多々羅大橋サイクリング 【しまなみ海道】
いくつもの瀬戸内海の島を橋で渡るしまなみ海道。本州と四国を結ぶ高速道路だが、その橋の部分は、歩行者・自転車・原付が高速道路と並んで渡れるという、全国でも珍しい場所だ。地上から数十メートルの瀬戸内海の上を、自転車で渡るのは本当に気持ちがいい。
島に車を停めて、そこから橋で島をひとつだけ渡るという楽しみもある。しまなみ海道の広島県と愛媛県の県境にかかるのが「多々羅大橋」。愛媛県側の大三島にある「道の駅多々羅しまなみ公園」から自転車を出して、広島県側の生口島を目指してサイクリングだ。
大三島から多々羅大橋に自転車で登る
多々羅しまなみ公園から望む「多々羅大橋」。多々羅大橋は全長1480m。中央支間長は890m。斜張橋としては世界一の長さを誇る。完成は1999年5月1日で、姉妹橋であるフランスのノルマンディー橋を超えて世界一に輝いた。当初は吊橋で計画されていたが、自然環境・景観の保全や経済性などを考慮されて斜張橋に変更されたそうだ。
島と島を付す部美しく巨大な橋の存在感は圧倒的。あの橋の上を自転車で走れる。海の上の気持ちの良いサイクリングロード。走らない手はやはりない。
しまなみ海道の橋どれにも共通しているのだが、橋に入るには結構登らないといけない。この多々羅大橋も海面から道路までの高さは約40mあるそうだ。海運が盛んな瀬戸内海。巨大なタンカーも多く通るので、これぐらいの高さは確保しないといけないのだろう。
さすがに自転車専用道路として設計されているので傾斜はきつくない。大きくゆっくりと廻り込み、橋の上に出るアプローチは、まだギアに余裕を残して登ることができる。しかし元気な時はまだいいが、いくつも橋を越え、長い距離を走っていると、この登りがかなりしんどく思う。
ゆっくりと自転車道は多々羅大橋の下にもぐりこんだ。ここから大きく橋を支える山を巻きながら今日場へと目指す。しかし、橋の懐に入ってみると、とにかくその巨大さがわかる。
青い海と緑の島が交錯する風光明媚な風景をぐっさりと貫く巨大な鉄とコンクリートの建造物はしまなみの代表的な風景ともいえる。
ゆっくりと自転車道は橋の上を目指して登って行く。見下ろす海がとても気持ちよく、登りでも気持ちは軽い。登りのレーンと下りのレーンが分けられている。自転車で登る人も多く、安全対策はいろいろと心がけられているが、やはり注意していきたい。
眼下に突然広い風景が広がった。ここは「多々羅キャンプ場」。オートキャンプができ、きれいなコテージもある快適なキャンプ場。目の前には美しい瀬戸内海の砂浜が広がり、まるでプライベートビーチ。海水浴も楽しめ、ここを拠点にしまなみの島々をサイクリング・キャンプも楽しめる。コンビニもすぐ近くで、至極便利なキャンプ場だ。一度、ここをベースにして尾道まで自転車で走ったことがある。疲れて真っ暗になってからキャンプ場に帰ってきたので、晩ごはんは「コンビニ弁当」だった(笑)
キャンプ場の上を走る細い通路は「原付専用道」。しまなみの橋は「歩行者・自転車道」と「原付道」の2つがある。おおよそ橋の片方が「歩行者・自転車道」、もう片方が「原付道」となる。「原付道」は動力があるだけに勾配があり、ショートカットで橋の上まで登って行く。通行料金は自転車と同じなので、今度は一度、レンタバイクを借りて、楽にしまなみの島々を巡るのも楽しいかもしれない。
瀬戸内海の上を渡る気持ち良い多々羅大橋サイクリング
多々羅大橋の上に出た。ここから気持のいい、橋の上の走行が待っている。向こうに見える、橋がつないでいる島が「生口島」。
ここ「大三島」は愛媛県の島だが「生口島」は広島県の島。この海の真ん中に、愛媛と広島、四国と本州の境が横たわっている。
多々羅大橋の上を自転車で走り始める。海のはるか上を自転車で走るのは気持ちが良い。すぐ左側はなんと高速道路で、車が猛スピードで過ぎていく。十分に高速道路とはスペースがあり、丈夫なガードレールがあるので、恐怖感はない。しかし、ちょっと乗り越えれば高速道路に出られるようなこんなオープンなロケーション、まず普通にはない。そういう意味で、このサイクリングロードは、非日常でありえない風景である。
その非日常的であり得ない風景をさらに演出してくれるのは、多々羅大橋の主塔だ。この主塔の高さは海面からなんと226m。主塔は2本あり、主塔から斜めに張ったケーブルで橋桁をつなぎとめている。
美しい主塔とケーブルの下には龍が棲む
多々羅大橋はファン形の斜張橋。主塔から伸びるケーブルは橋桁に直接つながれているので、ケーブルがすぐ目の前に塔から伸びてくるところを目の当たりにできる。空を貫く高い真っ白な塔から放射線状に広がるケーブル。それはまるで、真っ青なキャンパスに描かれたアート。
さらに主塔に近づく。その迫力は圧倒的なものとなって、頭上にそびえる。鳥が羽を広げたような橋と形容される多々羅大橋の美しさが、間近に楽しめる。この橋の美しさをじっくり楽しむには、やはり車ではなく、自転車や徒歩でこの橋を渡るに限る。
主塔の真下に立つ。頭上にそびえる主塔は道路をまたぐように立っている。空にそびえる鉄の塊と、その頂から均一に放射的に張り巡らされたワイヤー。何とも無機質な空間であり、それはまるでアート。しかし、この不思議な空間は視覚的なものだけにおさまらない。なんとここには龍が宿っているという。
「多々羅鳴き龍」
多々羅大橋主塔真下にはこんな看板がある。「ここで手をたたいてみてください。ふしぎなことが起こります」と書かれている。看板の横には拍子木が親切に設置されているので試しに打ち鳴らしてみる。
「カチーンッ」と高い音を拍子木は打ち鳴らす。すると次の瞬間、その「カチーンッ」という音は非常に短間隔で重なるようにやまびこを繰り返す。「カチカチカチカチカチィーンッ」とまるで超音波をも織り交ぜたような不思議な響きとなった。
【鳴き龍とは】
京都の相国寺や天竜寺、妙心寺などには、天井に龍の絵が描かれたお堂があります。お堂の中で手を叩くと響きが長く残る現象があり、まるで天井の龍が泣いたように聞こえることから「鳴き龍」と呼ばれています。この響きの原因は、実は天井にあるのです。二つの平面が平行した空間で発生した音は、平面の間を何度も往復し反射することによって微妙に重なり、特殊な音の波が生まれます。これが鳴き声となるのですが、この音は一方の面が少し湾曲しているとよく発生します。
(現地説明看板より)
この現象には本当にびっくりした。とても不思議だ。島々に囲まれた海のはるか上、200mを超える塔の真下、そして猛スピードで絶え間なく走り過ぎていく車。まさか、この橋を作る時にわざわざ「鳴き龍」の現象が生まれるように設計はしていないと思う。しかし、こんなありえないような不思議なロケーション。確かにわざわざ龍がやってきて、ここに住み着いたのかもしれない。
見上げる多々羅大橋の主塔。ここに龍が宿っている。確かに龍の住処としては遜色のない、とても巨大で不思議な塔だ。
多々羅大橋のワイヤーが空に描く不思議な幾何学模様。バーコードのように見えれば、壁や階段にも見える。天に導かれるような気すらしてくる。
形は自由。見る人の心の中で、さまざまなものに姿を変えていく。
多々羅大橋はまさにアートな空間。視覚的、聴覚的にも不思議なシーンが広がるこの場所はまさに美術館。車で足早に通り過ぎるだけでは勿体ない。車からみれるこの景色は、ほんの一瞬。アートが詰め込まれた多々羅大橋は、ゆっくりと歩いてやはり楽しみたい。
このまま向こうの生口島まで走ろうと思ったが、ついついこの「美術館」でゆっくりしてしまった。すでに大三島から船で「大崎上島」をサイクリングしていたこともあり、タイムアップだ。急いで車を置いた道の駅まで戻ることにする。ここから車までは下り。とっても気持ちがいい。瀬戸内の美しい島と海の織りなす風景が風となって後ろに通りすぎていく。
大三島の宿でゆっくりできる宿
多々羅大橋
所在地: 愛媛県今治市上浦町井口、尾道市瀬戸田町
電話番号: 0848-44-3700
期間: 通年
休み: 無休
時間: 見学自由
交通: 瀬戸内しまなみ海道大三島ICから生口島南IC方面へ車で1Km
料金: 通行料 歩行者無料、自転車100円
大三島IC~生口島南IC間(普通車)800円
駐車場: 道の駅「多々羅しまなみ公園」(橋の下すぐの所にあり)
西瀬戸自動車道「瀬戸田パーキングエリア」(上下線とも歩いて橋の上にアクセス可能)
【投稿時最終訪問 2009年5月】