駅前高等温泉【築100年・大正レトロな公共浴場】
国内を代表する温泉地、大分県・別府。訪れたなら、有名温泉旅館だけでなく、土地の暮らしに溶け込んだ風情ある公共浴場もぜひ体験したいところです。
そのような時におすすめしたいのが、観光客でも比較的立ち寄りやすく、別府駅からすぐの場所にある「駅前高等温泉」です。
レトロな佇まいの建物の中で、温度の異なる2種類の湯を楽しめるこの温泉は、泉質がやさしくクセが少ないため、温泉初心者から湯めぐり慣れした方まで幅広く受け入れてくれます。また、電車移動の合間に気軽に立ち寄れる利便性の高さも大きな魅力です。
そして何より、別府温泉の玄関口・別府駅のすぐ近くにありながら、過度な観光地化がされておらず、地元の方々の日常に深く根ざした名湯である点が、この温泉最大の魅力といえるでしょう。
旅人でありながら、ほんのひととき別府の暮らしに溶け込むような、そんな情緒を色濃く感じられる温泉です。
大正時代のレトロな温泉で楽しむ駅近の源泉かけ流し
別府駅から海側へ向かって大通りを歩くこと約2分。大正時代の洋館を思わせる外観がひときわ目を引く建物が「駅前高等温泉」です。
大正時代に建てられた築100年以上の建物は、決して作り物ではない“本物のレトロ感”に満ちており、その空間に身を置くだけでも価値があります。その歴史ある建物の中で、日本屈指ともいえる源泉かけ流しの湯に浸かる時間は、まさに贅沢そのものです。
しかも入浴料金は250円という驚きの安さ。この内容と立地、そして歴史を考えると、信じがたいほどの価格設定です。
駅前高等温泉の泉質は単純温泉で、刺激が少なく、誰にでもなじみやすいのが特徴です。浴室は「あつ湯」と「ぬる湯」の2種類があり、1回の入浴料金で利用できるのはどちらか一方のみとなっています。
なお、駅近という立地ながら、5台分の無料駐車場が用意されているのも、地元利用を大切にしてきた温泉ならではの配慮といえるでしょう。
建物の中へ足を踏み入れると、まず目に飛び込んでくるのが、昔懐かしい番台です。
実際の支払いは券売機方式となっており、その点は現代的ですが、それでも空間全体には濃厚なレトロ感が漂っています。
番台には男湯・女湯それぞれに「あつ湯」「ぬる湯」の入口があり、計4つの扉が並んでいます。初めて訪れる方でも、番台のおばちゃんが丁寧に行き先を案内してくださるので安心です。
番台の前には有料のコインロッカーが設置されており、貴重品はこちらに預けるのが基本となります。
なお、更衣室内には鍵付きロッカーはありませんので、その点は注意が必要です。
また、番台の後ろにある階段を上がると、簡易宿泊施設が併設されています。ちゃぶ台と布団だけの簡素な個室、もしくは大広間での宿泊となりますが、料金は2,500円〜4,000円程度。
素泊まりではありますが、別府駅前という立地で、源泉かけ流しの温泉を備えた築100年の歴史ある建物に泊まれる体験は、なかなかできるものではありません。温泉好きであれば、一度は体験してみたい宿泊スタイルです。
観光客にオススメの「ぬる湯」
「ぬる湯」の扉を開けると、すぐに脱衣所となっています。靴棚と棚は設けられていますが、いずれも鍵は付いていません。
別府の公共浴場によく見られる、半地下構造で浴室と脱衣所が一体化した造りとなっており、常に自分の荷物が視界に入る位置にあります。そのため、防犯面においても過度な不安を感じることはなく、観光客の方でも比較的利用しやすい印象です。特に初めて訪れる方や、荷物が多い観光客の方には、こちらの「ぬる湯」が安心して入りやすく、おすすめです。
「ぬる湯」の浴室には、湯船がひとつだけという非常にシンプルな構成です。洗い場にはシャワーは設置されておらず、カランのみが4カ所あります。
ただし、そのうち2カ所は水のみで、お湯が出るカランは限られています。さらに1カ所は、温泉を湯船に引くためのホースが接続されているため、実質的に自由に使えるお湯のカランは1カ所のみとなります。決して設備が充実しているとはいえませんが、それもまた別府の公共浴場らしさのひとつです。
湯は透明ながら、仄かに温泉らしい香りが立ち上ります。湯船の縁には、茶色く成分が凝固した跡が残っており、長年にわたって良質な温泉が注がれてきたことを雄弁に物語っています。
温泉はホースで湯船に注がれているため、見た目の風情という点では多少素朴さがありますが、湯船から惜しみなく溢れ出て捨てられていく様子を見ると、紛れもなく源泉かけ流しであることが分かります。
「ぬる湯」という名称ではありますが、実際の湯温は決してぬるすぎることはなく、一般的な温泉と同程度、あるいはやや熱めに感じられる温度です。
湯に浸かると、源泉かけ流しならではの心地よさに加え、築100年を超える温泉ならではのレトロな雰囲気が全身を包み込みます。歴史を重ねてきた湯船、年代を感じさせる窓枠、そして昭和の小学校の保健室に必ず置かれていたような、懐かしい大型の体重計。立ち上る湯気と温泉の香りが相まって、時間の感覚が次第に薄れていきます。
心も体も自然とほどけていくような感覚。まさに「これぞ別府」と言いたくなる、王道の公共浴場体験です。
地元の方との交流や不思議な雰囲気の浴室の「あつ湯」
続いてご紹介するのは、番台の横の階段を上がって入る「あつ湯」です。
こちらは源泉をほとんど冷ますことなく注いでいると思われ、かなり高温です。その分、非常に新鮮で力強いお湯を楽しむことができ、温泉好きにはたまらない浴室となっています。
あつ湯の更衣室は、半地下となっている浴室とガラスで仕切られています。
ぬる湯とは異なり、更衣室から浴室内の様子や荷物に目が届かない構造です。
扉付きのロッカーは設置されていますが、鍵はかからないため、貴重品が心配な場合は番台前の有料コインロッカーを利用するのが安心です。
洗面台やドライヤーはありませんが、壁掛けの扇風機があり、入浴後の火照った体を心地よく冷ましてくれます。
浴室は1階と地下が吹き抜けになった構造で、大正から昭和にかけての濃厚なレトロ感を存分に味わえます。
洗い場にはシャワーが2カ所設置されており、湯量も十分で問題なく使用できます。
なお、シャンプーやリンスなどの備え付けはなく、湯かごに自分の道具を入れて持参するのが、別府の温泉文化として定着しています。
一見すると湯船はひとつだけのように見えますが、脱衣室から半地下へと続く階段を降りると、その先には洞窟風呂のような雰囲気のぬる湯の湯船が、もうひとつ現れます。
温泉は蛇口から直接注がれており、右側の蛇口は水道水ですが、取っ手は外されています。
すると、後から入ってきた地元の方が、どこからか蛇口の取っ手を取り出し、水で湯を埋め始めました。
源泉かけ流しに加水されてしまう…と一瞬焦りますが、
「まだまだ、今入ったらやけどしますよ」
と、地元の方から声をかけられます。
試しに掛け湯をしてみると、確かにかなりの高温。
地元の方でさえ入らない温度に、無理をして挑戦する必要はありません。
そのため、まずは地元の方に勧められるまま、半地下のぬる湯に浸かることにします。
更衣室の真下に位置するこの湯船は、閉塞感のある空間で、モルタルのような無骨な壁に囲まれ、まるで洞窟風呂のような趣です。
一見するとタイルの湯船に見えますが、実は内部はヒノキ風呂になっています。
これは非常にポイントが高く、無骨な洞窟のような空間の中で、木のぬくもりとやさしさを同時に感じられる、見事な造りです。
地下の閉ざされた空間には蛍光灯の明かりが灯り、さらに浴室の上部から差し込む自然光が加わることで、ぬる湯の洞窟空間は幻想的な雰囲気に包まれます。
あつ湯からパイプで引かれた温泉はほどよくぬるく、長時間ゆったりと浸かりながら、自然と瞑想状態に入っていくような感覚を味わえます。
やがて、地元の方による“あつ湯のブレンド”が完成し、声をかけていただいて入らせてもらうことに。
最初の一歩は確かに熱いのですが、不思議と不快さはなく、じわじわと体の芯まで熱が伝わってきます。
これは気持ちが良い。
以前は誰でも加水できたそうですが、観光客の蛇口の閉め忘れが多かったため、現在は水の取っ手が外されているとのこと。
取っ手を持参しているのか、あるいは番台で顔なじみの方から借りるのか、とにかく地元の方だけが楽しめる“極上の温度”を、今回は特別に体験させていただきました。
「ぬるくなったら、また温泉を出してくださいね」
そう声をかけて、地元の方は早々に退出。
その後は、あつ湯とぬる湯を交互に行き来しながら、まさに至福の時間を過ごします。
地元の方がいなければ、あつ湯に少しだけ入ってすぐぬる湯に戻る、という繰り返しになっていたことでしょう。
こちらの浴室のぬる湯は、別の浴室のぬる湯とは明らかに泉質が異なり、やや金属的な香りを感じます。
源泉が異なるそうですが、実際に入ってみると、体感としてもはっきりと違いを感じられます。
また、同じ浴室内にある階段下のぬる湯よりも香りが強く、湯の鮮度の高さが際立っています。
地元の通が楽しむ別府温泉の奥深さを、ひとり贅沢に満喫できたひとときでした。
別府の湯文化を“肌で感じたい”のであれば、駅前高等温泉は外せない一湯です。
レトロな建物、あつ湯とぬる湯、そして公共浴場ならではの人情。
ここには、別府温泉の原風景がぎゅっと詰まっています。
駅のすぐそばで、ほんのひととき、「別府の暮らしの一部になる」
そんな特別な体験を、ぜひ味わってみてはいかがでしょうか。
体洗える度 3
施設快適度 3
泉質充実度 4
アプローチ 5
駅前高等温泉
住所: 大分県別府市駅前町13-14
電話: 0977-21-0541
休み: 無休(年2回定期清掃あり)
営業時間: 8:00〜23:00
(宿泊者がいる場合のみ6:00~0:00)
料金: 250円 (あつ湯・ぬる湯別料金)
交通: JR別府駅より徒歩約2分
駐車場: あり(5台・無料)
付帯施設: 素泊まり宿泊施設(2,500~4,000円)
【投稿時最終訪問 2025年11月】