白猪の滝【愛媛の全面凍結する滝】

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比較的温暖なイメージがある愛媛県。しかし、海から一気に西日本最高峰の石鎚山が立ち上がるなど、急峻な山岳地帯を有し、雪国としての顔も持つ。瀬戸内海沿いの松山は雪が積もることはほとんどないが、車で1時間ほど走った山間に全面凍結する滝がある。それが「白猪の滝」(しらいのたき)だ。
厳しい冷え込みが数日続くと、見事な氷瀑となる。松山市内や近郊に積雪があれば氷結の可能性はぐっと高くなり、地元のニュースでも凍結すれば報じてくれる。

雪の林道を歩いて目指す白猪の滝

白猪の滝へのアクセスは国道11号線から国道494号線に入る。494号線には滝が凍結していればほぼ間違いなく雪が積もっている。スタッドレスや四輪駆動でないとアクセスはできない。
白猪の滝の無料駐車場に到着。林道は雪がたっぷり積もっている。滝が凍結したことを地元テレビ局が伝えると、雪が積もった駐車場に入りきらないくらい見物客の車が訪れる。
さて、ここから雪道を歩かないといけない。アイゼンやストックを装着して、雪の林道を登っていく。これらはなくても歩けないことはないが、凍結している個所などはあるのとないのとでは大違いだ。

車を駐車場を停め、ゆっくりと登り始める。猪のレリーフが刻まれた堰堤付近には雪が積もり、光を反射する真っ白な輝きがとても美しい。

無料駐車場からは急勾配の林道を歩く。雪の上はまだ歩きやすいが、アイスバーンなどができていると転倒しやすいので注意が必要だ。
この先には有料駐車場がある。雪と歩行者に気を付けて車で標高を稼ぐこともできる。

遊歩道で雪の川沿いをゆっくり歩く

有料駐車場からは川沿いの遊歩道を行く。川を遡って行くと、どんどん雪は多くなっていく。
『白猪七釜』という場所に到着する。正式な名前はないが、白猪の滝を愛する人々がそう呼んでいる場所だ。そのうち、正式名称になるだろう・・・多分?
雪に覆われた川には、所々、氷がぶら下がり、寒さに涙しているようにも見える。流れていく川音は、降り積もった雪の中に消えていく。凍てついた景色の中を流れる水は、いつその動きを氷に封じ込められるかわからないくらい、静かだ。

雪の中で淀みになった川。その鏡のような穏やかな水面には、水上の雪と氷の世界が映っている。水の中の雪と氷が、それを映す水を凍らせてしまいそうなほど、静寂と冷気が周辺を支配する。

雪を頂いた木々の間から降り注ぐ木漏れ日。それはまるでスポットライト。静かな世界に降り注ぐ光の輝きがとても美しい。滝に向かう雪道も普段では見ることのできない雪景色の神秘が多く見ることができる。ぜひ時間に余裕をもって雪の川沿いの散策を楽しみたい。

真っ白な雪のキャンパスに木漏れ日が描くのは、まるで水墨画。その陽と陰のコントラストは、景色から色を奪い去り、冷たい雪の中に閉じ込める。

途中の岩肌にはツララができていたりして、すっかり真冬の様相。市内よりも標高があり、深い谷に閉ざされている白猪の滝周辺は、温暖な愛媛とは思えない雪国の風景となっている。

突然現れる凍てついた白猪の滝は大迫力!

そして雪道を歩くこと20分。谷の左への大きな蛇行をたどると、目の前に突然姿を現した。これが落差96mの『白猪の滝』だ。滝は二段に分かれており、岩肌に広がり流れ落ちるため、温暖な愛媛にありながらも、寒い日が続くと凍結して見事な氷瀑と化す。

滝右側には遊歩道が続いており、滝つぼの前から白猪の滝を見上げることができる。絶壁一面を覆い尽くす美しい氷柱は見事だ。

装備と経験があれば氷瀑をさらに間近で楽しめる

白猪の滝つぼはとても浅く、くるぶしくらいの深さしかない。完全凍結すれば、滝つぼも人が乗っても大丈夫なくらいに凍りつく。この日の滝つぼは凍っていないが、石の上を渡って対岸に行ってみる。
ちなみに僕は、「滝つぼに入って撮影」をするためにアイゼンを装着している。それに何度も通っているので、滝つぼの状況も把握している。滝つぼの様子を知らない人が装備もなくここを渡ろうとすれば、痛いくらいの冷たい水の中に足を突っ込む可能性が高いので注意が必要だ。ちなみに僕も過去に2度ほど、渡渉に失敗して泣きそうな目に遭っている。

滝の真下まで歩を進める。滝つぼのすぐ下までこの滝は近寄ることができる。びっしりとツララがぶら下がっているが、滝は激しく水を降らせている。この滝の轟音は、周囲の雪も消せず、大きな音を静かな山間に響いている。

真下から見上げる凍結した白猪の滝。何度も何度も凍てついた氷柱がまるでクラゲやシャンデリアのように垂れ下がり、とても神秘的な美しさだ。

滝は無数のツララへと姿を変えている。寒さが流れ落ちる滝を少しずつ凍らせ、幾夜をこえ、その身を凍らせる寒さを重ねて大きく長い立派な氷柱へと成長していく。
滝つぼの周りは新雪だ。誰もまだここには入ってい。最近の寒波で滝は凍っていたが、長い時間冷やされたわけでないので、まだ滝には流れがあった。滝つぼには雪が積もっているだけで、凍っていなかった。雪を踏み抜き、滝つぼの冷たい水の中に足を落としてしまう。ここの滝つぼは浅いので危険は少ない。が、痛いほどに冷たい。
見えない深みや岩が隠れているので、滝つぼ探索は注意が必要だ。また、頭上の氷柱が崩れて降り注ぐこともしばしばなので気をつけたい。

滝つぼを渡り、今度は滝を左側から眺める。このアングルは雪に覆われた滝つぼを渡った者しか見ることができない。

雪道を登って合間見える凍った白猪の滝の絶景

人と一緒に撮ると白猪の滝の大きさがよくわかる。写真は滝の下半分しか写っていない。上段の滝は下段と違い一筋でまとまって落ちているので凍結はしない。

滝の横の斜面を少し登ってみよう。見下ろす凍結した滝は見事な風景だ(雪山登山経験者に限る)
滝の右側には、滝の中段に出る道がある。そこから滝を見下ろす。雪に覆われた登山道を行くにはアイゼンと経験は必須。無雪期なら滝の中段に出れるが、冬場はかなり危険なので、途中で断念する。
岩壁は凍てつき、滝つぼは雪と氷で覆われている。全ての色を失った世界からは、音さえも閉じ込められたようになる。滝の音が響いているのに、とても静かに感じる。

この滝には明治時代の俳人・正岡子規と文豪・夏目漱石も訪れている。彼らが読んだ、白猪の滝を詠んだ句が残されいている。
追いつめた 鶺鴒見えず 渓の景 (子規)
雲来たり 雲去る瀑の 紅葉かな (漱石)

正岡子規と夏目漱石は親友であり、夏目漱石は松山に英語教師として赴任している。一時期、夏目漱石と正岡子規は松山で同居していた。松山の赴任中に、わざわざこんな山の中まで1泊して彼らはこの滝を見に来ている。どれだけこの滝が、昔から知れ渡っていたかを伺い知れる。
凍結する期間は短いが、近くから見るだけなら特段の登山装備がなくても、子供でも見ることができる氷瀑。冬はもちろんのこと、春は新緑、夏は水遊び、秋は紅葉と白猪の滝は四季折々の美しい風景を楽しませてくれる。

白猪の滝訪問に便利な宿

白猪の滝

場所:愛媛県東温市河之内
交通:松山自動車道川内インターより約15分
料金:見学無料
駐車場:30台、無料(ただし林道終点駐車場は300円・約20台)
所用時間:無料駐車場より徒歩約30分、有料駐車場より徒歩約10分

氷瀑の季節 : 12月下旬~2月中旬の冷え込みが続いた日

【投稿時最終訪問 2013年1月】

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