石鎚山登山【紅葉と雲海】

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標高1982m。西日本最高峰、百名山のひとつである「石鎚山」。比較的温暖なイメージがある愛媛県にあながら、四国でも真っ先に紅葉を迎える場所である。特に頂上付近の紅葉は見事で、見頃は10月初旬。体育の日の連休には頂上付近の見ごろは終わり、裾野へと紅葉がこぼれ落ちていく。今回石鎚山に登ったのは10月6日。頂上が最も色づく頃だ。
天気予報は雨。しかし前日には晴れで夏日になると予報が急転。急ぎ、石鎚スカイラインを走り、石鎚山の南側の登山口「土小屋」へと向かった。

雲に覆われた土小屋から紅葉の石鎚山へ出発

しばらくは牛乳をこぼしたような真っ白な空気に包まれた森を進む。やがて付近を覆っていた霧のヴェールは下界へとふわりふわりと落ちていく。山肌を滑り落ちていった霧は雲海となり、綿菓子のように浮かぶ分厚い雲がちぎれて光が射し込みはじめる。ようし、予定どおり。11時登山開始というのはとても遅いが、ギリギリまで粘った甲斐があるというもの。登山をあきらめて下山した人も多かったようだが、それに習っていれば後で地団太踏んでいただろう。この日は天気が悪く、天気予報の急変があっただけに、紅葉の時期としてはとても登山客が少ない。それでも、このぐずついた天気としては多くの人が登山道へと歩を進めていく。

石鎚山山頂付近は残念ながら雲にまだ覆われている。生き物のような霧が石鎚山の姿を見せたり隠したり。音もなく白い薄布のように揺れる霧に包まれた奇岩の山は、まるで山水画のようで、仙人や神が住んでいるかのように思わせる。真っ白な霧の中でも鮮やかな朱を放つ紅葉が、この付近が美しい秋の世界である事を物語る。

雲海と紅葉のコラボ!神秘的な秋の石鎚山

雲はどんどん晴れていき、下界の山々が姿を現す。自分が立つ場所よりはるか下に深い森が広がり、さらにその下には真っ白な雲の海。雄大な景色に、その場に居る人が次々にこの場所で立ち止まる。

石鎚山の岩壁の下を通過し、二の鎖小屋へと向かう。その途中、突然鮮やかな色が頭上から差し込む。頭上を覆っていた雲が薄まり、空の青色が雲の切れ間からこぼれ落ちる。最高のタイミングだ。頂上に着くころには天気が回復しているはずだ。

石鎚山を覆っていた雲は下界に流れ落ち、見事な雲海へと姿を変えた。どこまでも続く雲の海の中、まるで島のように石鎚山付近の山々だけが雲の上に頭を出す。足元の雲と頭上の雲。二層の雲に挟まれたわずかな空間に、この絶景が広がっている。

石鎚山の頂上付近の岩壁は紅葉の見ごろを迎えている。薄い霧のヴェールからこぼれ落ちる薄日に照らされて、紅葉が秋色に見事に輝く。何度も何度も足を止め、その美しさを確認しながら、二の鎖小屋へと向かう。

二の鎖小屋に到着。現在は小屋の建替中で建物はないが、そこに鎮座する大きな鳥居がこの先が神が住む神域だと示している。石鎚山は信仰の山で、多くの白装束を着た信者さんがこの日も山を登っていた。途端、「うわあぁ~」と歓声が上がる。振り向くと、石鎚山にかかっていた霧が吹き飛び、神々しい光が降臨し赤や黄色の紅葉を輝かせ始める。神がそこにいる。そう思わざるを得ない荘厳たる風景。

頂上から下山してきた人が口々に、もう少し待っていればよかった。最後にこれを見れて良かったと話している。この日初めて石鎚山が姿を現した瞬間だ。今から石鎚山の神域に入ろうとしたその時に、まるで出迎えるようなタイミングでこの風景。それは感動を通り過ぎ、神々や自然への感謝に近い気持ちにさせてくれる。

断崖絶壁を舞台に、青空と白い雲と幾筋も光、そして紅葉が目まぐるしくその姿を変える。それは見事な舞台演出で、そこにいる人皆が、自然のショーともいえる素晴らしい風景にくぎ付けになる。しばらくその場を離れられないほど美しい光景だったが、その光景の中に早く行きたいと思い、頂上目指してこの場を後にする。

そのころ、下界は見事な雲海に包まれていた。青空の下、どこまでも広がる真っ白な雲の海。まるで飛行機に乗っている時に見るあの風景がダイレクトに自分の目の前に広がっている。空を飛んでいるような、とんでもなく高い場所に来たような、遠い遠い別世界に来ているように思える。

見事な雲海を足元に高度を稼いでいく。それは、とんでもないくらい高い山に登っているように思える。

鳥居から頂上までおおよそ中間くらいの地点。この付近はとりわけ紅葉がきれいな場所だ。太陽の光が頂上を覆う雲からこぼれるのを登山道の端で待つ。光を浴びた紅葉と雲海は美しく輝く秋の美しい風景を織りなした。

石鎚山の頂は再びガスに包まれる。しかしそのガスの上には太陽は輝いている。それは神が降臨するかのような、神々しい光となり、霧の中で揺らめいている。

石鎚山頂上付近は断崖絶壁になっている。鎖で岩壁を直登するか、岩壁に設けられた鉄製のスロープや階段で頂上へと登っていく。迂回路の鉄製のスロープは足元はメッシュで落下防止の手すりもない。雲が渦巻く深い森をはるか足元に、ゆっくりと気をつけながら頂上へと向かう。

ついに頂上直下の稜線に出る。風景は一変し、今まで見えなかった西ノ冠岳(1894m)や二ノ森(1929m)が姿を現す。石鎚山に直接つながるダイナミックな稜線。頂上から紅葉がこぼれ落ちるように、谷間へと朱色が広がっている。この深い山々に囲まれた谷間は日本でも有数の透明度を誇る清流「仁淀川」の源流。ここから流れ出した川が美しい清流となり太平洋にそそぐ。そんな長い川の旅の出発点の深い谷には、落差102mの「御来光の滝」が人を寄せ付けずに鎮座している。

石鎚山頂上からの紅葉と雲海が美しすぎる

ついに石鎚山の頂上に到着。一般的に石鎚山の頂上とされるのは、石鎚神社と頂上山荘がある「弥山」1982mの最高峰は、弥山の向かいにあるピークの「天狗岳」だ。この弥山から望む天狗岳が石鎚山の代表的な風景になっている。石鎚山の顔といえる風景は見事に紅葉で真っ赤に彩られている。天に向かってそびえる槍先のような険しい山容が紅葉で真っ赤に染め上げられた景色は壮観。目の前に広がるのは、紛うことない四国を代表する紅葉の風景。その美しさには休憩の腰を下ろす事すら忘れ、ただただ、その圧巻の前に立ち尽くす。四国に真っ先に訪れた紅葉、ここから遥か彼方の海をめざし、ゆっくりと下っていく。

時々光が上空の雲からこぼれ、天狗岳の紅葉を鮮やかに染め上げる。断崖絶壁から湧きあがる雲が、ゆらゆらとヴェールのように揺らめき、秋の石鎚山を神秘的に演出する。突然天狗岳に取りついている登山客から歓声が起きる。どうやらこの霧でブロッケン現象が起こっているようだ。霧のスクリーンに、虹の後光につつまれた自分自身の影が映る現象で、こういう天気が急変した時の険しい山で出くわす自然現象だ。紅葉の時期にはこの天狗岳に向かって登山客が渋滞する。ずらりとこの紅葉の中の石肌に登山客のカラフルなウェアが色を添える。しかし、この日は今やっと天気が良くなったばかり。登山客はまばらで、人がとても少ない日中の美しい紅葉の石鎚山を楽しませてくれた。これもなかなか見られない風景だ。

弥山にも美しいモミジが真っ赤に染まっている。眩しいくらいの朱色が、雲上のこの場所にはあふれていた。真っ赤な世界を楽しんでいると、再び雲が付近を覆った。この雲はダメだった。鮮やかな紅葉の色を奪い、心にざわめきをもたらす。・・・雨か。経験上、この雲に覆われたら天気は回復しない。また悪くなる。ちょうど頂上について1時間。予定の休憩時間が終わったところだ。後ろ髪引かれることなく、早足に雲に覆われた頂上を後にした。

再び登山道は重くて暗い霧に包まれる。そして時々パラパラと背負うザックの上で雨音が立ち上がる。たった2時間。この日光が頂上に降り注いだのはわずかな間だった。そのわずかな間、すべて光につつまれた石鎚山の神域に居れたのはとても幸運な事だった。美しい自然に感謝し、その自然に出会えるために最善の選択ができた自分を少し褒めながら、急ぎ足で下山した。

石鎚山土小屋からの登山に便利な宿

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