小笠原ホエールウォッチング
あっという間の南島の滞在が終わった。南島の鮫池から外海に出た船は、母船のクルーザーと合流。ツアー会社の「PAPAYA」のクルーザーに僕たちは乗り移り、南島を後にした。
クルーザーで楽しむ小笠原のホエールウォッチング
「イルカがいた。すごかった」
僕たちが南島に上陸している間、母船に残ってイルカを探し続けたツアーの参加者がやや興奮気味だった。僕は、不完全燃焼だった憧れの南島が遠ざかっていくのを眺めながら、やや消沈気味。だが、天気は急激に回復してきた。まだまだこのツアーは始まったばかりだ。楽しまなくては。
しかし、船は少し走ったところでスピードをゆるめた。クジラがこのあたりにいるということだ。
どこにいる?
ツアー参加者は、船から身を乗り出して探し始めた。船の後方に僕たちはいたが、みんな船の前方に集まり、後は僕たちだけに。
よぉし、これで後方や横方面にクジラが出たら、最高の写真が撮れる。僕はすぐに一眼レフを防水バックから取り出し、クジラの出現を待った。しかし、それは間違いだった。
「いたぞ、10時の方向!」船長から船内アナウンスでクジラの出現が伝えられると同時に歓声が。
「え~っと、10時の方向ってことは、船首左斜め前か!」
僕は身を乗り出して船の後方から斜め前をカメラで狙った。が、そのとたん、船がゆっくりと旋回し、クジラのいる場所を12時の方向に修正した。なるほど、だからみんな船首に集まっていたのか。このツアー参加者はクジラやイルカのウォッチングにすべてをかけるリピーターばかりだと後で知った。思えば、みんな勝手知った船。初めて乗船する僕たちがベストポジションを取るのは不可能だった。それでも僕は右に左に大揺れする船を行き来し、クジラの出現を待った。そしてついに・・・
来たっ、クジラのブロー(潮吹き)
フシューっという音とともに、海から水しぶきが上がった。あそこにクジラがいる。
もう1回ブロー。いる。確かにいる。
幸い、うまく船の横からも見える位置にクジラがいてくれている。大きく揺れる船に僕は両足で踏ん張りながら、カメラを海に落とさないように慎重に構え続ける。
小笠原ハードロックとクジラの雄大なコラボ
ちょうど「ハートロック」の前にもう一度ブローが上がる。すごいぞ。こんな大海原にこれだけ離れていてもその存在を感じさせる生物がいるなんて。急いで一眼レフのモードをスポーツモードにセットする。ファインダーをのぞき、シャッターに手をかけて、次の出現を待つ。なんだかちょっと、海洋写真家の気分。
いきなり海が盛り上がった。
ブローではない。そのとたん、真黒な大きな塊が海面からむっくりと姿を現した。すごい、クジラだ。興奮気味に、カメラを連写する。そして最後には、はっきりとそれとわかる尾びれを海の上に突き出した。しかも、ちょうど名所「ハートロック」の真正面で!
ハート型の赤こけた岩がハートロック。まるでそれはクジラの尾びれと同じ形。一瞬だったが最高のシーンだった。
ファインダー越しでもそのシーンは心に焼き付けられた。海の中に、こんな大きな生き物が住んでいるなんて。初めて見たクジラの姿に、とても感動した。
しかし、この後、クジラの姿は見えなくなった。船長によると、おそらく今の尾びれを出したのは、深く潜行するためかもしれない。深く潜るともうなかなか海面に姿を現さない。ここでのウォッチングはこれで終了となった。
今回見たのは「ザトウクジラ」(だったと思う・・・)
12月から5月にかけて、小笠原の沿岸で出会える。小笠原ではクジラの保護のため、船ではクジラの100m付近と進路には立ち入りが禁止されている。クジラの姿を間近でを見るためには、双眼鏡や高倍率のレンズをつけたカメラが必要になる。今回使ったのは200mm。乗船している「クジラ派」のツアー客は、どう見ても300mm以上のレンズ装着しているようだった。
クジラがいなくなると、船は再び南に向けて走り始めた。不思議と冬なのに暖かい海のしぶきが船内に飛び込んでくる。僕はあわてて、一眼レフを防水バックの中に仕舞い込む。船は全速力で波をかき分け南へと進む。
目指すのは小笠原諸島で、僕たちが滞在している「父島」のほかにもう一つだけ人間が住むことを許された島、「母島」だ。