化野念仏寺【怖しくも美しい西院の河原】

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京都の寺社・仏閣観光の最北端の地、嵯峨野。かつては貴族の別荘が建ち並ぶ都の郊外でした。その中でも葬送の地とされていた化野(あだしの)にある無縁仏を供養するために弘法大師が創建した寺が「化野念仏寺」です。無数の石仏・石塔が隙間なく立ち並ぶ風景は雅な京都の風景とは一線を画しており、日本の生死感を強烈に感じられる寺院です。

素朴な京都の風景の中に佇む古刹

嵯峨鳥居本

あだし野念仏寺は嵯峨野の最も北側、愛宕山の麓の嵯峨鳥居本に位置します。嵯峨鳥居本は愛宕山にある愛宕神社の門前町とかつては賑わった通りで、今も白壁の蔵や藁葺屋根など、当時を思わせる和の素朴な趣が色濃く感じる町並みが残っています。京都らしい和の趣が漂う土産屋や飲食店も多いので、ぜひ参拝後に立ち寄りましょう。

あだし野念仏寺参道

嵯峨鳥居本の通りに化野念仏寺への参道入口があります。化野念仏寺は811年に空海(弘法大師)が野ざらしになっていた人々の遺骸を埋葬し、1000体の石仏を供養のために並べたのが始まりです。その後、浄土宗の開祖である法然が念仏道場を開き、念仏寺という名に改められたそうです。教科書にも出てるく高僧が2人も携わった歴史ある寺院なのです。

あの世を思わせる西院の河原

あだしの念仏寺西院の河原

拝観料を払い境内に入ると、やはり目につくのは無数に並んだ石仏・石塔群。おおよそ8000にもおよぶ石仏や石塔が重なり合うように隙間なく、ずらりと並ぶ風景はまさにあの世を思わせるほど。ここは化野念仏寺を代表する光景の「西院(さい)の河原」と呼ばれる場所で、化野に野ざらしになっていた無縁仏を集めて供養した場所です。浮世離れした風景は物悲しく無常で、それでいてどこか儚さと美しさも感じられます。時間がゆっくりと流れる静かな空間です。

化野念仏寺西院の河原

化野の意味は、はかない、むなしいという意味で、この世に再度生まれ化わることや極楽浄土と行き来できることを願われた名です。かつて化野は死者を野ざらしにする風葬の地であったために、多くの無縁仏が眠っていました。まるで三途の川や賽の河原を思わせる、無数の死者の姿さえ見えそうな風景は美しくも畏怖の念を抱いてしまいます。

化野念仏寺

多くの死者が眠る西院の河原の中では撮影は禁止です。西院の河原を取り囲むように結界のように張り巡らされた石垣の外からのみ、その風景を切り取れます。確かに中で写真を撮るのは亡くなった人の眠りを妨げそうです。石垣の中はあの世と言っても差し支えない場所なのですから・・・

苔の美しさも見逃せない

化野念仏寺の苔

化野念仏寺で目を奪われる隠れた美しさは苔。境内の至るところに苔がびっしりと絨毯のように広がっており、その美しさは息を飲むほど。あまり化野念仏寺の苔が大きく紹介されることはありませんが、京都を代表する苔寺のひとつとされてもよさげな素晴らしさです。

あだしの念仏寺の苔

苔の絨毯には石が配され、柔らかいスポンジに突き刺された木の枝のように木立が立ち並んでいます。それはまるで、箱庭のような美しさです。

いたる所に供養にあふれる弔いのお寺

化野念仏寺仏舎利塔

美しい苔の絨毯の向こう側には、まるで遺跡のようなアジアンテイストあふれる石造りの建造物があります。これは、お釈迦様の遺骨を納める場所とされる仏舎利塔と石の鳥居です。

化野念仏寺本堂

本堂は意外と小さく、近代的な建物。何も知らなければ、西院の河原や苔に目を奪われて素通りしてしまいそうになります。中にはご本尊の阿弥陀如来が安置されています。

化野念仏寺延命地蔵

境内には延命地蔵や水子地蔵があります。茅葺屋根の水子地蔵には幼い魂を供養するかのように、おもちゃがいっぱい奉納されていました。地蔵菩薩の縁日があり、水子の供養が行われているそうです。

化野念仏寺竹林の道

水子地蔵の奥には美しい竹林の階段があります。距離は短いですが、竹林も柵もとてもきれいに手入れされており、その美しさには酔いしれるほど。嵯峨野には竹林の小路が何ヵ所もありますが、人の少なさと洗練された美しさでは、ここ化野念仏寺の竹林が随一でしょう。美しく林立する青い竹の森の中に幾条もの筋となって射し込む光は、幽玄というにふさわしい光景です。忘れずに散策したいスポットです。

化野念仏寺六面体地蔵

幽玄な美しさに包まれた竹林を抜けるとそこは墓地に出ます。無縁仏を葬った西院の河原ではなく、不通の近代的な墓地です。ここで踵を返しそうになりますが、墓地の入口にある「六面体地蔵」の参拝は忘れずにしましょう。六面体地蔵は、地獄、餓鬼、畜生、修羅、人道、天道の六道と呼ばれる六つの世界を表したお地蔵さまが掘られた六角柱です。天道から人道へ、時計回りに水をかけながら参拝すれば、罪が洗い流されるというご利益があるそうです。

化野念仏寺

化野念仏寺で最も代表的な法要で、ガイドブックにも紹介されるものが毎年8月最終土曜・日曜日に行われる「千灯供養」(せんとうくよう)です。千灯供養は、西院の河原の石塔、石仏にろうそくを灯して無縁仏を供養します。8000もの石仏に無数の小さな明かりが灯され、暗闇の中で一斉に揺らめく様は幻想的。死者の世界に仮初めの小さな命が宿ったかのような、生も死も包容する世界に多くの人が参拝します。

また、秋の化野念仏寺は紅葉の名所。真っ赤な染まる西院の河原は日本の精神的な美を感じる場所で、この時期にも多くの参拝者で賑わいます。

あだし野念仏寺

場所: 京都市右京区嵯峨鳥居本化野町17
電話: 075-861-2221
営業時間: 9:00~16:30(12月~2月) 9:00~15:30
休業日: 無休(法要・警報・積雪時の臨時休観あり)
料金: 500円(中・高校生400円)
交通: JR嵯峨嵐山駅より徒歩30分
    嵐電嵐山駅より徒歩25分
駐車場:なし

【投稿時最終訪問 2020年2月】

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