旧グッゲンハイム邸【海沿いに建つ神戸塩屋の異人館】
「旧グッゲンハイム邸」は神戸の海沿いに残る明治時代に建てられた異人館。神戸の異人館といえば、うろこの家などの洋館が多く残る北野が有名ですが、神戸の背後にそびえる六甲山系が海に沈む垂水区塩屋町も多くの異人館が残る地区で、その中のひとつで一般公開されている洋館です。
異国情緒ある塩屋に残る貴重な洋館
JR線と山陽電鉄の塩屋駅近く線路の向こう、山の手にいくつもの洋館が建ち並ぶのが見られます。その中の一つが旧グッゲンハイム邸です。塩屋は六甲山系が海に沈む場所。明治時代、風光明媚な土地に魅せられて多くの外国人が住んでおり、70棟を超える洋館があったそうです。今もそのうち6軒の洋館が残っており、外国人専用の居住地区もある異国情緒溢れる港町です。
旧グッゲンハイム邸は塩屋駅から国道2号線に出て、小さな踏切を渡った所にあります。車が入れない細い路地にある洋館は、タイムスリップしたかのような情緒ある風景です。
旧グッゲンハイム邸は様々なドラマや映画のロケ地となっています。近年ではNHK連続朝ドラの「べっぴんさん」(芳根京子)が子供を通わせる保育所や、映画「スパイの妻」(高橋一生・蒼井優)夫婦の邸宅として使われています。
グッゲンハイム邸は現在塩屋在住のアーティストが所有しており、文化活動に有効利用しながら保存されています。そのためコンサートや展覧会、結婚式、パーティー、撮影会のイベントを催すことができます。ほぼ毎日何かしらのイベントや利用者がある人気ぶりです。
グッゲンハイム邸はイベントスペースとして利用されている個人所有の邸宅のため、常時公開はされていません。しかし、地元の貴重な文化財に親しんでもらいたいというオーナーの想いから、毎月第3木曜日に無料見学会が実施されており、この日には多くの人が歴史的な洋館の見学に訪れます。
グッゲンハイム邸の庭は美しい芝生ガーデンながら一部日本庭園のようになっており見ごたえがあります。洋館に入る前に美しい庭も堪能しておきましょう。
グッゲンハイム邸は阪神淡路大震災や台風の被害で老朽化が進み、取り壊しも検討されていました。しかし地元のアーティストが保存のために購入し、現在もその貴重な姿を残しています。
旧グッゲンハイム邸は1912年(明治45年)築で、神戸居留地の多くの洋館を手掛けたイギリスの建築家、アレクサンダー・ネルソン・ハンセルによる設計。5連アーチのベランダと円形エントランスポーチが特徴のコロニアルスタイルの洋館は異国風情を強く感じられます。
近年、グッゲンハイム邸にとって衝撃的な事実が発覚しました。実はこの洋館の所有者はグッゲンハイム氏ではなくライオンスという外国人で、本当のグッゲンハイム氏の所有した洋館はすぐ近くに残る旧竹内邸だったそうです。一時はライオンス邸への改名も検討されましたが、長年慣れ親しんだグッゲンハイム邸の名を今後も残すことになったそうです。過去の遺物ではなく、今を生きるグッゲンハイム邸らしい決定で喜ばしく思います。
映画やロケにも使われるレトロで美しい館内
玄関扉から中に入ると階段のあるエントランスホール。レトロな洋館らしい趣です。
1階には続きになった洋室が2間あります。内部は使い込まれた木の床、そして白壁に淡いエメラルドグリーン色の窓枠や扉が美しい落ち着いたレトロな空間です。映画のロケや商品の撮影などによく使われるのが納得できる非日常的な空間です。
公開日にはアーティストのパンフレットや魅力ある塩屋の資料、古い町並みの写真集なども置かれていて自由に閲覧できるようになっていました。外国人が愛した塩屋の魅力や塩屋が発信するアートを感じられる資料室となっています。
奥の洋室はホールのようになっています。庭に面した窓と西向きのアーチ窓の2つの窓からは明るい光が射しこみ、室内をやさしく照らしています。
室内にはピアノが設置されいてます。レンタルが可能でここでコンサートや楽器の発表会も頻繁に開かれるそうです。本物のレトロでクラシカルな空間で奏でられる音楽は、とても心地よく聞くことができそうですし、演者も気分が乗るはずです。
洋室から望む芝生が美しい庭。海を背にした美しい庭を望みながらレトロな洋館で過ごす日々はこの上なく贅沢です。この庭でも映画上階会やガーデンウエディングなどのイベントが行われるそうです。
アーチ窓から外をのぞくと敷地の一角に随分と生活感があふれる場所があります。実はここは裏長屋と呼ばれるシェアハウスで、築100年の建物に最大9名が共同生活ができるようになっており、アーティストを目指す若者が住んでいるそうです。2020年に「旧グッゲンハイム邸裏長屋」という映画が公開されており、俳優ではなく実際の住人が実際の暮らしの中で撮影されたそうです。
青い海を見下ろすレトロなバルコニーと洋室
1階を堪能したら、今度はレトロな階段で2階へ登ります。階段の木のきしむ音が美しい時間の流れを感じさせてくれます。
階段を登ると2階ホールになっており、東側と中央の洋室の入口とトイレの入口があります。
東側洋室。エントランス上と前面のベランダ2箇所へ通じています。
レトロで広い当時でも豪邸といえるグッゲンハイム邸ですが、シンプルで落ち着いた佇まい。部屋の隅にはレトロなオルガンが残っています。
中央洋室にはまるでテレビボードのような壁一面の作り付けの棚があります。
室内には暖炉もあります。現在は使用はできませんが、とてもレトロな雰囲気があります。
中央洋室。南向きの扉の向こうにはバルコニーがあり、太陽の光を反射した海の広がりを室内からも眺めることが出来ます。
コロニアルスタイルの洋館の特徴ともいえるインナーバルコニー。壁一面の窓に覆われたサンルームのような場所で、陽射しを浴びながら美しい風景を望むことが出来る贅沢な空間です。目の前に広がる青い海を眺めながらお茶を飲む時間は至極です。
バルコニーからは海と線路がすぐ目の前に見えます。目の前に広がる神戸でも有数の漁場である塩屋海岸。そしてJRと山陽電鉄と国道2号線が海のそばを重なるように走る交通の要衝です。車の音や電車の音の中に海を行く船の音や汽笛の音も聞こえるノスタルジックな空間です。
青い海と一緒に見えるのは美しい庭とレトロな洋館。左手に屋根が見えるのは塩屋に残る洋館のひとつ、旧後藤邸です。綺麗に塗装されていますが、大正時代に建てられた歴史ある建物です。グッゲンハイム邸の窓からは塩屋に残る洋館を眺めることができ、当時の趣をレトロ空間で感じられます。
一番奥の部屋は和室になっています。洋館の造りとは全く違う現代的な和風様式になっており、後年、日本人の所有者によって改装されたと思われます。プライベートとなっており貸出スペースではありませんが、見学は可能。バルコニーかトイレの中を通り過ぎてしか中に入れないので、もしかすると運営スタッフの控室などに利用されているのかもしれません。
2階には当時に近い形でトイレがあります。トイレは1階の離れに比較的近代的なものが用意されているので、そちらを利用します。
2階ホールの窓からも旧グッゲンハイム邸裏長屋が見えます。2階建ての長屋の中に若者が暮らしており、一緒に食事をつくったり庭でコーヒーを飲んだり、レトロな場所での生活を満喫しているようです。
映画やアニメに出てきそうな趣ある散歩道
グッゲンハイム邸から細い道を歩いて塩屋駅に戻ることもできます。グッゲンハイム邸の前の踏切は神戸で最も情緒ある踏切のひとつで、SNSでもここの写真をよく見かけます。
山手への坂道は壁が緑に覆われた趣ある小径。まるで映画のワンシーンのような散策が楽しめます。
坂の途中からは、グッゲンハイム邸2階を横から眺めることができます。レトロな洋館の外観を様々な角度から見られるのも魅力のひとつです。
海を臨む小径はまるでジブリアニメのような風景。ノスタルジックな歴史がある塩屋らしい景色です。
小径は西向き地蔵の前の階段を降りてグッゲンハイム邸の裏側を通る細い道となります。ここは塩屋駅から六甲山全山縦走路に至る登山道につながる道で登山者の姿も時々あります。現在の六甲山全山縦走路の西側の起点は山陽電鉄塩屋駅の次の駅、須磨浦公園になっていますが、それは塩屋駅が小さく細い道が多いので登山者が集まる事に配慮した結果。本来の全山縦走路の起点は、六甲山が海に沈む塩屋になっています。
塩屋駅に戻ればもうひとつ訪れたい異人館が「ジェームス邸」です。ジェームス山と呼ばれる現在も外国人の専用居住区があるエリアにある洋館で、三洋電機の創業者が所有していました。塩屋の異人館としては代表的な存在です。「べっぴんさん」の主人公の実家として登場しています。高級レストラン、結婚式場として営業しているので、ランチを奮発すれば内部を見学することが出来ます。
旧グッゲンハイム邸
住所: 兵庫県神戸市垂水区塩屋町3-5-17
電話: 078-220-3924
営業時間: 12:00~17:00
営業日: 毎月第三木曜日のみ見学可能
交通: JR・山陽電鉄塩屋駅より徒歩3分
料金: 見学無料
※イベント利用は1時間1500円~12000円
駐車場: なし
【投稿時最終訪問 2022年2月】