与那国島【日本最西端でツーリングとダイビング】

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沖縄県八重山諸島にある与那国島(よなぐにじま)は、肉眼で台湾を望むことができる日本の最西端に位置する島。深い緑の草原と青い海に包まれた日本離れした自然は、国境の島と呼べる美しい島。また青い海には海底神殿と呼ばれる不思議な場所もあり、神秘的な雰囲気も感じられる島だ。
ダイビングサービスもある日本で一番西にある宿である民宿「よしまる荘」に宿泊し、ゆっくりしながらダイビングを楽しむひとり旅で与那国島に訪れた。
船を下りて投宿するも、時間はまだ昼すぎだ。島の中を民宿でレンタバイクを借り、散策することにした。まずは、宿がある久部良の集落の外れに鎮座する岬、西崎(いりざき)を目指す。ここは日本で一番西の場所だ。

正真正銘、日本で一番西の場所「西崎」

西崎には日本最西端の碑が立つ。残念ながら、今日は台湾の姿を見ることができない。しかし、この先の海はもう日本ではない。見えない国境が間近に横たわる場所だ。

日本最西端の地・西崎から台湾をのぞむ。海を渡る風、青い空、青い海、緑の草原。最果ての地に着いたことを体いっぱいに感じる。今、僕は、日本の土地に足をつけている人間の中で一番西にいるんだ。確かな事実に、妙な嬉しさがこみ上げてくる。
今まで、日本の北と東の最果てに訪れたことがある北海道の宗谷岬と納沙布岬だ。ともに、観光施設があり、売店が軒を連ね、バスで観光客が大勢で押し寄せる。しかし、ここには売店なんてない。観光客がバスに乗って押し寄せてくることはない。ただ、僕ひとり、この最果ての場所にいる。日本で一番西の場所をひとりで独占し、周りを取り囲む美しい光景の中に静かに身を置く事ができる。なんという贅沢だろうか。時が経つのを忘れ、その静かな最果ての景色をこころゆくまで楽しむ。実は日本の本当の一番北・東・南とされる場所は無人島だったり北方領土内だったりで一般人が行くことはできない。ただ唯一、この与那国島の日本最西端だけが、本物の日本の一番端っこなのだ。この西崎だけは、なにがあっても日本で一番西の場所だとはっきり断言できる。

西崎に建つ、日本最西端の灯台

西崎から見下ろす、日本最西端のサンゴ礁。海の向こうは台湾だ。

西崎から望む、日本で一番西にある集落、久部良(くべら)日本最西端の港町だ。

西崎で日本の西の果てを満喫した後、反時計周りにレンタバイクで島を一周。島の南側に出ると左手には広い草原が広がる。どうやら牧場のようだ。そして右手の崖の下には、真っ青な太平洋がどこまでも広がっている。
民家も建物もない、大自然の中の道を原付で走る。なんて気持ちいいんだ。と、思っていると、前の方に道路を横切る溝のようなものを発見。スピードを落とす。
少し大きめの溝がついた鉄板が、道路を横切る溝の上にかぶせられている。どうやら駒止めのようだ。この上を、放牧している馬が歩いて外に出られないようにしているのだう~ん、馬が平然と道のど真ん中を歩いているということか?運転には気をつけないと・・・
と、思いながら再び走り出してものの10秒程。やって来ました。前からお馬さんたちが群れをなして。我が物顔で、道路を占拠してこちらに向かってくる。

与那国馬が歩く美しい島の風景

この馬は、国の天然記念物に指定されている与那国馬だ。日本の馬の在来種8種のうちの1つで、この島にしか生息していない。性格は温厚で人に馴れやすく、成馬でも120cmほどと小柄なのが特徴。
天敵もなく、孤島だったからこそ交配や品種改良をしないで残った馬だ。しかし、機械化により、農耕など生活馬としての役割が減ってくると、その数は年々減っていった。約半世紀前には20頭を切る数にまでになっていたが、現在は与那国馬保存会がこの馬を守り、120頭にまでその数を保つようになった。その穏やかな性格から、現在ではアニマルセラピーとしての活躍が期待されている。
が、このお馬さんと遭遇したとき、私にはこの馬が温厚だなんてデータは持ち合わせていなかった。近づいてコミュニケーションをはかるなんてとんでもない。小さいながらも、その体に宿る力強さをひしひしと感じる。

少し距離を置きながら、与那国馬のいる景色を楽しんだ。しかし彼らを見ているうちに、やはり穏やかな心をしていると、何となく感じることができた。全く敵意は感じられず、人間の存在なんか全く意に介していない。気品すら感じる。なんて心優しく、温厚な馬たちなんだろう。しばらく与那国馬たちの姿に見入ってしまう。

与那国馬を見ていると、ふとその青い海にも心を奪われる。どこまでも青く澄み切った海だ。
そしてこの海の中には神秘の海底遺跡が眠っている。ダイビングをはじめたときから潜りたいと夢にまで見てきた場所だ。しかし、夏の南風で、海底遺跡が眠る海は白波を立てて荒れている。どうやら古の記憶が眠るかもしれないこの聖なる地には簡単には近づけないようだ。この島に来てから知ったことだが、台風が沖縄に近づいてきている。海底遺跡どころか、他のポイントでのダイブもできるかどうか微妙だ。残念だが、もう明日、この海に潜ることはできないと確信した。せめて、憧れの場所が眠る海を、この目に焼きつけ、そして再び原付を走らせ始めた。

熱帯雨林を切り開いて作られた広い牧場。その中を走突き抜ける道路をのんびりと原付で走る。まるで北海道の広い原野を走っている錯覚におちいる。潮風を感じながら青い海、緑の大地を眺めながら走る南の島のツーリングはとにかく気持ちが良い。

この島では放牧がさかんで、馬や牛が多く育てられている。原付で一周できる小さな島だが、多くの土地が牧場や畑になっている

島内の交通量はとても少ない。原付でのんびりと走るにはもってこい。普段バイクに乗らない人でも安心して走ることができる。

青い荒波の海に鎮座する与那国島の奇岩

原付を走らせ、島の東南部にやってきた。太平洋の荒波が島の断崖絶壁を洗い、荒々しい景色になっている。
神が宿るとし、島人に畏敬される立神岩。立神岩にたどり着いた頃、天気は一変、雨が降り始める。通り雨のようだ。少し濡れたが、雨が上がった後、遠くに虹が見えた。虹を見ながら、再び走り出す

軍艦のように見える「軍艦岩」
駐車場から少し階段を下りると、断崖絶壁の下に、その姿が見えた。荒々しい波にもまれるその姿は、軍艦というより、潜水艦のようだ。

青い海と緑の草原に牛がくつろぐ東崎

軍艦岩を見た後、原付を走らせ、与那国の一番東に位置する東崎(「あがりざき」と読む)へ到着する。青い空の広がり、青い海の広がり、そしてその両者の間に突き出した緑色の大地。青と緑のストライプの上には白亜の灯台と悠々と草を食む与那国馬たち。広大ってこういうことを言うのかな。そう思いつつ、海のかなたから渡ってくる潮風にいろいろな思いを馳せる。

ふと眼下を見る。美しい透き通った海の横に広がる緑の草原。そこでは牛たちがのんびりと草を食んでいる。なかなかこんな景色は日本ではお目にかかれない。「南国の北海道」という表現が、僕の中では一番しっくりくる景色だ。ここの景色にはかなり惹かれた。
原付に飛び乗り、崖下への道を下る。この稀有な光景の中に、自らの身を投げ込むために

東崎の下に到着する。駐車スペースがあり、東屋もある。そこに原付を止め、草原に歩み出る。
断崖絶壁になっている東崎とその周囲を取り囲む海。まるでその景色は、北海道の礼文島さながらだ。礼文島は日本で一番北の島。その寒さと強風から木々は育たず、草原と高山植物が広がる島。南国ながらもまさにそれに近いイメージがある。

もう日本にいるような気はしない。まるで遠くの国に来てしまったようだ。
なんとなく牛に近づいていく。僕の接近にも関わらず、牛たちはマイペースで草を食む。

距離を置き、草を食む牛と、目の前に広がる草原と大海原を眺める。なんだろう、言葉では表せない感覚。海の向こうから運ばれてくる潮風が僕の中に何かを吹き込む。広大な景色とはぐくまれる命を見せ付けられ、ただ僕は感動するだけだ。
が、その時、潮風が僕にとんでもないものを運んできた。牛がいきなり、じゃ~っとおしっこをしたのだ。牛のおしっこは風にのって僕の元に・・・
むうう、何するんじゃいっと思うも言葉も通じなければ、腕っ節も相手の方が上。自然の摂理に泣き寝入りするしかない・・・

与那国島の日本で一番最後の夕日

与那国島を一周して、夕方に再度西崎に到着した。大海原を望む、岬の先端に立つ。この海の向こうは、もう台湾だ。
晴天の日なら、その姿が見れる。しかし、今日は台湾どころか、日本で一番遅い夕日を見るのもままならないようだ。地平線をおおいつくした雲が、うらめしく思えた。今日はおそらく夕日は見れないだろう。
それでも日本で一番西にいる人間は、僕なのだなんだか急に嬉しくなってきた。歴史に名前を刻んだように思えてとても嬉しい。ちなみに日本の一番端の離島だが、携帯電話の電波はバッチリ飛んでいる。ここから大切な人に電話をして、日本で一番西に立っている人と話をしてもらうのも一興だ。

日本で一番遅く日が沈む西崎も、すっかり暗くなっていく。日本で一番西の灯台の明かりが、気付くととてもまぶしく輝いていた。

ロケ地にもなった与那国島の町並みを散策

翌日、空港まで宿の方が送ってくれるので、それまで気の向くまま散策。ここの集落は、吉岡秀隆主演のドラマ「Dr.コトー診療所」のロケ地として使われているとても趣のある集落だ。ふと、港の漁協の建物で、解体されている大きな魚が目に付く。
解体しているのは300kgを軽く越える大きなカジキマグロ。真っ黒に日に焼けたおじちゃん、おばちゃんが見事に手際よくさばいていく。寄ってくる虫をも見事に撃退しながらカジキをさばく包丁作業は、見ていて気持ちいい。ちなみにここは、ドラマでよく出てきた場所。泉谷しげる扮する漁労長が牛耳っていた場所だ。
漁協を後にし、地元の商店、郵便局をまわる。こうした知らない街の地元のお店を訪れるのは、いろいろな発見がありとても楽しい。

昼食に訪れた「ゆきさんち」(現在は閉店)
このあたりでは数少ない外食屋だ。ここではカレーを頂いた。沖縄独特の造りのお店は、強烈な与那国の日差しからコンクリートと石で守ってくれる。海を渡ってきた風が店内まで吹きぬけ、店を覆う木がもたらす木陰がとても気持ちが良い場所だった。
そしてついに時間となり、与那国島を離れる。大空に舞い上がった飛行機から見下ろす、美しい日本の一番西の場所。青い海に囲まれた緑の大地。今までここにいたのがウソに思えるくらいの楽園に見える。こんな最果ての美しい場所にも、人は力強く生きている。美しい景色と人との出会い、窓を覗きながら思い返した。

与那国島の民宿

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