森の時計【「優しい時間」の喫茶店】

テレビドラマのロケ地と美しい自然を楽しめる事で人気の「富良野」。その富良野にある「新富良野プリンスホテル」には、富良野を有名にした倉本聰の「富良野三部作」のロケ地がすべて揃っている。「風のガーデン」の舞台となった庭と家がそのままある「風のガーデン」。「北の国から」で、雪子おばさんが働いていた「森のろうそく屋」がある「ニングルテラス」。そして、そのニングルテラスの奥からさらに森の中を進んだところに、またドラマの舞台がある。それが「森の時計」という喫茶店だ。

深い森の中の静かな喫茶店

テレビドラマ「優しい時間」で、主人公涌井勇吉を演じる寺尾聡が営んでいたあの喫茶店が、そのままの姿で営業している。ドラマを見ていた人ならぜひ立ち寄りたい場所だ。もちろん、ドラマを見ていなくても、深い自然の中、落ち着いた喫茶店はニングルテラスのショッピングの途中に立ち寄れば、とても素敵な時間を提供してくれる。ニングルテラスから階段を下り、深い木立の中の一本道を進む。本当にこの先に喫茶店があるのかと不安に思う頃、森の中にあの見覚えのある風景が姿を現す。少し不安になっていた気持ちを一気に払拭すると同時に、現実を離れ、架空の世界へと誘われる瞬間でもある。

ニングルテラスでのショッピングで少し疲れたのだろうか。2歳の娘はどうやらここが飲食店だということに気付いたようで、ゲットした木のおもちゃを大事にぶら下げたまま入口へと吸い寄せられていく。が、入口には小さな子を持つ親の入店を躊躇わせる注意書きがある。最近の飲食店は子供連れ大歓迎。分煙、禁煙で喫煙者はお断りといった所が多くなってきた。しかし、この中はそんな時代の流れとは全く逆だ。注意書きにはこうある。
「禁煙スペースは用意しておりません」「静かな雰囲気を大切にしております。小さなお子様連れの方他のお客様のご迷惑にならないよう配慮ください」
2つめの子連れの配慮はわかる。ドラマの雰囲気を大切にするところだけにこれは納得。子供が騒ぐ場所という設定はドラマにもない。
が、全面喫煙可能というのは、おおよそのカフェの流れにも反している。ここでは喫煙者に冷たい視線は浴びせられず、思いの限り紫煙を楽しめるわけだ。いかにも、タバコとコーヒーが大好きな倉本氏のプロデュースだ。が、時代の流れは確実で、店の中は大勢で賑わっているのにもかかわらず、たばこに火をつける人はいなかった。
さて、わが子に火がつかないか。それが心配・・・おとなしくしてくれることを願って、入店。

※2020年4月1日より、改正健康増進法の全面施行を受けて全面禁煙となりました

人気ドラマの素敵な舞台でコーヒーが頂ける

店内に入ると驚き。土壁と太い梁が通された開放的で、そしてとても雰囲気がある。とてもロケのセットとは思えない、完成されたスタイリッシュな空間。はじめて来たのに、何度も見ていたせいか、久々に帰ってきたというような感覚。現実とフィクションが洗練された空間の中、まるでデジャヴを思わせるような不思議な感覚にとらわれる。

店の奥に入って目につくのは、「コーヒーミル」ドラマで訪れた客が自らコーヒー豆を挽いていたあれだ。実際にこのコーヒーミルで、コーヒーを客が挽く事ができる。ただし、このカウンター席に座れた客に限る。そのため、このカウンター席の競争率は高い。

通されたのは通常の席。大きなストーブがあり、石の床、落ち着いた色合いのテーブル。壁一面の窓からは、富良野の美しい森が望める。まさに大人のための喫茶店。落ち着いた雰囲気と贅沢な時間が流れる空間。ドラマを知らなくても、その洗練された空間は訪れる人を虜にするだろう。
平日にも関わらず、とんでもない場所にあるのにもかかわらず、多くの人で賑わっている。それでもとても静かで、落ち着いた時間が流れている。この美しい雰囲気に、誰もが皆、酔いしれ、時間がゆっくり流れていくのを楽しんでいる。

そんな美しく優雅に流れる時間の中、僕たちだけの時間が違っていた。ついに恐怖の2歳児に火がついた。先ほどニングルテラスで購入した木の車で激しく遊び始める。窘めると、奇声を発する。何とかジュースが来て落ち着いたと思ったら、ジュースを飲むのに失敗して服にこぼれて、大騒ぎ・・・
皆様ご迷惑おかけしました・・・

ゆっくりコーヒーを飲みたかったのに、時間に迫られた都会のビジネスマンのように大急ぎでコーヒーを飲み干し、子供を抱えて退散した。コーヒーは美味しかったのだが、美味しい飲み方がまったくできなかった。やはりここは、子連れでは入るのは相当危険・・・小さな子供に「静かにして」というのは、無意味な事なのだった。
余談になるが、僕は我が家でミルで豆から挽いてコーヒーを入れている。このコーヒーを飲む前の儀式が、優雅な時間に感じ、コーヒーをよりうまくさせてくれる。最近は僕が豆を挽くときに娘がやってきて、一緒にハンドルを回している。これが僕の「優しい時間」なんだろう。

深い森の中にある物語のような酒場

森の時計では残念な結果になってしまった。不完全燃焼なので少しあの窓から見た深い森を散策してみる事にした。北海道らしいカラマツの深い森を、まるでどこかに導くようにしっかりと整地された道が続いていく。緑の中に漂う、涼しげな空気を楽しみながら先に進む。

たどり着いた「Soh’s BAR」(ソーズ・バー)。石積みに蔦。重厚な木の扉。何とも落ち着きがある建物。「煙草を楽しみながら酒を飲む」というコンセプトがあるらしく、完全な大人の店。このあたり、倉本聰氏のこだわりがプンプンと感じられる。
営業は夜の帳が下りてからなので、店は閉められている。当然、2歳児を連れていく事はできないので、外観の雰囲気だけを楽しむ。
先ほど歩いてきた、カラマツ林の中には所々、傘のついた裸電球があった。これは夜に着たら、とても静かで幻想的な場所だろう。フクロウが無く夜の富良野の森をわずかな電気の明かりで歩くというのも、何とも面白味がある。しかし、途中で道に迷ったり寝込んでしまうのはご法度。くれぐれも飲みすぎにはご注意を。

【富良野のホテル一覧】

森の時計

住所: 北海道富良野市中御料(新富良野プリンスホテル内・駐車場より徒歩5分)
電話: 0167-22-1111
営業時間: 12:00~20:30 
席数: 屋内31席 屋外16席
休業日: 不定
交通: JR富良野駅から車で約10分
駐車場: 270台(無料)
禁分煙: 全面禁煙(2020年4月より)

【投稿時最終訪問 2011年9月】

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