美ヶ原幼児連れハイキング
日本百名山のひとつ「美ヶ原」松本市のほぼ真東にある標高2000mの山。その山頂付近は台地上の平坦な地形になっており、「美ヶ原牧場」として広大な牧草地が広がっており、普通の山とは雰囲気はずいぶんと違う。そこにはホテルや山小屋なども点在し、遊歩道も整備されている。今回はそんな美ヶ原を4歳の娘とトレッキングを楽しみに訪れた。美ヶ原へのアクセスは車では2つ。松本市から「美ヶ原スカイライン」を走行する方法。そしてもうひとつ、霧ヶ峰方面から「ビーナスライン」を走行する方法。前者は霧ケ峰の西端、後者は東端へと到達する。西には霧ヶ峰の最高峰である「王ヶ頭」(2034m)があり、「王ヶ頭ホテル」という雲上のリゾートホテルがある。東には「美ヶ原高原美術館」やそれに併設された日本最高所の道の駅、「山本小屋ふる里館」「ホテル山本小屋」がある。残念ながら美ヶ原の西と東への縦断は車ではできず、徒歩となる。美ヶ原縦断は徒歩で片道約1時間半。美ヶ原の西と東、どちらに入るかで観光プランは大きく変わってくる。
車で訪れられる青空に手が届きそうな高原
今回は霧ヶ峰からのビーナスラインのドライブの終着点として美ヶ原に到着。駐車場を下りると、草原と青空が織りなす見事な高原風景が出迎えてくれた。
ビーナスラインからアプローチした美ヶ原の東側駐車場。「山本小屋ふる里館」がある駐車場には60台駐車可能。雲上の駐車場は、そのロケーションだけでも来た人を魅了する。「道の駅美ヶ原高原美術館」の駐車場なら800台も駐車可能なので、混雑期はそちらも利用したい。道の駅から山本小屋ふる里館までは、「牛伏山」(1990m)を登頂経由して約30分だ。山本小屋ふる里館はレストランやショップ、ホテルが一緒になった施設。霧ヶ峰のトレッキングの拠点になる事もあり、多くの人で賑わっている。
青空を渡る初秋の風が、緑に輝く草原を揺らしながら吹き抜けていく。深呼吸すると気持ちがいい。ここは標高2000m。雲上の高原で、空に手が届きそうな場所だ。
「山本小屋ふる里館」の前から砂利道が東へと向かい続いている。その道は美ヶ原牧場へ入り、丘の向こうまで伸びている。日本離れした、まるで北海道のような風景。広々とした高原の道を元気よく親子でトレッキング開始。
歩きやすく広い道で安心の高原ハイキング
牧場の中を一筋に続いていく道。空へと続いて行きそうな道はよく整備されていて、子連れでも安心して歩ける。ここから美ヶ原のシンボルともいえる「美しの塔」までは片道20分。観光客も歩いて行けるルートだ。この先には「美ヶ原高原ホテル」という山小屋がある。宿泊客の車や牧場の車はこの道を走るので注意が必要だ。とはいえ、向こうからやってくる車は遠くからでもよく見えるのだが。
青い空の中を流れる白い雲。緑色の草原が揺れ、雲からこぼれる光が生き物のように影を落とす。歩いているだけで心が躍る、高原の草原風景。
来た道を振り返る。なだらかな丘の上を進んでいく道は牧歌的。娘も歌を歌いながら、のんびりと進んでいく。軽い登山道具はもってきたものの、それはトレッキングではなく、散策のようだ。
草原の向こうに見えるのが、美ヶ原の西の端。美ヶ原最高峰の「王ヶ頭」(2034m)その山頂には「王ヶ頭ホテル」と、無数の電波塔が建ち並んでいる。その独特の山容は、美ヶ原を代表する風景でもある。「王ヶ頭ホテル」は標高2000mを越える場所にありながら、エステなどのリゾートを楽しめるホテル。この風景と雲海を見下ろしながら入れる風呂つきの客室は人気が高い。機会があれば、一度は泊まりたいホテルだ。
牧場の中を進む一本道は道迷いの心配はない。小さな幼児連れなので、20分かかる所を30分以上かけて歩いてきた。しかし、その30分の間に天気が一気に変わった。山の天気は変わりやすいというが、ここまで急変するのは稀だ。
青空の天気が一気に雨がこぼれ落ちそうな曇天になった。空の上に浮かぶ台地ゆえに、その気象条件は普通の山とは違うようだ。巨大な雲塊がやってくれば、遮る物がないこの牧場は一気にその中に飲み込まれる。
美しの塔で風景を眺めながらのんびりしたい
「美しの塔」に到着した。この塔は「霧鐘塔」という、霧で視界が遮られた時に、登山者に鐘で位置を知らせるためのもの。美ヶ原だけでなく、霧ケ峰のような草原は、霧に覆われると目標物が一切なく、本当にどこにいるかわからなくなる。以前車山で霧に包まれたが、まるでミルクの中に放り込まれたようで、方向感覚や距離感が一切奪われてしまった。美しの塔から王ヶ頭まで、近そうに見えても片道50分はかかる。天気は急激に悪くなっているので、本日はここで折り返す事にする。本格的に崩れるまでにはまだもう少し時間があるので、お菓子休憩。
「美しの塔」のよこには「ねころび広場」というところがある。よく見ると、この広場だけ、柵で囲まれている。牛が入ってこれないようになっているので、牛の糞とかが転がっていない。気持ちよくここで寝ころべるという訳だ。青空を流れる雲を見ながら寝ころぶのは、どれだけ気持ちがいいだろう。しかし、その空を飛ぶ雲が重くて標高が下がると、この付近一帯をホワイトアウトさせる分厚い霧になってしまう。
分厚い雲に太陽を遮られると、気温がどんどん下がってくる。半袖ではもう寒いくらいで、パーカーやレインウェアを着こむ。それだけでも寒いので、美しの塔の中に入ってやり過ごす。美しの塔の中には、悪天時に5,6人避難できるようになっている。雨はしのげるが、窓や大きな入口が開いているので、風をしのぐことはできない。30分程度の散策の途中で、これだけ気温が急変するのはやはり山の怖さだ。僕たちは夏にも関わらず分厚い防寒具を用意していたので問題なかった。しかし、夏の格好でここまで来た観光客は皆、震えながら来た道を急ぎ足で戻っている。
美しの塔で休憩していると、近くまで放牧されている牛がやってきた。牧場内の水場を巡りながら、草を自由に食んでいるようだ。天気が急変していく中でも、ここで暮らす牛たちはなれたもので、何も変わらない様子で食事に勤しんでいる。
帰り道。空を飛んできた重い雲が、草原の台地にまとわりつく。あたりは暗くなり、心地よかった風は肌を刺すように冷たくなってくる。気持ち良い青空の高原トレッキングは突如として曇天に覆いつくされた。残念だが、これが自然。急ぎ足で、車へと戻る。不完全なトレッキングだったが、4歳の娘にとっては初めての高原歩き。少しずつ、一緒に自然を楽しんでいければと思う