紅葉の長瀞岩畳【月の石もみじ公園まで散策】
東京湾にそそぐ荒川の上流にある「長瀞」。全長約6kmで、渓谷に囲まれた穏やかな流れが長く続くことから長瀞と呼ばれています。風光明媚で荒々しい風景のほか、川下りでも人気の長瀞ですが、地球の深くで形成された岩盤が露出している場所で、地質学的にも注目を浴びているスポットでもあります。
そんな地球の地下深の地質が地上に現れた場所が「長瀞岩畳」です。まるで畳を段々に幾重にも広げたような不思議な地形が延々と広がり、その上の散策は比較的安全にワイルドなトレッキングを楽しめるような場所になっています。
長瀞ライン下りの乗船口もある賑わう長瀞岩畳
長瀞岩畳の散策のスタートは、秩父鉄道長瀞駅。付近には駐車場も多数あるので長瀞へのアクセスの中心になります。長瀞駅から徒歩5分ほどで長瀞岩畳に出ることができます。
岩畳から北を望むと、岩の渓谷に囲まれた瀞を抜けて緩やかに流れ出す荒川の美しい風景。東京へと向かって流れていく荒川ですが、この長瀞では北へ向かって流れています。この先深谷や熊谷付近で大きくUターンして東京湾へと南下していきます。
長瀞ライン下りの船乗り場となっている河原から上流側にかけて、巨大な岩盤が続いています。ここが長瀞を代表する景観のひとつ、長瀞岩畳です。幅80メートル、長さ500メートルにわたる広大な自然岩石が荒川沿いに続いており、段丘の上一面に岩の畳を敷き詰めたかのような独特な風景が広がっています。
この岩畳の上は平らで階段状になっているので歩いて散策することができます。岩の上には水が流れていたり、草が茂っていたりと不思議な風景になっています。
■長瀞駅からの途中で名物をテイクアウト
風光明媚な長瀞を見下ろしながらの岩畳散策
岩畳の縁からは流れる荒川を見下ろすことができます。この付近は水深が深く、ゆっくりと流れて長瀞と呼ばれる由来となっています。
岩畳の対岸にある絶壁は「秩父赤壁」(ちちぶせきへき)と呼ばれています。高い場所では高さは100mにおよび、幅500mに渡って続き、岩畳と向かい合い、流れる荒川を挟み込んで壮大な渓谷風景をつくりだしています。
秩父赤壁の名前の由来は中国の赤壁ですが、11月中旬~下旬の紅葉の季節には赤や黄色の色鮮やかな紅葉に彩られ、赤壁という名前がぴったりなくらいに美しくなります。その下を流れる青く淀んで瀞となった荒川とも相まって、至極の秋の景観を作り出しています。
■長瀞岩畳にある心地よい観光旅館
地球深くの地層が露出した不思議で貴重な地形
長瀞岩畳の風光明媚な風景に魅せられて訪れる人は古くから多く、大正13年に国の名勝・天然記念物に指定されています。また、地球の奥深く、地殻内部でしか見られない貴重な地質をたくさん観察できる場所でありことから長瀞は「地球の窓」と呼ばれ、全国からたくさんの学者が訪れています。
岩畳の岩石は、結晶片岩という薄くはがれやすい岩石で、このような平らで畳のような四角い段々の地形になっています。この岩石は、かつて海底たった地層が地下約20~30kmの深さで強い圧力を受けて生成されたもの。地下深くから隆起して、節理というたくさんの割れ目が入って川の流れで岩盤がはがされたそうです。
岩畳の上に所々、様々な大きさの丸い穴があいています。これはポットホールと呼ばれるもので、大きなものでは直径1.8m、深さ約4.7mのものがあるなど、国内有数のポットホールの観察スポットです。これらはかつて岩畳が川底にあった頃、河床のくぼみに入りこんだ石が激しい川の流れで回転し、長い年月をかけて岩を丸く削り美しい穴となりました。
岩畳の上には岩の割れ目や甌穴がたくさんあり、それが大小様々な窪地をつくっています。場所によっては窪地に水が溜まり、まるで池のようになっており、手つかずの原野のような風景をつくりだしています。これらの小さな池は、四十八沼、いろは沼と呼ばれています。
岩畳の上を進むと、長瀞ライン下りをする船が進む姿を見ることもできます。岩の上から覗き込む長瀞の高度感は足がすくむくらいの高さ。断崖絶壁ですが、その下を流れる荒川の美しさには目を奪われます。
まるで荒野のトレッキングのような岩畳散策
広大な岩畳の上は、深い山々に囲まれた周りには何も人工物のない空間。大きな木々は生えず所々に池があるワイルドな風景が広がります。まるで高い山の上にある荒野に来たかのようで、探検しているような散策が楽しめます。
広大な長瀞岩畳の向こうにそびえる秩父赤壁の断崖絶壁が織りなす風景は壮大。アウトバックをトレッキングしているかのような気持ちになります。岩畳と赤壁の間は深い谷になっており、荒川がゆっくりと流れています。
岩畳を上流に進むにつれ、赤壁も低くなり、荒川の水深も浅くなってきます。岩畳上のハイキングが終わりに近づいています。上流に向かうほど、赤壁がまとう紅葉の濃度が濃くなり、さらに美しさが増してきます。
長瀞岩畳の南端にたどり着きました。秩父赤壁の間の狭まった渓谷の入口から長瀞に流れ込んでいく荒川。エメラルドグリーンの透き通った水がとても美しく見えます。この日は水量が少なく、ここをライン下りの和船が通過するのは大変困難になっていました。
長瀞の入口を見下ろしたら、岩畳の上を歩いて川岸へと向かいます。この付近になると池が多く、渡れる場所を探して歩いていきます。
池の間を探して歩いていくことは散策ではなくもはやトレッキング。階段状に岩が組み合わさっているので歩きやすいので、安全にワイルドな自然散策が楽しめます。この風景も最後。長い岩畳ウォーキングが少し名残惜しく思えます。
長瀞川下りと紅葉の美しい風景
しばらく進むと、ついに広い岩畳が終わりを告げます。それと同時に荒川は岩畳と赤壁の狭まりから解放され、一気に川幅を広げて開放的な風景となります。そして今まで静かだった荒川が、勢いよく流れ込んできています。ここは「小滝の瀬」と呼ばれる場所で、ライン下りの急流スポット。荒れ狂う川の中を下る長瀞ライン下りの代表的な風景はここなのです。この日は水量が少なく川を下る船は運休になっていましたが、通常時はここを水しぶきを上げて船が次々と下ってくる場所です。
また、この付近は紅葉が美しい一帯。少し岩の上に腰を下ろして、休憩がてらこの風景を堪能したいですね。
小滝の瀬からは「哲学の道」と呼ばれる遊歩道が続きます。紅葉の中を進む小径はとても気持ちよく、先ほどの岩畳と違った散策が楽しめます。
哲学の道から眺める荒川。川幅は広がり開放感が増しており、対岸の紅葉がとても美しい風景。秩父赤壁の荒々しい風景から穏やかな風光明媚な風景へと変わり、まったく違う場所に来たようです。ゆっくりと紅葉を愛でながらの散策を楽しみたい場所です。
哲学の道を歩いていくと、一面のモミジが真っ赤に紅葉する「月の石もみじ公園」に出ます。俳人の高浜虚子の句「ここに我句を留むべき月の石」に由来する公園で、森すべてが真っ赤に染まる風景は圧巻。11月の紅葉の見ごろにはライトアップもされる長瀞の紅葉の名所の一つです。また、公園に隣接する埼玉県立自然の博物館では、化石や岩石、地層などの地学展示を見ることができます。太古の地層が露出している長瀞付近では地球内部深くで形成された貴重な岩盤や岩石を見ることができ、「日本地質学発祥の地」とも呼ばれていのす。ここから秩父鉄道上長瀞駅から歩いて5分ほどでたどり着くことができます。
月の石もみじ公園からは南桜通りを歩いて歩き始めた岩畳のある秩父鉄道の長瀞駅まで戻ります。途中、秩父鉄道沿いに歩きますが珍しい貨物列車とすれ違います。これは秩父鉄道の石灰石輸送列車。秩父鉄道の沿線には、関東地方の一大石灰石の産地である武甲山があり、そこで産出された石灰石を運んでいるようです。悠久の時が作り出した大地の地層が大規模に地上に露出する秩父。その恵み運び出している様子を垣間見るものでした。
長瀞岩畳
場所: 埼玉県秩父郡長瀞町長瀞
アクセス: 秩父鉄道長瀞駅下車・徒歩5分
(駅付近に有料駐車場あり)
歩行距離: 約2km
紅葉の時期: 11月中旬~下旬
【投稿時最終訪問 2018年11月24日】