大山登山【夏山登山道と行者コース】

最終更新日

Comments: 0

中国地方唯一の日本百名山である標高1729mの「大山」(だいせん)。高さはそこそこの山だが、日本海から一気に立ち上る山は常に冬の北風と大雪にさらされる。崩れやすい岩質も手伝って、標高3000m付近の日本アルプスのような地形や植生を垣間見ることができる山だ。
朝6時過ぎ、大山寺付近、スキー場の駐車場に車を停める。冬はスキー客でにぎわうこの駐車場も夏場はガラガラ。そのため、冬場は1000円徴収される駐車料金も夏場は無料で済む。

大山夏山登山道は大山寺前より出発

駐車場から見上げる大山。少し雲がかかっているが、朝日に照らされて美しい姿を見せてくれる。しかし今日の天気予報は悪い。今は晴れだがこれから天気が崩れていく。今日はとにかく飛ばして登ることにする。天気が悪くなる前に頂上の絶景を堪能するのだ。
目指す頂上の「弥山」は写真右側の稜線を登りつめた中央のピークがそうだ。しかし弥山の標高は1709m。大山の標高1729mmの最高峰は写真左側のピーク「剣ヶ峰」だ。弥山から剣ヶ峰への稜線上を行く登山道はあるが、数年前の地震で激しく崩壊し現在は通行できなくなっている。そのため剣ヶ峰には登頂できない。

駐車場に車を停め、静かな大山寺の参道を歩く。スタートとなる駐車場の標高は約800m。今から標高差900mの登山の開始だ。
途中、佐陀川を横切り、夏山登山道入口を目指すが、大山寺大橋を渡ったところにも駐車場があった。トイレも完備されていて、ここには登山客の多くが車を止めていた。しまった、どうりでさっきの駐車場が空いていた訳だ。
大山寺大橋からは、下界の風景がとても美しく見える。大山のすそ野は何にさえぎられることなく、一気に日本海へと沈んでいく。弓の弧を思わせる海岸線は「弓ヶ浜」。そして、山々が海に突き出しているの風景は美保関だ。朝日に照らされてまぶしく輝いているのは米子市。素晴らしい海のある風景の展望がここから楽しめる。

広大なブナの原生林の中の登り

夏山登山道は大山寺の境内から出発する。まずは境内の中の延々と続く苔むした石段を登っていく。そして、境内を出ると、よく整備された登山道が山の上へと続いていく。
さて、登山地図を見るとわかるのだが、夏山登山道は山頂に向けて一直線に登っていく。つづら折りはしないのだ。要するに直登。大山は信仰の山であるが、信者の登山は禁止されていた。大正9年にこの夏山登山道が開かれ、登頂が許された信仰の山としては比較的新しい登山道である。
とにかく階段が続く続く。気持のよいブナ林の中を息も切れ切れに登山者たちは登っていく。なかなかきつい道である。

時々ブナ林の間から大山が顔をのぞかせる。しかし覗かせた顔は、もうガスに覆われ始めていた。あああ、なんてこった。もう絶景は無理そうだなぁ。とりあえず大山を登頂した山のひとつにするべく、ひたすら登ることにした。

もうすぐ6合目の避難小屋。視界が開け、大山の稜線が目の前に広がった。相変わらず雲は山の姿を包み隠しているが、ところどころ雲は解れ、山の姿を露にしている。大山を覆う雲だが、まだ大空は覆えていない。青空と眩しい太陽が顔を出している。まだ夏の強さが残る太陽は、まぶしく大山を覆う雲のヴェールを美しく輝かせた。

わずか6合目で越える低すぎる森林限界

6合目の避難小屋を過ぎると、風景は一気に変貌する。日本海を越えて大陸から吹きつける厳しい寒風と豪雪のために木々は全く育たない。いわゆる森林限界を大山では標高1300m程で越えることになる。
特に8合目から頂上直下にかけてはダイセンキャラボクが広がっている。一見ハイマツのように見えるが、裸子植物類イチイ科の常緑針葉低木で、高木イチイの変種。人の背丈ほどのダイセンキャラボクの中を登っていく。

9合目付近の窪地はダイセンキャラボクの純林となっていて、樹齢約600年。国の天然記念物に指定されている。
その林の中を登山道は木々を傷つけないように木道となって抜けていく。今までの階段や岩の登山道に比べて格段に歩くのが楽になった。
と、思っていたらパラパラと雨が降り出した。あああ、天気はもたなかったか。とにかくもうすぐ頂上だ。
9合目を過ぎた所に、木道は左右に分岐している。このダイセンキャラボクの純林を1周するルートが作られているが、左の道へ行った方が近道だ。雨がぱらつく中、とにかく頂上に急ぐ。本降りになる前に登頂の証拠写真を撮り、避難小屋で雨天装備に切り替えて速攻下山だ。

頂上からは中国山頂と日本海を望む絶景!

霧の中にやっと頂上避難小屋の姿が見えた。小屋を通り過ぎて少し行くと、そこが大山の頂上だった。写真もあまり撮らず、ハイペースで登ったので、コースタイムより1時間近く早い登頂だ。
残念ながら展望はすべて霧の中だ。しかし、先ほどまでぱらついていた雨は上がった。このまま少し、天候が回復するのを待ってみようと思う。
頂上付近は木道がそのままウッドデッキのように広くなっている。大山は現在崩壊していて、頂上付近ももろい場所がある。ここから最高峰剣ヶ峰への縦走路があるが、現在はロープが張られて立ち入りが規制されている。
頂上小屋付近には「石置き場」というのがあった。「一木一石運動」というものが行われていて、登山者に麓からひとつでいいので石を崩壊する大山の頂上に運び上げてもらう呼びかけである。運び上げた石で、大山付近の地盤を整備し、緑化を図って崩壊の進行を防止するそうだ。実際に20年前に比べかなりの相当の裸地が緑地へと変わっている。今回は僕はこの運動を知らなかったので石は持って上がらなかったが、賛同する方はぜひ、山麓の石を頂上に運んでください。
さて、霧の中で早めの昼食をとっていると、突然霧が開け、上空には青空が開け始めた。とても幸運だ。諦めかけていた頂上からの展望が、今目の前に開け始めた。運が良ければもう一度、青い空の中へ頂上を押し出してくれそうな感すらする。そう思い、頂上で昼食をとりながら、天気の様子を伺い続ける。

突然、目の前を覆っていた霧が舞台の幕が開けられるように、左右へと何の合図もなしに引き払われた。霧のヴェールの向こうには隠されていた下界の姿が現れた。その美しさに、頂上のウッドデッキで開演を待っていた、登山客という観客から一斉に歓喜の声が上がる。

西側の展望は先ほど開けたが、東側、大山の最高峰「剣ヶ峰」へと続く稜線はまだ深い霧の中だ。それでも少しずつ、霧は生きているかのように山の下へと降りていく。それと同時に、霧のヴェールの中から、大山の険しい岩肌が姿を現す。
今もなお、崩れ続ける稜線の姿。それはとても険しくて荒々しい。この霧の向こうは、飛ぶ鳥さえ近づくことのできない断崖絶壁のようである。そんな崩れゆく絶壁の世界へ、下から猛スピードで登って来た登山者が一人、立ち入り規制のロープを乗り越え、稜線へと続く縦走路に入っていった。あっという間にその人は、霧の向こうの断崖絶壁の世界へと消えていった。その後、霧の中から他の登山者が2人、断崖絶壁の世界から現れ、こちらの登山道へ生還した。
大山の縦走路は崩落の危険性のため、ロープを張られ立ち入りが規制されている。今、この縦走路に入っていた人の姿や装備を見ると、明らかに熟練者だ。実際、アルプスでも登山道以外の道のないルートを行くエクスパートたちもいっぱいいる。ここから先の封鎖された未知は、技術と経験、そして覚悟がないと立ち入れない世界になっている。

霧のヴェールがゆっくりと引き取られていく。ついに隠されていた大山の姿が露になっていく。刃こぼれした鋭利な刃物のような稜線の奥には最高峰の剣ヶ峰(1729m)
頂上には祠がひっそりと建っている。縦走路が閉鎖された今は訪れる人もほとんど無く、ひっそりと山の上に建っている。

脱いだ衣服を一気に放り投げたかの様に、霧は一瞬にして振り払われた。大山稜線の姿は何も隠すものなく露になる。そして、その後ろには鋭く尖った烏ヶ山(からすがせん・1448m)の姿も現れた。烏ヶ山も大山稜線と同様、地震にて登頂する登山路を失った山だ。スモークのように青空を漂う雲が、美しい山岳風景を際立たせてる。

上空の雲も払われ、青空が広がり始めた。眩しく強烈な太陽の光が大山の険しい岩肌を照らし始めた。太陽の下に雲の中から現れた大山の険しい岩肌の姿は絶景だ。
わずか標高1700m程の山なのに、その姿は3000m級の頂を連ねる日本アルプスの雄大さに匹敵する。雨の中、あわてて降りはじめていたら見られなかった風景。頂上付近で僕と入れ違いに雨の中、走るように下りて行った人は今頃地団駄踏んでいるだろう。まさにごくわずかな時間差と判断の差で手に入れた絶景に、酔いしれる。

大山の山麓からも雲が引いていく。それと同時に、大山の広大な山麓の展望も眼下に開けた。
広がる緑、そしてその向こうには日本海。大山が日本アルプスのような雄大な風貌を持つ理由は、間近に迫る海にもある。冬は海から北風が容赦なく吹き付ける大山は、厳しい雪の世界になる。雪と氷が削り出す荒々しさが、今足元に広がる岩の大地に息づいている。

短い大山の展望の時間は終わりを告げようとしている。再び音もなく、2度と開きそうにない思い雲の幕が大山を閉ざそうとしている。クライマックスを飾るかの様に、痛々しくも感じる強烈な日差しが大山と岩肌と雲のヴェールを照らす。太陽に照らされた雲は真っ白に輝き、青空と映える。もう、展望が見えなくなるのはわかっていた。しかし、これは大チャンスであった。
山で出会う奇跡の風景、「ブロッケン現象」の条件が今すべてそろった。自分の影が太陽に照らされて、浮かぶ雲のスクリーンに映るのが「ブロッケン現象」だ。しかも、雲に映った自分の姿は、虹の後光で囲まれているというおまけ付きなのだ。切り立った稜線、照りつける太陽、太陽と反対側の斜面から登ってくる雲の3つの条件がそろって初めて見れる。雲が登ってくる絶壁部分に目星をつけ、そこへと走り込んだ。見れるか・・・しかし雲のスピードは速かった。あっという間に斜面を登って来た雲は、稜線をあっという間に飲み込んだ。見れなかった。「ブロッケンの怪物」にはなかなか出会えなかった。それと同時に大山の展望という素晴らしい上演は幕を閉じた。最後は奇跡のエンディングにはならなかったが、これだけ素晴らしい展望を見れたこと自体奇跡だ。そう思い、大山の頂上を後に、下山を開始した。さっきまでの晴れ間が再び分厚い雲に覆われた今となってはまるで嘘のようだ。しかし、一瞬のぞいた晴れ間は、まだまだ天気は悪化しないことを語ってくれた。下山後までは、雨に打たれることはないだろう。それだけでも一安心だ。

下山はもうひとつのルート「行者コース」で

国の天然記念物、ダイセンキャラボクの純林を行く。9合目付近から、この純林を1周できる木道が作られている。登りは雨が降り始めたので最短ルートを行ったが、下りはゆっくりと1周してみる。
途中、岩小屋などがあり、まるでハイマツに覆われ日本アルプスの高い山に来たような感じだ。ただ1周すると、上り下りがあるので、体力を温存したい人は分岐を右に進んで直接下山しよう。

分厚い雲に覆われているのは大山の頂上付近だけのようだ。標高を下げていくと、雲が途切れ、下界が見えてきた。
大山は崩壊が続いていて、ここも大きく崩れている。この崩れは谷となり、下界へと大量の土石を押し流す川となる。下界の川では、そんな土石流を防ぐため、砂防堰堤が何重にも組まれている。

やっと雲の下まで降りてきた。下界の大パノラマが目の前に広がる。牧場やスキー場が点在する大山山麓の向こうは米子市。そして、弓ヶ浜を経て境港、海に突き出した半島の美保関へと風景は続く。
海の近くに突き出した標高1700mを超える大山。こんな高い場所から真下に海を見下ろせる場所は日本にそうない。とても素晴らしい風景を目の前に楽しみながらの下山だ。

6合目避難小屋を少し下ったところで分岐点。ここから登りとは別のルートで下山する。写真右下にある建物は大神山神社。ここへ下っていく「行者コース」だ。

分岐点には「元谷は危険なので立ち入らないように」と看板が立っている。しかし危険個所は途中通過する元谷という谷だけであって、ルートはかなり整備されている。
急な斜面を下っていくが、立派な階段や木道が設けられていて危険は少ない。ただ、登り同様、延々と階段状の下りが続くので、ペースは抑え気味に。ここで急ぐと、一発で筋肉痛になる。

長い森の中の下りを進むと、突然森が途切れ、広い河原に飛び出す。今もなお、崩れる大山の通り道。それがここ、元谷だ。このルート唯一の危険地点で、素早く通過するように、看板が立てられている。
ゴロゴロと足もとに転がる大小無数の転がる岩は、大山から崩れ落ち、ここまで転げ落ちてきたものだ。幾重にも砂防ダムでこれ以上崩れないようガードされているが、大山は岩礫を今もここへ転がしてくる。
元谷を通過すれば、また道は深い森の中へ。深いブナの原生林を進むと、突然目の前に神社とも寺とも区別のつかない大きな建物が現れる。大山から見下ろしていた「大神山神社」に到着したのだ。
ここからは神社の参道をゆっくりと下って行く。参道の終着点が、車を置いた駐車場だ。

大山の観光と宿泊情報

大山の宿泊の選択肢は多くあります。
まず、大山山麓にはリゾートホテルやペンションが多くあります。 森の香りを感じる大自然の中でゆっくりと滞在できます。
また、車で20分走った場所にある「皆生温泉」は海沿いに旅館が建ち並ぶ山陰屈指の温泉地。 美味しい海鮮はもちろん、海を眺めながら入れる温泉が自慢の宿がずらりと並んでいます。フィールド近くの森の中か、海の近くの温泉か好きな場所に泊れるのも大山付近の魅力です。

■ 皆生温泉・大山のホテル・宿一覧

シェアする