少し遅めの静かな水芭蕉の尾瀬【御池~尾瀬ヶ原】

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標高1500m前後に広大な湿原や沼が広がり、日本百名山「燧ヶ岳」「至仏山」に囲まれた尾瀬。名曲「夏の思い出」に歌われたことで、多くの人が知る場所となっています。夏の尾瀬は都会に比べて相当に涼しく快適ですが、夏が訪れる前、尾瀬には水芭蕉が一面に咲き誇ります。その水芭蕉の時期の尾瀬はとても美しく人気のシーズンです。尾瀬の水芭蕉の見頃は例年5月末~6月中旬頃。年によって見頃のピークは変わってきます。桜が早く咲いた年はかなり水芭蕉の時期は前倒しになります。そして、水芭蕉のビークの時期には尾瀬は登山者で大渋滞なのです。少し水芭蕉の見ごろを過ぎた頃に遅めの時期に尾瀬を訪れてみてはいかがでしょうか。驚くほどに人は少なく、場所によっては美しい水芭蕉の群生も残っています。

尾瀬ヶ原と尾瀬沼両方行くなら「御池」から入山が便利

尾瀬御池

尾瀬は気軽に訪れる事ができるイメージですが、基本は登山。道はよく整備されていますが、どんなに近い登山口からでも1時間以上は歩かないと尾瀬の風景にたどり着くことはできません。そのため多くの人は尾瀬の中で宿泊することになります。尾瀬には多くの山小屋がありますが予約が必要になっていますので、まず最初に宿泊の予約することから尾瀬の旅は始まります。
マイカーやレンタカーで首都圏から尾瀬に向かい、人気の尾瀬ヶ原と尾瀬沼を両方行くなら、車での走行距離は多少伸びますが福島県側の御池からの入山が便利です。ここには「尾瀬御池ロッジ」があって宿泊はもちろん500円で日帰り入浴することもできます。また無料の「尾瀬ブナの森ミュージアム」があり、ロッジの売店も充実しているので、下山後にゆっくりするのもいいでしょう。

御池駐車場

御池駐車場は有料駐車場となっています。水芭蕉のシーズン中は400台もある駐車場も満車になり、下界にある七折駐車場からここまでシャトルバスでのアプローチになります。水芭蕉のシーズンの終盤なら、登山として決して早くない朝8時前でも比較的空きがあります。

御池から尾瀬ヶ原へは3時間の山旅

御池登山口

御池登山口から尾瀬ヶ原に向けて出発。尾瀬ヶ原の入口となる温泉小屋まで約3時間の行程です。実は御池の標高は1500mで尾瀬ヶ原の標高は1400m。登山口から目的地の方が標高が低いのです。尾瀬ヶ原までの道は燧ヶ岳の山麓を巻き、なだらかに降りて行くものだとくと思いきや、最初に樹林帯の中を約30分緩やかに登る道が続きます。

尾瀬上田代

樹林帯を抜けると、上田代、横田代など、田代と名がつく湿原が立て続けに現れます。尾瀬ヶ原に着く前に尾瀬の雰囲気を感じる事ができます。この日は天気が悪く視界が限られていますが、天気が良いと頭上には美しい燧ヶ岳の姿を望む絶景トレッキングとなります。

尾瀬天神田代

天神田代までくると、湿原とはしばらくお別れ。その代わりに多くの池塘が水を湛える美しい風景を見ることができます。なお、尾瀬の登山道にはすべて木道が敷かれており、地面を歩く場所は相当に限られています。階段もすべて木道となっているのは尾瀬への環境ダメージを減らすため。そのため木道以外の場所を歩くことは禁止されています。所々すれ違いのための木道や複線化されているところもありますが、多くの人が入山するシーズン中は追い抜きもすれ違いも困難な場所が多くあり、通常よりコースタイムを使うため注意が必要です。

裏燧橋

湿原が連続する区間の最後には「裏燧橋」という吊り橋があります。丈夫で揺れることはほとんどありません。燧ヶ岳から流れ出す谷川を見下ろしながら、先に進みます。

尾瀬の原生林

吊り橋から先は深い原生林の中を進みます。付近には巨大な杉やブナが点在しており、とても神々しい森です。ふと、森の中のブナを見ると、幹に文字が刻まれている個体を時々見かけます。素人目にもつい最近刻まれたような痛々しいものではなく、しっかりと木肌に同化しており、しかも人間の背よりもかなり高い場所に。これらは、まだ尾瀬が開発されていなかった頃、この付近で狩猟を行っていたマタギが残した「鉈目」というものです。道標や自らの縄張りを示したものだそうで、相当に背の高い場所に刻まれているのは深い雪の季節もこの森に入っていたということでしょう。残念ながら、鉈目を真似した痛々しい落書きも多数目にしました。鉈目は昔の人間の生活の痕跡であり、落書きのような低俗な行為ではないので、こういった軽々しい行為は控えるべきです。

尾瀬の原生林

兎田代分岐をすぎると名瀑百選、尾瀬から集めた水が豪快に流れ落ちる「三条ノ滝」へ向かうことができます。ただこの日は予定より御池への到着時間が遅れたため、残念ながら滝へのアプローチは諦め、尾瀬ヶ原へと向かいます。三条の滝を経由しなければ約40分のショートカットになります。

燧ヶ岳の北側を進んでいた道は、西側を南下し始め、緩やかに標高を下ていきます。途中、燧ヶ岳に源を発する大燧沢まで降り、清冽な流れを小さな橋で渡ります。谷底を流れる生まれたての川はとても冷たく、歩いて火照った体を癒してくれます。せせらぎが響く谷底には水の香りとマイナスイオンに満ち溢れています。

尾瀬ヶ原北端の山小屋は温泉やテラス完備で快適!

大燧沢

しばらく進むと、尾瀬ヶ原温泉休息所に到着します。ここでは多くのベンチが無料で開放されているので、尾瀬の風景を早く見たいという誘惑に打ち勝てるならば、少しゆっくりとするのもいいかもしれません。また、休憩所のすぐとなりには「元湯山荘」があり、宿泊はもちろん、食事や売店での購入も可能です。なお、駐車場からここまで約3時間の行程でした。

尾瀬温泉小屋

元湯山荘の少し先には「温泉小屋」があります。温泉小屋はその名の通り、尾瀬でも数少ない温泉を楽しめる山小屋。さらには尾瀬の湿原を眺められるベンチやソファーが置かれた快適なウッドデッキのカフェテラスがあり、静かで快適な滞在ができる山小屋です。静かで快適な温泉付きの滞在を求めるなから、この「温泉小屋」がオススメです。

■温泉小屋の宿泊記事

尾瀬ヶ原最大の宿泊地「見晴」

尾瀬ヶ原

温泉小屋にたどり着くと、初めて尾瀬ヶ原の姿を目にします。尾瀬ヶ原の北側、入り江になったような場所で全貌ではありませんが、その美しさと広大さは今まで何ヵ所か見た田代と呼ばれる小規模な湿原とは桁違いです。

尾瀬ヶ原見晴と燧ヶ岳

温泉小屋から尾瀬ヶ原を進むと、約40分で「見晴」という場所に着きます。6軒の山小屋がある、尾瀬の中でも一番大きな宿泊地です。深い森を背に、目の前には一面の尾瀬ヶ原と至仏山を一望できます。その名の通り、尾瀬を見渡せる絶景の宿泊地です。

弥四郎清水

見晴には「弥四郎清水」が湧き出しており、登山者の憩いの場所になっており、透き通った冷たい湧水が喉を潤してくれます。かつてこの見晴らしに最初に小屋を建てた橘弥四郎氏の名前をとって名付けられた湧水。この湧水がこの場所にあったからこそ、これだけ多くの山小屋の集積地として発展できたのでしょう。

尾瀬ヶ原の中心、水に恵まれた「竜宮」

尾瀬ヶ原を流れる小川

燧ヶ岳の山麓の「見晴」から、尾瀬の向こう側、至仏山の山麓「山の鼻」まで尾瀬ヶ原の真ん中を一直線に木道が貫いています。対岸まで歩いて2時間かかる、その先も見通せない長い長い木道。尾瀬のメインルートをこの見晴から歩き始めます。木道の下に幾筋もの小さな流れを眺めながら歩を進めます。見頃は過ぎたとはいえ、まだ白い花を残している水芭蕉の個体もいくつか見ることができます。

尾瀬ヶ原

尾瀬ヶ原の中まで来ると、前後左右360°どちらを向いても広大な湿原が広がります。標高2000mを越える百名山である至仏山、燧ケ岳の双方はもちろん、その周囲も1800m前後の山々が取り囲んだ広大な湿原はまさに別世界。高い山々が幾峰もそびえる中に、これだけ広大な平地があるのはとても不思議な光景です。

沼尻川

途中、尾瀬沼から流れ出している沼尻川を渡ります。川の流れに沿って湿原の中に小さな森が形作られています。森の中の川には橋がかけられており、美しい流れを越えて先に進むことができます。

竜宮小屋

沼尻川を渡り、森を抜けたところに「龍宮小屋」があります。森に包まれ沼尻川のせせらぎを聞きながら湿原を目の前に望む静かな一軒家の山小屋です。

尾瀬ヶ原竜宮

見晴より約30分で「竜宮」という場所にたどり着きます。ここには木道の十字路がありその付近にはテラスやベンチが設けられていて、この絶景の中で小休憩ができるようになっています。池塘が尾瀬の山々と空を映し出し、とても素敵な風景を描き出してくれています。

尾瀬ヶ原竜宮十字路

竜宮十字路から少しだけに死に進むと「竜宮現象」を見られる場所があります。多くの人が集まるこの付近は、複線の木道が2本も通されています。まず、竜宮現象入口と書かれた案内板に従い、木道を歩いていきます。

尾瀬ヶ原竜宮現象

竜宮現象を起こしているのは小さな小川。上流から流れてきた小さな流れが、突然湿原の中で小さな淵になったかと思うと、その先に流れがなくなっています。水がとめどなく流れてきているのに、不思議なことに淵から水はあふれず、まったく水位は変わりません。実は湿原の地下には伏流水を通す地下水脈があります。ここにはかなり大きな天然の地下水路があり、排水溝に水が吸い込まれるかのように水が動いています。

竜宮現象

今度は竜宮現象出口と書かれた場所に向かいます。先ほどの入口から約50m程離れた場所にに小さな淵があり、こんこんと水が湧き出し、何事もなかったかのように小川となって湿原の中を再び流れていきます。足元の目の見えない場所で、幾重にも重なるように水が動いている湿原の不思議さ。それと同時に木道がなければ進むことどころか、とても危険な場所だとひしひしと感じます。

尾瀬ヶ原と至仏山

西へ向かって木道を進むと、その目の前には雪をいまだに頂く至仏山の雄姿が見えます。30分は見晴から歩いたのに、それでもまだまだ尾瀬の対岸は遠く、その広さを実感します。

尾瀬ヶ原のミズバショウ

湿原の流れの中には水芭蕉。ピークの時には川岸に真っ白な花が一面に咲き誇ります。

2時間で満喫できる尾瀬ヶ原1/4周

池塘と至仏山

竜宮十字路からはメインルートを外れ、北へと向かう道を進みます。尾瀬ヶ原を1周するには時間がかかりすぎるため、東電小屋を経由して約2時間で1/4周するルートを選択しました。至仏山を左手に眺めながら、草原、池塘と姿を変えていく湿原の風景を楽しみながらの気持ちよいハイキングです。

尾瀬ヶ原の木道更新工事

登山道からほとんど途切れることなく長い距離が続く木道。常に古い木道を新しいものに取り替える更新工事がなされています。

ヨッピ吊橋

竜宮十字路から約30分。尾瀬ヶ原の北縁にたどり着きました。尾瀬ヶ原の北縁には、この尾瀬を源流とする「只見川」が流れています。その只見川の支流のひとつ「ヨッピ川」を渡り、さらに尾瀬の北側へと向かう「ヨッピ吊橋」を渡ります。この橋の先を進めば、温泉小屋と見晴の中間地点に戻る事ができます。

ヨッピ川

吊橋の上から眺めるヨッピ川。木板で護岸はされているが、ほとんど原始のままの姿の湿原の小川。この先、尾瀬沼から流れ出した沼尻川と合流して、只見川とその名を変えます。

尾瀬ヶ原

尾瀬ヶ原の北端を東に向かって歩きます。木々が生える事が出来ない湿原の中に、まるで壁のように一筋の森が只見川の流れにそって形成されています。これは川が運んできた土砂でわずかな場所に森が形成されているそうです。あの森の向こうには、ここよりも何十倍も広い湿原がさらに広がっています。

尾瀬ヶ原と燧ヶ岳

地図で見ると、山と川に挟まれた、「ヨシッ掘田代」という小さな湿原ですが、それでも尾瀬ヶ原の一角としてとても規模が大きく、先が見渡せないくらいです。はるか彼方に東電小屋の建物が小さく見えています。

尾瀬ヶ原と至仏山

至仏山を背に、気持ちよい湿原の中を歩きます。所々の水の流れの中に、水芭蕉の姿を少しですが見ることができます。

東電小屋

湿原を渡りきると、「東電小屋」に到着します。その名の通り、東京電力の関連会社が管理する山小屋。本館と別館がありますが静かな一軒家の装い。大企業の名を冠しただけあって、施設もサービスも充実した人気の山小屋です。水芭蕉のシーズンが終わると尾瀬にも夏がやってきます。初夏の装いとなったシーズン末期にはここまで歩くと体も水分を求めてきます。冷えたジュースやビールがあるので、喉を潤すのも良い休憩ポイントです。

尾瀬ヶ原を流れる只見川

東電小屋で一息ついて再び出発。やがて只見川を渡る「東電尾瀬橋」にたどり着きます。

尾瀬ヶ原を流れる只見川

東電尾瀬橋から見る只見川。湿原の中を流れていた只見川の源流ですが、ここからは温泉小屋の付近まで流れると深い谷を形成して流れていきます。途中、鑑瀑することをあきらめた「三条の滝」となり、深い谷川となって秘境ムード満点の流域を流れる大河となるのです。

燧ヶ岳

只見川を渡ると、再び広い尾瀬ヶ原を一望しながら進む道となります。前方には燧ヶ岳の雄姿を眺めながら進みます。ここまでくると、尾瀬ヶ原1/4周のフィナーレは間近です。

尾瀬ヶ原と木道

やがて東電分岐にたどり着きます。ここから温泉小屋や見晴の山小屋に戻る事ができます。朝8時に入山し、この時の時刻は15時前。体力と気合があれば19時前後に駐車場には戻れますがさすがに厳しい行程でしょう。この日は温泉小屋に宿泊です。温泉小屋の入浴は14時から可能なので、今から戻れば温泉に入り、風呂上がりのビールをあの素晴らしいデッキで楽しめるでしょう。
2日目は尾瀬沼を経由して下山するコースを進みます。

【2日目 尾瀬ヶ原~尾瀬沼】

尾瀬の宿泊情報

尾瀬には多くの山小屋があります。入山する場所や巡りたい場所によって利用できる山小屋は限られていますが、どのルートをたどっても複数の山小屋を選択することがほぼ可能です。尾瀬の山小屋のほとんどが入浴することができ、個室利用やウォシュレット付きトイレなど、通常の山小屋と一線を画す快適さですが事前の予約が必ず必要です。ミズバショウのシーズンの終盤になると週末でも空室があります。各山小屋のホームページに空き状況が記載されているので、確認してみましょう。

御池駐車場(御池登山口)

住所:福島県南会津郡檜枝岐村御池
電話番号:0241-75-2350(御池ロッジ総合案内所)
アクセス:東北自動車道・西那須野塩原ICより車で約2時間30分
     野岩鉄道・会津高原尾瀬口駅よりバスで約2時間
駐車台数:450台(1回1,000円・温泉小屋宿泊者は無料)

【投稿時最終訪問 2018年6月】

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