八ツ瀬川【小笠原・シーカヤック】

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ニワトリの鳴き声で朝、目覚める。昨日までの強風はおさまっていた。小笠原の山に突き刺さるような虹が、すがすがしい南国の朝を演出してくれている。ウクレレの音楽が似合いそうな、ハワイすら思える美しい朝だった。
今日はシーカヤックツアーの参加の日。「南島」か「ジニービーチ」までカヤックで向かう予定だが、可能かどうかは海のご機嫌次第。昨日のような強風・大荒れの海では、カヤックでこぎ出すこと自体不可能だ。どうか海に出れますように。海の神様に微笑んでもらえることを祈りながら、ツアーの車を待つ。宿の外でしばらく待っていると、お世話になる「ブルースカイビックホース」のスタッフさんが迎えに来てくれた。扇浦の売店で、とてもニンニクの匂いが香ばしい、疲れが吹き飛びそうな弁当を車に積み込み「小港海岸」に向かう。
「小港海岸」に到着すると、ビーチの入口のロータリー周辺の路肩に車を停め、ここで装備の準備をする。ここでもう1台、別のスタッフが運転する車が到着。本日の一行は大人11人、子供2人の大所帯となった。
まずはここでドライバック(防水バック)が一人1個配られる。万が一、カヤックが沈しても(ひっくりかえっても)水が内部に入らないすぐれものだ。僕たちは自前のドライバックを利用する。
南国とはいえ、正月のこの時期はまだ肌寒い。特に川の水は海のそれより冷たい。参加者の多くはウェットスーツをレンタルしていた。僕たちは長袖のラッシュガードの上にTシャツを着込み、ゴアテックスのレインウェアの上着を着込んだ。さらにその上にライフジャケットを装着。陽射しがない時は、この装備でちょうどカヌーの上での温度調整が良かった。

小港海岸に流れ込む八ツ瀬川でシーカヤック練習

小港海岸に注ぐ川が「八ツ瀬川」
色は濁っているが、水際まで木々が張り出し、まるでマングローブ林。これぞ南国の川といった、美しい自然の風景。とても水の流れが穏やかで、シーカヤックの絶好の練習場所だ。

各々使用するカヤックに荷物をセッティングする。妻と僕が乗る2人艇。後ろに僕、前に妻が乗る。
貴重品・タオル・着替えを乗せた防水バックを後ろにセット。各々の足元には500mlのペットボトル。前方座席の後ろの黒いバックは一眼レフを入れたカメラ用の完全防水バック。ザックに装着するバックルで、ちょうど良くカヌーに固定することができた。
荷物をセットしたら、パドルの漕ぎ方、カヤックの乗り方のレクチャーを受け、早速八ツ瀬川にこぎ出す。

原始の風景と戦跡が残る八ツ瀬川

はじめはみんなで河口付近を往復して練習する。その川の上にそそり立つ溶岩石の断崖絶壁には小さな穴が開いていて、細い金属がこちらに向いている。恐らくトーチカだ。小港海岸は美しい砂浜。米軍が上陸するのにはもってこいのポイント。上陸した米軍に向けて機関銃で掃射する場所だったのだろう。未だにどうやってあんな所につくったのか想像すらできないトーチカの穴から、錆びついた銃身がいなくなった敵を探しているかの様だ。

一通りカヤックの操作に慣れたら上流に向けて出発する。小港海岸から中山峠を経てジョンビーチ、ジニービーチへ向かうトレッキングルートの出発点がこの橋。この橋をくぐり、カヤックを上流へとこぎ出す。

しばらく上流に行くと、天気が劇的に回復してきた。羽織っているレインウェアが暑く感じるらいだ。
原始的な姿を残した八ツ瀬川。本州ではこんな川の姿が見られるところは少なくなった。

一部護岸されているところはあるが、その対岸は原始の姿そのもの。その気になればカヌーを接岸させ、そのまま深い森の中に歩いて入っていける。
その対岸にはマメ科の植物がたわわに実を結んでいる。光を透かしたその実がとても美しい。そして、川の上には水道管がワイヤーで吊るされてその深い森に消えていく。原始の中に巣くう人々の足跡。不思議な感覚のする場所だ。人間が自然を全部変えてしまっているのではなく、必要なところだけ変えている。

上流に進むにつれ、青空が広がり、初夏を思わせるような様相になってきた。南国の木々が、ここが遠い異国の地であることをひしひしと伝えてくる。ふと見ると、岩肌や地肌が露出した山の斜面に何か動くものが・・・
ノヤギだ。よく見ると斜面のいたるところに確認できる。この一帯には柵が張り巡らされ、ノヤギたちは下に降りてくることができず、山に追いやられている。残念ながらこのノヤギたちは人の手で全て駆除される予定だ。
本来人間の手で持ち込んだ家畜が野生化し、小笠原の独特の生態系を激しく破壊しているのが現状。のんびりと草を食むその姿を見ていると、人の手で狂わされた命の行きつく先を痛々しいほどに感じてしまう。隔離され守られていた美しい小笠原の自然は、今さまざまなジレンマと戦っている。

急に川幅が縮まり、水深も浅くなる。川には水草が生い茂り、ここから先はカヤックでは進めなくなる。ここが八ツ瀬川遡上の限界点。ここでUターンして、河口へと戻る。
この先には貯水ダムがある。原始の姿をした川でも、至るところに人の手がくわわっている。そう思うと、町の中の川は、その元の姿ですら想像することすらできない。その場にあった流れすら、地下に押しやられたり、消されたり・・・

水辺にはオオハマボウがマングローブのように群生している。黄色く可憐で大きな花をいくつも咲かせていた。
大きく張り出し、着水した枝の下をカヤックでくぐりぬける。沖縄の西表島の川をカヤックで探検するかの様な、南国の川の楽しみがここにもあった。

カヤックで木々の間に入っていくと、水面に反射する光、そしてマングローブ林の木漏れ日に挟まれる。とても静かだ。パドルを水の中に突き刺すと、水のはじける音がして、光がキラキラと揺らめく。そしてかすかな水を押し分ける音がしてす~っとカヤックが前に進んでいく。それがとても気持ちよくて、楽しくて、僕たちはカヤックを漕ぎ続けた。そして、時々水の流れに身を任せ、ゆっくりと川に流されてみたりして・・・
結局、海の荒れは小さくなりはしたが荒々しいまま。残念ながら、美しい小笠原の青い海にこぎ出すことはできなかった。熟練者なら漕ぎ出すことのできる荒海も少しだけカヤックを操っただけの僕の経験では歯が立たない。行きたかったビーチには行けなかったが、それでもツアーを主催しているスタッフさんはいろいろと楽しませてくれた。様々な植物を教えてくれたり、休憩時間に素敵なスポットを教えてくれたり。後半からは、川沿いの道路から記念写真をいっぱい撮ってくれ、最後には、素敵な砂絵のお土産もくれた。
この八ツ瀬川、初心者のカヤックの練習ポイントだけでなく、小笠原の川の表情を楽しめる、とても素敵な場所だった。また、小笠原を訪れた時は、このツアーを利用したい。でも、今度こそは青い海に漕ぎたしたいのだが・・・

八ツ瀬川・小港海岸すぐそばの人気の宿

八ツ瀬川

場所: 東京都小笠原村父島小港
交通: 二見港より車で約16分
駐車場: なし(バス停付近の路肩を利用)
トイレ: あり(小港海岸のトイレを利用)

【投稿時最終訪問 2008年1月】

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