三嶺紅葉登山【紅葉の見頃は10月中頃】
四国でも人気の山である徳島県の「三嶺」(みうね)。西日本第二の標高を誇る剣山の近くにそびえる標高1893mの山で、県境を有する高知県の最高峰でもある。二百名山に指定されていて、山頂付近の美しい風景から、ファンも多い山である。
頂上付近に池があり、四国らしからぬアルペンムード漂う見事な風景が多くの人を魅了している。そんな三嶺に紅葉が進む10月23日に訪れた。
新しいルートを使い三嶺登山開始
名頃の登山口に到着。駐車場は約30台駐車可能。水洗トイレと、更衣室として使えるログ調の建物がある。駐車区画も広く、登山口としてはかなり整備されている。
さて、今から登山開始だが雨である。ただ、天気予報ではこれから天気は晴れるとある。天気予報を信じ、久々にレインウェアをスタート地点から着込んで雨の中を出発する。晴れの天気予報に導かれるように、雨なのに登山者はとても多い。
登山道から出発して林道を少し行くと、「登山口」という看板が姿を現した。これは台風の大雨で登山道からが崩壊したことから新しく設けられた新道の入口だ。
旧道はこの林道を50分ほど歩き、平尾谷登山口から本格的登山道に入るが、新道はいきなり登山道が駐車場から始まっている。
【8:50】
新しい道は尾根付近を一気に登っていく直登ルート。以前からあった道を再度整備しなおした感がある。
あまりにもの急登、一気に汗が噴き出す。幸い雨も小雨になり、樹林の中でもある。レインウェアを脱いで進む。雨の日は滑る場所が多いので注意だ。
林道から登山道に入り、尾根づたいの道が続く。
【9:30】
新登山道に入ると、突然、シカの捕獲用の罠が設置されていた。間違って人間が入っても、がしゃ~んと中に閉じ込められてしまう仕組みだ。
実は三嶺をはじめとする剣山系はシカの食害が深刻。あちらこちらの木が皮を剥がされていた。森にはシカの鳴き声が響き、多くの木には食害防止用のネットが張られていた。三嶺の懐に広がる深い森は、実は何らかの理由でバランスを崩し、奇妙に蝕まれている。
新ルートはしばらく尾根つたいの道を行く。密生した木々の間を導かれるように進む。
道はやがて尾根から外れ、広い斜面を登るようになる。ここにきて、三嶺の森の特徴に気づく。
下草がなく、緩やかに広がっているのが三嶺の森だ。無雪期でもどこでも歩いていく事ができる。
実際のところ、赤テープを短い間隔で巻き、迷いそうな場所にはロープなどを張っているだけだ。これだけでこの三嶺の森には道ができてしまう。
何も考えずに歩いていると道を見失って失っしまいそうだ。赤いテープだけが生命線だ。
霧に覆われた三嶺の森はどこまでも広がる幻想的な風景
ダケモミの丘に到着した。ここが旧ルートとの合流点になる。ここでも食害防止のネットが痛々しく、登山道の両脇にはシカが入ってこれないよう防護ネットも立てられている。
【10:30】
ダケモミの丘付近はまるで森。平坦でどこでも歩ける森が広がる。
窪地に水がたまって、神秘的な池になっている。これは珍しい風景だ。
ダケモミの丘を過ぎると、道は再び登りとなる。この付近の道もどこでも歩ける森の中、赤テープを目印に行く。
テープを見失えば、次はどちらに進むかわからなくなる事もしばしば。落ち葉が道を隠し、霧が視界を封じる。こんなに迷いやすい山は今まで登ってきたが初めてだ。
登山道が一気に方向を変える場所がある。小さな看板があったが、最近になって大きな看板を立て、さらにはテープでまっすぐ行かないようにしている。
実は僕たちが登山する少し前に、この付近で遭難事故があった。無事全員救助されているが、こんなメジャーな山のメインルートで道迷いなんて考えられないと僕は思っていた。しかし考えてほしい。目の前に看板がなければ、このまま左へ方向を変えず、まっすぐ進んでしまう。おしゃべりでもしながら歩いていれば、小さな看板を見落として真っすぐ進み沢に下りてしまった可能性がある。
確かにここなら道を間違えられる。三嶺での道迷いによる遭難事故はあながち不可能ではないと感じた。その事故のおかげか、真新しいテープが方々に張られていたが・・・
こうやってすぐにコースに整備がはいるのも、この山域を愛する愛好家がとても多い証でもある。実際、三嶺の森は開放感があり、独特でとても気持ち良いと僕は感じた。自然とうまく付き合えば、この迷い森も人間の五感をくすぐる刺激的な場所となる。
三嶺頂上付近は笹原と池が広がる絶景
老木、大木が立ち並ぶ深い樹林を行くと、視界が突然開ける。青ガレ地帯を慎重に通過し、巨大な岸壁の下を行く。頂上はもうすぐだ。
頭の上に聳える大地は途切れ、真っ白な雲を乗せた天から湧水。もうすぐ頂上だ。しかし、頂上付近からこれだけ水が流れ出しているのもとても不思議だ。頂上付近の稜線に立つと、その正体は姿を現す。
頂上へと続く稜線に出た。その前には驚きの風景。それはこの池だ。
北アルプスにはよくある池塘の風景。しかし、このような風景は四国の山には無い。いくつもの四国の山には登っているが、こんな開放的な高い場所にある池は初めてだ。実はこの池が、多くの人をこの山に引き付ける美しい風景。三嶺の顔でもある。
しかし残念ながら、天気は全く回復の兆しを見せず、付近は真っ白。そして吹き付ける霧まじりの強風は寒く、ここで昼食をしたりはできない。すぐ近くに避難小屋があるので、そちらに向かい、昼食をとりながら天気の回復を待つことにする。
池のほとりには三嶺小屋がある。管理人がおらず、電気や水がない避難小屋だが利用は無料。中はウッディでとてもきれいな2階建て。50人くらいは収容できる。ここなら避難小屋泊での登山を楽しみたいと思う。トイレは、あまり使う気がしないものだったが・・・
この日は天気の回復を信じて登ってきた人で、小屋の中はとても賑わっていた。
【11:40】
結局天候は回復せず。風景はあきらめてピークハント後に下山する事にした。雨は止んでいるので、回復はしているといえば、しているのだが・・・
ドウダンツツジの紅葉がとても美しい。ここに青空があればなんと幸せな事か・・・
【13:00】
紅葉は美しいも何も見えない雨の三嶺頂上
頂上に到着。頂上は広く、弁当を広げるには良い場所だ。この日はかなわなかったが・・・
360度真っ白。待てども暮らせど霧は晴れる気配なし。本当なら360度パノラマが広がっている筈なのだが、残念だ。
【13:15】
下山開始。ドウダンツツジの赤だけが、慰め。結局一眼レフはこの日取り出すことなく、重いだけの荷物になってしまった。
【13:25】
池まで戻ってきた。天空の池。晴れていたらどんなに天気が良いことだろう。残念でならない。名残惜しいが、この魅惑の稜線から下っていく。
雨でも美しい三嶺の森
紅葉に染まっていく森を下りていく。やはり三嶺の森はとても美しい。どこまでも広がり、どこまでも人を導いていく。まるで、帰れなくなるくらいまでの深い深い森の奥まで誘われているようだ。
とても魅惑の森。僕はこの三嶺の森がとても気に入った。特にこの霧に包まれた迷い森は、本当に物語に出てくるくらい、深く不思議な森に思えた。この森を行けた事で、頂上の絶景を見れなかった事は僕の中では帳消しになっているくらいだ。
最後の最後に、光が山肌に差し込んでくる。天気はわずかに回復していた。しかし、相変わらず三嶺の頂上はまだ雲の中にいる。
頂上の絶景には出会えなかったが、その山麓に広がる魅惑の森の姿を見れてとても楽しかった。今度は冬山で、ここを登ってみたい。おそらく僕の技術と装備なら可能なはずだ。そんな冬山の下見にもなればいいなぁ。そう思えた山行だった。