷

青空を背にした石鎚山。霧氷も日の光を浴びて、その白さを際立たせる。頂上からこの青空を見たかったなぁ。しかし、山の天気だけはどうにもならない。稜線を下る直前に石鎚山が青空の風景を見せてくれただけでもありがたい。

霧氷

雪のない下界の暗い濃紺の森を背にした霧氷が美しく太陽に輝く。青空を背にした霧氷も美しいが、黒を背にした霧氷の姿もとても際立つ。
ここからはロープを掴んで登って来た急な坂を下って下山する。しかし雪に覆われた急坂は登りとは違ってとても楽。気ままに踏み出した1歩を装備したアイゼンはがっちりと雪をとらえてくれる。ストックを装備していれば滑るように駆け下りていけるが、もうストックを準備するのも面倒くさい。それでもあっという間に急坂を下り切り、東温高校の小屋まで降りてきた。
ここまで下ると凍てつくような風は吹かない。雪に覆われた世界だが、厳しい寒さはない。ここで温かいコーヒーを入れ、遅めのランチ。
駐車場まで戻ると、林道の雪はすっかり融けていた。冬が見せた特上の銀世界を堪能し、車を下界まで走らせた後は、人気の温泉でゆっくりと冷え切った体を温めた。

石墨山近くの人気の温泉には宿泊も可能

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