徳島・剣山 【お盆のキレンゲショウマ】

最終更新日

Comments: 0

標高1955mの「剣山」(徳島県)。日本百名山のひとつで、西日本第2位の標高を誇る。剣山には標高1450mまで車で登れ、さらにそこから標高1700mまでリフトで登れる。その為、比較的登りやすい百名山であり、訪れる人も多い山だ。
四国には日本百名山が2つあり、そのもう一つであるのは西日本1位の標高を誇る石鎚山。(愛媛県)我が家からでも見える石鎚山にはよく行くが、徳島にある剣山に向かうのは3回目。しかも1回はまさかの降雪で撤退しているので、頂上に立つのは今回で2回目である。
この日はお盆の登山となるため、リフトが動き出す午前8時までに登山を開始する予定を立てた。出来れば、お目当ての一つ、この時期に開花する「キレンゲショウマ」の群生地に混雑のない時間に入れるよう、リフトが動き出す1時間前の午前7時には登山開始したい。剣山の登山の基地となる「見の越」に朝6時半に到着するよう、車を走らせた。
剣山へのアプローチは徳島自動車道・美馬ICから国道438号線を約1時間走る。道幅は1.5~2車線。山道に慣れていれば、比較的離合に困る道路ではない。しかし、ブラインドカープが多く、極端に狭くなる箇所も何箇所かある。剣山に向かうメインルートともなり、混むときは車も多いので、注意して走りたい。

リフトの運行開始前に到着したい剣山の登山口

見の越の駐車場
剣神社鳥居

朝6時半に見の越の駐車場に到着した。お盆の時期とはいえ、リフトが動き出す1時間半前だと、車はほとんど停まっていない。見の越には駐車場が2か所あり、どちらも2階建ての立体駐車場。リフト横の駐車場 (写真左) はせまい上に車が集中するので、少し離れているが民宿街に入る前の駐車場の方が広くて混雑具合も少ない。トイレはリフトの横にあり、歩いて5分もかからない。リフトを使わずに登山をするなら、リフト乗り場と第2駐車場の間、剣神社の鳥居 (写真右) が登山口入口となる。剣山の駐車場は訪れる人の割合に対して台数は少ないように感じる。早めに登山を開始しないと、混雑する時期には、ずいぶんと遠い場所の路肩に駐車しないといけなくなる。

剣山登山リフト

見の越からリフトの終点である「西島駅」までは歩けば約50分のコースだ。途中、リフトの下をくぐる。

剣山登山

道は広く、とても歩きやすい。危険場所も迷うような場所もなく、安心だ。初めは深い樹林帯の中を行くが、標高を上げていくにつれ、徐々に笹原や低木が現れる。

剣山雲海荘

西島駅もう少しのところで、一気に視界が開ける。今まで全く展望が望めなかったが、ここで剣山の頂上付近の稜線を見渡せる。青い屋根は頂上直下にある山小屋の「雲海荘」だ。ここから頂上までの標高差はわずか250m。手が届くほどわずかな距離に近づいた。

リフトの頂上駅から望む四国山地の大パノラマ

剣山西島駅からの展望

西島駅に到着した。まずはここからの眺めには目を奪われる。剣山付近には標高1600~1800mの山々が軒を連ねる。森林限界を超える場所ではないが、それでも狭い四国の中に一気に立ち上がる、西日本でも1,2を争う高さの場所。その特異な地形が、山の上に広い笹原を作り出していて、独特の山岳風景を造り出している。この険しい山の上の笹原に覆われた稜線は、四国の山ならではの風景だ。

三嶺と祖谷川

写真の一番奥にそびえるのが日本二百名山の「三嶺」(みうね・1893m)。高知県の最高峰でもある。その三嶺に向かって谷を削っているのが「祖谷渓」や「かずら橋」で有名な「祖谷川」。「秘境」と呼ばれる祖谷渓谷の源流は、意外にもリフトの乗り場でもある「見の越」付近である。この祖谷川は四国三郎と呼ばれる、四国を代表する清流「吉野川」に合流する。
余談ではあるが、見の越付近を源流として、祖谷川と逆の東側に源流を発するのは「穴吹川」。一級河川としては四国で一番の水質の良さを誇る清流として有名だ。この穴吹側は祖谷川と比べ、はるかに下流で吉野川に合流する。

西島キャンプ場

西島駅の直下は「西島キャンプ場」になっている。キャンプ場というより、看板の文字通りの野営場で、登山のペースキャンプ地としてのものだ。笹野原の中、テントが張れるように一部刈り取られている。水道とトイレは西島駅(写真左手奥)にあり、自販機や売店もあるので、意外に便利かもしれない。展望も素晴らしく言うことなし。テントが重ければリフトに乗って運ぶという、山ヤにとっては禁断の技も使える。夜から朝にかけての剣山の自然を楽しめる良いキャンプ場なので、機会があれば久々にここでテント山行してみたい。

剣山リフト西島駅

剣山リフトの頂上駅である「西島駅」。売店や自販機、トイレがあり、軽装の人もとても多い。ここから普段着で、サンダル履きで頂上を目指す人も少なくない。とはいえ、ここの標高は1700mで、頂上の標高は1900mを越える。道も悪くはないとはいえ、相当に標高も高く地形も複雑な場所だ。天気が突然激変したり、真夏でも震える程寒くなる時もある。実際、僕は剣山の過去2回の登山では、海の日に震えながら頂上小屋で「おでん」で温まり、ゴールデンウィークにはまさかの降雪で撤退している。この山は決して穏やかな山ではない。真夏でも最低でも長袖の防寒具と雨具は用意し、歩きやすいしっかりした靴は用意していただけれぱと思う。
さて、この西島駅から頂上に向けては3つのルートがある。登りのお勧めは、「剣神社」を経由して頂上にいたるルート。そして下りは「次郎岌」へ向かう稜線を経由するルートで、これは下りにお勧め。登りのルートは西島駅の前の鳥居をくぐる道で、下りのルートは鳥居の右側にある道だ。
しかし、夏のお盆の時期は、絶対に通りたい道がもう一つある。それが、「刀掛の松」を経由するルート。ここには天然記念物である「キレンゲショウマ」の群生地がある。キレンゲショウマの開花は8月初旬で、お盆過ぎまでが花期となっている。
「キレンゲショウマ」は、この剣山を舞台にした宮尾登美子の小説「天涯の花」で有名になった花。NHKドラマや、松たか子座長の舞台として人気があり、この花を見に訪れる人はとても多い。もちろん今回はこの花を愛でることも、剣山登山の目的のひとつである。
この「刀掛」に向かう道はわかりにくいうえ、案内板も今ひとつわかりにくい。登山道の入り口は「西島駅」の駅舎に向かって右側奥にある。リフトを降りたとすれば、出口を出て左側に駅舎つたいに進むと、隠されたように登山道の入口がある。

剣山リフト

見下ろすリフト。写真上部に走るのが、リフト乗り場に向かう国道438号線だ。登山道なら大汗かいて登ってきたのに、リフトなら涼しい顔をして一直線にここまで登ってこれる。
さて、この風景を見れる場所が「刀掛」へと向かう登山ルートの入口になる。リフトを見下す、駅舎の右側の場所だ。

剣山ニッコウキスゲ

「刀掛」へのルートは階段状の道を登るスタートとなる。その入口の道標に、美しい黄色い花が咲いていた。早々とキレンゲショウマとの出会いかと写真に収めるが、どうも見たことがある花だ。これは高山植物の「ニッコウキスゲ」だろう。

剣山の夏の名物「キレンゲショウマ」を目指す

剣山登山

キレンゲショウマ群生地の入口となる「刀掛」までは約15分の登り。尾根沿いを行く道なので、特に東側の展望が良い。重なる山々のむこうに、遠くは瀬戸内海が見え隠れする。

剣山からの展望

時々樹林帯の切れ間から見えるパノラマ に励まされながら登ると、小さな祠にたどり着いた。ここが「刀掛」だ。

剣山刀掛の松

剣山リフトの西島駅から登ること15分。「刀掛の松」にたどり着いた。ここには小さな祠がある。源氏との戦いに敗れ、平家復興を願って頂上に宝剣を奉納する安徳天皇が途中、ここの松に刀を掛けて休んだという言い伝えがある。今はその松も枯れてなくなってしまったそうだが・・・
ここから頂上に向かう道から左に分岐して、道が続いている。「行場」を越えて「一の森」に向かう道だ。この道の途中にキレンゲショウマの群生地がある。

剣山行場

キレンゲショウマ群生地に向かう道は今までの穏やかな道と比べて険しくて危険な場所も多い。道も細くなり、大小多くの岩が転がり、ずばりと崖や谷に切れ落ちた場所もある。リフトからすぐのこともあり、サンダル履きのような軽装で登ってくる観光客も多いが、このキレンゲショウマを見るルートはそのような軽装では絶対に無理。何せ、この先は「行場」。修行するための場所を通って行くのだから、とにかく険しい山域になっている。
さて、この先は一方通行。ぐるっと周回するルートを案内板に従って歩いて行く。ゆっくりとキレンゲショウマを楽しみながら歩けば1時間くらいかかるだろうか。

キレンゲショウマ

先ほどまでの気持ちいい笹の稜線からうってかわり、ルートは深い谷間に降りて行く。うっそうとした森の中、せっかく稼いだ高度を下げていくのはやや気分が滅入る。しかし、その先に待っていた、美しい黄色い花は、そんな気分を一気に吹き飛ばしてくれた。この花が「キレンゲショウマ」だ。標高1900mの稜線直下から湧きだす美しい清流を背に咲く花はとても清涼感にあふれている。この付近は四国の一級河川として最も水質が美しい穴吹川の源流域にあたる。四国で最も美しい川の源流には、貴重な高山植物が咲き誇る、まさに雲上の桃源郷。

キレンゲショウマ

「キレンゲショウマ」は、多年草の高山植物。世界的にも稀な植物であることから、平成12年天然記念物に指定されている。平成11年には宮尾登美子氏の、この剣山を舞台とした小説「天涯の花」で紹介され、一躍有名になった。NHKドラマや、松たか子座長の舞台としても人気を博した。
剣山のキレンゲショウマは数少ない自生地の中でも、大規模な群生をすることで有名。花期にあたる8月上旬から中旬までは多くの人がこの花を見に訪れる。この花が咲く山域はとても険しい地形で、明らかに剣山の一般登山ルートよりも難易度が高い。そんな場所にある細い道に多くの人が訪れるわけなので、おのずと一方通行の規制が引かれている。
また、キレンゲショウマのある場所は概して険しい斜面。三脚を立てる場所もほとんどない。そして、三脚を立てられたとしても通行の邪魔になってしまう。この花をゆっくり狙うなら、リフトが動き出す8時前にこの場所に入っておく事がお勧め。リフトが動き出して人が増えたなら、手持ちでの撮影しかない。しかも深い谷間なので、カメラのISOも高めざるを得ない。

穴吹川源流

この付近が穴吹川の源流であることをうかがわせる

キレンゲショウマ

キレンゲショウマの群生地はネットと柵でしっかりと保護されている。シカの食害がひどいのでその対応との事らしい。しかし残念ながら、どう見ても心ない人間が花を盗ったり踏み荒らしたりすることを防ぐ効果の方が大きそうだ。

剣山行場

険しい斜面を下りきると、社や祠、岩屋などが連続する。この付近が「行場」と言われている場所。いかにも山にこもって修業をする場所で、雰囲気は今までとは全く違う。比較的笹や森に包まれた剣山の穏やかな山容も、ここでは嘘のように岩場や崖が林立し、険しい表情を見せている。このような道を抜け、また次の群生地を目指す。

剣山のキレンゲショウマ

しばらく行くと、この付近では最も大きな群生地に出た。おそらくこのルート最後の群生地になるだろう。この場所はまだ比較的道が広く穏やかなので、三脚を立てる事もできそうだ。もちろん僕は三脚は持ってこなかったので手持ちの撮影。しかし、この場所だけは後続の登山者をパスしながら、立ったり座ったりしながら撮影を続けられる場所だった。

キレンゲショウマ

冷夏のせいか、8月15日のシーズン中に訪れたにも関わらず、花の数はずいぶんと少なかった。しかし、この群生地は比較的良く咲いてくれていた。キレンゲショウマの美しく咲く花にはとにかく見いるばかり。

剣山のキレンゲショウマ

キレンゲショウマが咲くのは、谷のガレ場。根付くのが難しい場所に生息し、冬の豪雪にも耐える。そして、夏に一瞬、美しい黄色い花を咲かせる。その力強く、そして清楚な姿に、見る者は皆魅せられ、感動を覚えるのだと思う。

テキサスゲート

このキレンゲショウマの群生地付近に何箇所もあるのがこの「テキサスゲート」細い丸太をわざと隙間ができるように組んだ、橋のようなもの。小学校などにある、雲ていのようなものだ。ここは人は通れるが、シカは通れないとある。これでキレンゲショウマのシカの食害を防いでいるそうだ。こんな何ともない所を、すばしっこいシカが通れないというのは何とも信じがたい。しかし、これが三脚を立てる「妨害」になっているのは明らかであるのはすぐに理解できた(笑)
キレンゲショウマの群生を楽しんだ後は、剣山(1954m)の頂上を目指す。群生地の入口である「刀掛の松」まで戻っても良かった。しかし、キレンゲショウマの群生地を一周する一方通行のルートの途中に剣山頂上に向かう分岐があったので、そちらから登ることにする。
(キレンゲショウマの花期には、群生地へのルートは混雑危険回避のため一方通行となる)

「行場」から「剣山山頂」へ向かう分岐点
行場から頂上を目指す道の様子

分岐の入口まで戻ってきた。残念ながら、この分岐までにはキレンゲショウマの群生地はないので、キレンゲショウマをちょっと見てから頂上に行くのはこの一方通行規制が敷かれる時期には出来ない。ここから頂上へ向かう道と、キレンゲショウマ群生地を経て「一ノ森」(1879m)に向かう道に分岐する。道標には頂上まで700mとある。道は剣山の一般登山道に比べるとやはり細く厳しい道だが、それでも登山道としてはよく整備されている。登山装備していれば、全くといっても危なくない道だ。
登山道は分岐からしばらく沢沿いに登る。頂上まで標高差で約150m。そんな稜線の真下に山小屋の取水ができるくらいに水が流れているのはとても不思議だ。剣山の頂上はとても広く、どっしりとしたなだらかな山容の山であるがため、頂上付近でも豊かに水が流れ出しているのだろう。

笹原の中を頂上目指して絶景を登る

剣山笹原

しばらく行くと、深い森を形成していた木々の高さが一気に低くなっていく。そして、ついに目の前がパッと開ける。一面の笹原。そして奥には頂上付近にある山小屋や旧測候所の建物が見えた。頂上までは、もうすぐだ。

剣山からの展望

登山道から北側を振り返る。高い山々の向こうに見える人の暮らし。随分高い所まで登ったなぁと感じられる。朝は雲ひとつない晴れだったのに、ほんの数時間の間に空は雲で覆い尽くされている。

穴吹川源流部

今度は東側を望む。深い谷を削っているのは、この剣山を源流とする「穴吹川」だ。四国で最も水質が美しい「一級河川」として有名。ずっと先まで、この川を汚しそうな要素はほとんど見当たらない。穴吹川でも一度は水遊びをしてみたい。いつか、子どもが大きくなったら、連れて行ってあげたい。

剣山登山

さて、「刀掛けの松」から頂上に向かう一般登山ルートと再び合流した。が、その合流点にロープが張られていて、今来た道には頂上からの下りには入れないようになっていた。僕は、ロープの向こう側から歩いてきて、このロープを乗り越えて一般ルートに戻ったことになる。確かに、ここから下山すると、「一方通行」のため、刀掛の松まで30分ほどの迂回を強いられる。そうならないために、この時期だけわざわざロープを張っているのだろうか。
(下りにキレンゲショウマの群生を見て帰るのなら、ここからが一番の近道なのだが・・・)

剣山本宮の鳥居

さて、この分岐からすぐの所に、剣山本宮の鳥居がある。ここをくぐると、頂上直下の山小屋を経て、頂上にはすぐだ。

剣山山頂ヒュッテ

鳥居をくぐると、今まで何もなかった山の中に、突然建物が現れる。「剣山山頂ヒュッテ」と「剣山本宮」の社が立ち並ぶ。まずは神社でここまで無事に辿り着いたことに感謝のお参り。そして、誘われるように剣山山頂ヒュッテの中に。
この山小屋の歴史は古く、しかも近代化がとても早かったそうだ。実は、剣山には現在は廃止されているが測候所があった。この測候所、富士山に次ぐ日本で2番目に高い標高を誇っており、その設備稼働のために、山頂まで地下ケーブルで電気がひかれたそうだ。そのため、この山小屋もその恩恵にあやかり、剣山周辺の集落よりも早く電化したとか。そのため、こんな2000mの稜線にありながら、暖かい食事やお風呂が楽しめる。よほどの混雑でない限り、少人数でも個室を追加料金なしで用意してもらえるとあって、登山客には根強い人気がある。ちなみにこのヒュッテのお風呂は西日本一高い場所にあり、業務用の電化厨房が採用されているそうだ。(四国電力ホームページより。高山の山頂小屋への電化厨房導入はとても稀とのこと。)
この山小屋の食堂で目を引かれるのは「おでん」。湯気を立てながら煮立っているおでんはとてもおいしそう。真夏でも震えるくらいの寒さになる、西日本第2位の山。そんな時には、このおでん、心も体も温めてくれる。

宝蔵石

さて、ここは頂上ではない。ヒュッテと神社の間の階段が頂上に続く道。ここを登ると、神社の裏側にとても大きな岩が鎮座している。これが神社のご神体でもある「宝蔵石」だ。
実は剣山、その名前から想像する荒々しいイメージとは全く違う穏やかな山容をしている。山の「剣」という名前の由来にはいくつかの言い伝えがあるが、この「宝蔵石」がそのひとつ。源氏との戦いに敗れ、平家復興を願った安徳天皇が、この岩の下に宝剣を埋めたという伝説から、剣山という名前がついたそうだ。

平家の馬場

「宝蔵石」をすぎると、突然風景が広がる。なだらかな山容に一面に広がる笹原。「平家の馬場」と呼ばれる剣山の頂上付近の稜線だ。その「剣」という名前からは全く想像できない、とても穏やかで女性的な山容。同じく四国の屋根として剣山と対をなす、標高西日本一の石鎚山こそ、まるで剣先のような岩峰がつらなる荒々しい姿だ。この広い山容は、稜線直下に多くの水の恵みをもたらし、美しい清流の源となっている。ここから多くの清流が、四国一の大河「吉野川」へと水を流し込んでいる。(余談ではあるが、吉野川の源流は、石鎚山のすぐとなりの「瓶ヶ森」という山である)

平家の馬場

「平家の馬場」を行く。剣山頂上は、写真左側の人が何人か立っている場所だ。剣山の頂上付近はとても広い笹原になっていて、一面に木道が整備されている。2000m級の山の上に、これだけの笹野原が広がっているのは、四国や近畿方面としては、全くと言っていいほど無い風景。開放感あふれる独特な風景だが、一時期は登山者により踏み荒らされ、一面が裸地化していたそうだ。今は木道以外立ち入り禁止としたため、その植生が復活している。
ちなみに写真右にある建物が「測候所」。1943年に設置された、富士山に次ぐ日本で2番目に高い場所にある測候所だった。1991年に無人化、2001年に廃止されたそうだが、今も当時の姿のまま、ここに留まっている。

剣山山頂付近

高い山々の上に広がる笹原。四国の高山を代表する風景。それはとても美しく、幻想的だ。

四国の山々を見下ろす剣山頂上へ到着

剣山頂上

剣山山頂(1954.7m)に到着。リフトを使えば、ものの40分で立てる日本百名山で、西日本第2の高峰だ。頂上はとても広く、木道には何箇所かベンチも整備されていて、くつろぎやすい。ただし、木々や岩といった、さえぎるものは何もないので、風は吹きさらし。高い空を渡り、一気に笹原を走り抜ける風は夏場でも容赦なく体温を奪う。この頂上で長く楽しみたいのなら、しっかりとした防寒具が必要となる。

剣山頂上から望む次郎岌

頂上から見る「次郎岌」(ジロウギュウ・1929m)剣山山頂からの風景で、この山の展望がずば抜けて美しいと個人的には感じる。どっしりとした山容と笹野原が広がる美しい稜線は、雲上の別天地で、山の美しさを惜しげもなく見せつけてくれる。

次郎岌

剣山と次郎岌を結ぶ稜線は、北と南を分かつ。夏の南風が湿った空気を谷底から吹きあげ、一気に雲になって頂上を立つ僕たちと同じ高さを通り抜けていく。生き物のように湧きあがる雲の中に見え隠れする稜線は、とても幻想的。そして、雲と同じ高さに立つ頂上は、とても神秘的な場所だ。

剣山山頂の笹原

笹野原の中を雲が足早に通り過ぎて行く。こんなに近い場所を雲が走って行く。高山の神秘的な美しさであり、また人を惑わす怪物でもある。

剣山からの展望

空を漂う雲よりも高い場所にいる。そして、雲の向こうには幾重にも立ち並ぶ山々の稜線。とても美しい世界。水墨画に色を入れると、まさにこんな感じになるのだろう。

剣山山頂

雲が漂う頂上で、その幻想的な風景をじっくり楽しんだ。さて、あまりゆっくりもしていられない。天気は確実に下り坂だ。
剣山登山にはリフト駅からメジャーなルートとして3つある。僕がお勧めする下りのコースは、この次郎岌に向かう稜線をおり、剣山の西側の巻き道を行くルート。この次郎岌の稜線美を見ながら下るルートは、本当に高い山に来た事を感じさせてくれる。
さあ、雲の上から、雲が流れる稜線の鞍部に向けて、これから下山開始だ。

雲の上の剣山頂上からの下山

剣山稜線

頂上でその美しい風景を楽しんだら、ついに下山だ。360度のパノラマの中、最も美しいと思われるのは、南西側。隣の山の「次郎岌」(ジロウギュウ・1929m)とそれを結ぶ笹野原の稜線。まさに四国の山を形容するような、美しい独特の風景で、剣山の風景の中で一番大好きな僕の風景である。その風景を見ながら下山できるのが、この尾根を下り、剣山の西側を巻き、剣山リフトの「西島駅」にいたるコース。最短コースの2倍ほどの時間が必要だが、この絶景を見ながらの下山は、30分程度の時間ロスには替え難い至極の時間である。

剣山からの次郎岌

少しずつ道を下って行くごとに、さまざまな表情を見せてくれる次郎岌の美しい姿。この日は空を流れる霧がヴェールのように次郎岌の姿を見え隠れさせる神秘的な風景。登りにこの道を使うと、次郎岌の美しい姿を見ることができない。やはりこのルートは下りに限る。

剣山の笹原

稜線から南側の谷間を見下ろす。深い谷に深い森。手つかずの大自然が一面に広がる、とても雄大な風景。

剣山と次郎岌の稜線の鞍部

剣山と次郎岌の稜線の鞍部にたどり着いた。ここで美しい稜線歩きは終了だ。ここから次郎岌までは1時間弱でたどり着けるが、天候悪化の懸念もあるのでこの日は素直に下山することにする。稜線から離れていく道が、リフト方面へ下山する道。写真は、今、剣山頂上から下ってきた道。頂上はもう霧の中に隠れてしまっている。

剣山の稜線

剣山の懐を巻くようにして、美しい笹原の広がる稜線から離れていく。少し名残惜しい気もする。しかし、ついに次郎岌も深い雲にその頂を覆われてしまった。雲のすぐ真下の世界。手を延ばせば雲に触れそうなくらいの幻想的な光景だ。

剣山の稜線

剣山と次郎岌の間に広がる深い森。西日本でも最も高い場所にある、原生林のひとつだろう。人間を寄せ付けない、深く険しい森。ここには人智の及ばないような不思議な世界が広がっているのだろう。
そう思っていると、神秘の森の使者が突然僕たちの目の前に姿を現した。

剣山山麓には秘境と言われる祖谷渓を流れる祖谷川の源流の森が広がっている。多くの木々に閉ざされた森は、とても深く、人が立ち入ることを許さない、原始の森。深い森には、人智も及ばないような神秘が漂っていそうだ。

まるでもののけ姫!剣山の森に棲むニホンカモシカ

剣山のニホンカモシカ

何か岩場の影に潜んでいる。こっちの様子をじっとうかがっている。ニホンカモシカだ!僕の登山歴は15年を超えるが、これだけカモシカを間近に見るのはまだ2回目だ。(カモシカと思われる動物が近くから走り去って行ったことは何回もあるが・・・)
カモシカは国の天然記念物である大型哺乳類。「シカ」という名前がついているが、実際はウシやヤギの仲間に近いそうだ。

剣山のニホンカモシカ

こちらとの距離も十分あり、危害を与える心配がないと判断したのだろうか。ゆっくりと草を食み始めた。野生のその姿は、とても雄々しい。

剣山のニホンカモシカ

再びこっちをじっと見ている。僕が今まで出会ったカモシカはすぐに逃げてしまったので、僕はカモシカは非常に警戒心が強いものだと思っていた。しかし、ネットなどで調べてみると、本来カモシカは好奇心がとても強く、人間がかなり近づいても逃げないそうだ。これではどちらが観察されているのかわからない。

剣山のニホンカモシカ

するとカモシカが岩の上に飛び乗った。「お立ち台」に立ってくれるなんて、サービス満点だ。

剣山のニホンカモシカ

一眼レフに200mmのレンズを装着して撮影。ノートリミングでカモシカの姿もここまで写せる。

剣山のニホンカモシカ

断崖絶壁を覗きこむカモシカ。カモシカは崖や急斜面を難なく移動する。まさか、ここから崖を一気に下って森に帰るのか?
頭の中には「もののけ姫」の音楽が流れてきた。まさに、もののけ姫の1シーンを見ている。そんな風景。

剣山のニホンカモシカ

結局崖を掛け下る壮絶なシーンは見せてもらえず、元に戻ってきた。カモシカを最初に発見したのは僕たちだったが、気がつくと登山者が他にも何人か、カモシカに気づいて立ち止まっていた。そんな人間を観察しているかのようにも見える。

剣山のニホンカモシカ

と思ったら、そっぽを向く。とても気ままに生きているように見えるが、その顔つきは勇敢で凛々しい。

剣山のニホンカモシカ

カモシカはこの森で生きているのだろう。一部地域ではカモシカが増えすぎ、食害がひどいと聞くが、四国のカモシカはまだまだ数が少ないそうだ。
カモシカの足元に広がるのは、広く深い底なしの森。今日はわざわざ、この森が人間たちに伝える声なき言葉を持ってきてくれたのだろうか。この森の中にはまだ、僕たちが知らない神秘が眠っているのだろう。

剣山頂上直下から湧き出す「剣山御神水」

剣山

その名前にそぐわないどっしりとした剣山の山容と一面の笹原の広い稜線。そして、森の中に所々に姿を見せる巨大なモニュメントのような岩が語る石灰質の地層。頂上直下なのにとても沢の水量が多いと感じたこの剣山がもたらすものは美しい水。この剣山は四国を代表する大河・吉野川の源流ではないが、その吉野川が美しくあるために、多くの清らかな水を提供している。そんな剣山には「日本名水百選」に選ばれた神々しい湧水がある。
剣山の西側を巻くように進む登山道。今回は剣山の頂上から下山でこの道を進んでいる。その途中、山々を見下ろす高い場所、そして深い森の中に、どうしても目を奪われる場所が現れる。

大剣神社

現れたのはまるで剣先のように天に向かって突き出した巨大な岩。そして、その剣先の部分に触れるかのように佇む建物。
この建物は、「大剣神社」
剣山の中にはいくつかの神社があり、ここもそのひとつ。ここには神主さんが駐在しており、剣山頂上を目指す登山者の参拝も後を絶たない。ここは「天地一切の悪縁を絶ち、現世最高の良縁を結ぶ」とされる縁結びの神社のようだ。そういえは数年前、友達数人でこの神社に参拝したとき、一緒だったもてる女性と神主さんの会話を思い出した。
女性:「縁切りのお守りってありますか?」
神主:「そんなもん、ありゃせんよ」
・・・美人というのも楽じゃないのね

御塔石

大剣神社はリフトの西島駅から鳥居の立っている道を進むと途中にある。この道が頂上への最短ルートになるので、ここを通る人は多いだろう。しかし、今日は大剣神社の下を通って西島駅に戻るルートを進んでいる。さすがに神社まで登るのきつい。しかし、神社のご神体である巨大な「御塔石」の下に小さな祠があるのが見える。今回はここまでもう一度、ルートを少し外れて登り返すことにする。

剣山御神水

「御塔石」の真下にある小さな祠にたどり着いた。その祠の横は小さな穴があり、柄杓が置いている。なんと、ご神体である巨大な岩の下から、水が湧き出しているのだ。
これが日本名水百選に選ばれた「剣山御神水(つるぎさんおしきみず)」だ。

剣山御神水

岩の隙間からこんこんとわき出す、透明な水。ここは標高約1800m。この付近一帯の最高峰の頂からわずか標高にして150mほど下で、これだけの湧水があるのはとても貴重だ。しかも、神社のご神体の下から。とてもありがたく、神秘的な水だ。
さっそく一口頂く。日本の多くの湧水は無味無臭であっさりと飲めるのもが常であるが、この水は明らかに違う。味が固い。なかなか表現できないが、ちょっと苦味を感じるクセのある味だ。一発でこの水は硬水であると確信できた。

【現地の案内看板より】
◆その昔屋島の合戦に敗れた平家の一族が、安徳天皇を擁してこの地に逃れ、 平家再興祈願のため大山祇命(剣神社)へ帝の紐剣と共にこの水で禊いだお髪を奉納した。
◆この水は剣神社の御神体である御塔石の根本より湧き出ており、 昔から神の水として崇められています。
◆この付近は石灰岩質であるためミネラル分に富んでおり、 長期間腐らず病気を治す若返りの水としても知られています。

暑い夏の登山。冷たい水は乾いた喉を潤してくれる。しかもこんな高い山の上にあり、神社のご神体がもたらしてくれる美しい水。疲れて火照った体に、剣山の高い空を駆け抜ける涼しくさわやかな風が染みわたる。そんな気がしたありがたい湧水だった。

剣山登山の宿泊情報

剣山に登山をするならできれば付近の宿で一泊するゆとりのあるスケジュールで臨みたいですね。剣山付近には温泉や食事が美味しい宿が多くあります。徳島自動車道・美馬ICからのアクセスが登山のメインルートになります。オススメの宿を登山口から近い順に並べてみましたのでご参考に願います。

また、時間があれば国道439号線で秘境雰囲気満点のかずら橋を擁する祖谷渓や吉野川の渓谷美大歩危・小歩危へ向かうことができます。剣山から程近い温泉施設と、ケーブルカーで渓谷に降りる秘境露天風呂の宿が以下の2つの宿です。

シェアする

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください