肱川あらし【晴れた冬の朝に見られる幻想的な風景】

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その季節、その時間にしか見られない風景。それは日本中の様々な場所に存在する。時にはそれらは信じられないような表情を見せることもある。
そんな神秘的な風景は愛媛県でも見られる場所がある。愛媛県最大の河川、「肱川」の河口がある大洲市長浜町。それは晩秋から冬の朝、天気が良いと信じられない風景を見せてくれる。それが「肱川あらし」という、肱川を流れ降りてきた一面の霧が町や海を包み隠す幻想的な現象だ。

冬のよく晴れた朝が肱川あらしを見るチャンス!

朝6時過ぎ。まだ夜が明ける前に訪れたのは肱川河口を見下ろす山の上。ここにある「肱川あらし展望公園」の展望台から見下ろした長浜町の風景。静かな港町だが、この港町は冬場のよく晴れた朝は神秘的な光景になる。その現象を見れるキーポイントは「放射冷却」。少し雲が多いので、思ったほど冷え込みは少ないが、まだ今からでも気温が下がるはずだ。寒空の下、かじかみそうになる手でライトで手元を照らしながらカメラを三脚にセッティングする。あとは静かな夜景を見ながら、大自然が織りなす神秘の幕開けを待つ。

空が少しずつ明るみ始めた。夜明。とても静かで美しい時間。神秘の舞台の幕開けにふさわしい風景だ。奥に見えるのが愛媛県県庁所在地、松山市の街灯り。ここまでは車で約1時間の距離。そして手前に見えるのが長浜町の工場群の灯りだ。

夜明けと同時に始まる幻想的な風景

海を見ると、すでに神秘的な光景が始まっている。海から靄が大量に湧きあがっている。不思議な事に、広い海の一部分、肱川の河口付近からのみ、そのもやは姿を見せている。

「肱川あらし」はこの肱川で起きる自然現象。肱川の中流域にある広大な大洲盆地で明け方の放射冷却で発生した霧が、海まで流れ出してくる現象。肱川は大洲盆地から切り立った山に挟まれるようにして海に注がれている。狭まった特殊な地形の肱川を、霧が一気に流れ、瀬戸内海まで押し出される。その為、この河口にある長浜の町は、朝には深い霧の中に包み込まれてしまう。それが「肱川あらし」だ。
夜明けと同時に、ゆっくりと上流から霧が流れ出してきた。それはまるで煙突から吐き出される煙のように、もくもくと谷間から長浜の町へと押し出されてくる。しかしまだ、その量は少なく、河口の広がりへと押し出されると、すぐに消えてなくなる。霧の本体の到着までは、もう少し時間がかかりそうだ。

大量の霧が押し寄せるまでは、海の靄を楽しむ。おそらく河口から流れ出す水の温度と海の温度の違いが生み出す現象だろう。瀬戸内海の島々を背に大量に発生する靄もとても神秘的な風景。

深い谷間に湧きあがる霧。朝日を受けて、茜色に輝き始める。それは今から始まる神秘の開始の合図のようかだった。

朝日が射し込み始めると幕開ける肱川あらし

時間は7時30分。日は昇り、朝日が眩しく肱川を照らし始めた。川を流れ下ってくる霧の量は少しずつ増えてきた。そして、どんどん霧が飛ぶ高度も下がってくる。

ついに霧が雲のようになり、谷間から肱川の河口、長浜の町へと押し出されてくる。ゆっくりと霧は海辺の町を包み始めた。「肱川あらし」がついに姿を現した。

霧に覆われていく長浜の町なみ。赤い橋は「長浜大橋」。通称「赤橋」。現役のものとしては、日本で最も古いバスキュール式(跳ね上げ式)の道路可動橋だ。霧に包まれる歴史ある橋の姿は、この「肱川あらし」の光景を、さらに幻想的なものにしてくれる。

どんどんと、谷間を流れ下りてくる霧。朝日に照らされ、とても美しい色に染められていく。朝の静寂に包まれながら、太陽に照らされた風景は躍動的。霧はまるで生き物のように、飛ぶように海へと向かっている。

霧はすごい勢いで、どんどん上流から流れてくる。それは幻想的でとても速い川の流れのよう。

川面一面に覆い尽くす霧。とても不思議な光景。「肱川あらし」の幻想的な風景。それは信じられないくらい神秘的。町と自然が作り出す、見事で美しい風景だ。

霧に包まれていく長浜大橋。その霧の中も時々、地元の人の車は渡って行く。神秘的な風景にも、日々の生活は変わらず繰り返されている。

海へと流れ出していく肱川あらし。海に帰るかのように、ゆっくりと大海原に消えていく。残念ながらこの日の「肱川あらし」はとても小規模。大きな「肱川あらし」が発生すると、町は霧にすっぽり覆われて見えなくなる。そして、大海原のはるか沖合まで、その霧は押し出されていく。

朝日がとても眩しくなってきた。朝日は後方から肱川を照らし出す。すなわち「順光」。光量も十分になったので三脚を取り外し、ISO感度も下げ、手持ちでの撮影に切り替える。

長浜の町の全景。愛媛県で一番大きな川の河口にありながら、町の規模はとても小規模。それは、この肱川あらしを発生させる要因である、海まで切り立った山に覆われている肱川の流れにありそうだ。山の麓にへばりつくように街が川沿い、海沿いに並んでいる。海の匂いを感じながら、深い山に囲まれた中流域を思わせる不思議な河口の風景だ。実際この肱川沿いを車で走ると、その神秘的な川の風景には目を奪われる。ちなみに写真中央奥、海の上にうっすらと見えている島影は、四国最西端の佐田岬半島。

霧に包まれる「長浜大橋」昔はこの上流の城下町・大洲から、大量の木材を船で運搬してきた。その船を通すため、この橋は頻繁に稼働して船を通していたそうだ。しかし、鉄道が肱川沿いに敷かれ、木材の需要が減ると、この橋の役目は静かに終わった。今は「長浜大橋」の下流にりっぱな橋もつくられ、この橋の存在自体危ぶまれたこともあったそうだ。しかし今も橋は、長浜の町のシンボルとして、そして町民の足として、冷たい「肱川あらし」の中で堂々としている。

海に流れ出した肱川あらしも幻想的で見逃せない!

瀬戸内海も朝日に照され始めた。まだ海面に漂う靄。夕陽に照らされてとても美しく色づき始める。幻想的な朝の風景がこの展望台からすぐ下の海で広がっている。

朝靄の中を突き抜けるように走るウインドサーフィン。とても気持ちよさそうだ。肱川から噴き出す強烈な肱川あらしの風を受け、すごいスピードで海靄の中を突き抜けていく。スピードと幻想的な海の上。この長浜の朝一の冬場のウインドサーフィンは、愛好家にとってはたまらなく面白そうだ。

海の上を快走するウインドサーフィン。その姿は、まるで大空を行くジェット機のよう。靄に包まれた海は、まるで秋空の様相。海と空、その境目すら分からなくなる、幻想的な朝の風景だった。
さて、8時半をまわると、流れ出してくる霧の量も少なくなってきた。そろそろ「肱川あらし」もおさまりそうだ。完全にあらしが止む前に、見下ろしていた「長浜大橋」へ行ってみることにする。

長浜大橋で肱川あらしを直接感じよう!

朝9時。「長浜大橋」に到着した。東側の橋の袂が少し広くなっているので、短時間なら駐車は問題なさそうだ。また、橋の横からすぐ河川敷に車で入ることができるので、そこならゆっくりと車を止められる。大きな霧はもう流れてきていないが、橋の下を霧が風に吹かれて海へと流されていく。

「長浜大橋」から見上げる上流。とにかく風がすごい。「あらし」という名は伊達でなく、肱川の上流からは、きつく、寒い風が海に向かって吹いている。それはもはや突風で、川は激しく波立ち、パシャパシャと橋脚に砕けて激しい音を立てている。

「肱川あらし」の風はとても冷たく、ダウンジャケットで身を包んでいても、一気に体温を奪っていくほど。この橋の上には5分も立ってはいられない。「肱川あらし」の撮影ポイントとしては、先ほど訪れた「肱川あらし展望公園」がベストである。その公園から見下ろしていると、この赤橋からの撮影もよさそうに思える。しかし、大量の霧が包むと何もここでは見えなくなってしまうこと。そして、とにかく寒くて風がきつくて、長時間の撮影には耐えられないこと。それが原因だと推測されるが、あまりこの橋から肱川あらしを撮影した写真は多くない。

肱川の上流を橋から眺める。はるか彼方には、大洲盆地で発生した大量の朝霧が、谷間にあふれんばかりに漂っている。堰を切ったようにここに流れてくると、神秘的な「肱川あらし」の風景となる。もう随分と霧が少なくなったようで、今は靄のようになって、川面をすごい速さで飛んでくる。

写真中央、山の稜線にあるのが、先ほどまでいた「肱川あらし展望公園」の展望台。あそこからこの橋を見下ろしていた。しかし、本当に肱川は寒い。山の上の展望台の方が全然寒くなかった。冬場はこんなに寒く強い風に朝から吹きつけられる長浜の町の生活は、とても厳しいものだろう。温暖な愛媛にありながら、まるで強烈な北風がたたきつける日本海を思わせるような冷たい気候。それがこの長浜の朝の、神秘的な姿を生み出している。そう思うと、この痛いくらいの冷たい風は、自然が生み出した美しい芸術の筆跡だと深く感動すら湧きおこるものだった。

肱川あらしを見るのに便利な大洲中心部のホテル

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