十夜ヶ橋【お遍路が橋で杖を突かない番外札所】

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お遍路は四国に古より伝わる風習で、弘法大師の教えを求めて八十八箇所の霊場を巡り歩く信仰。白装束、菅笠、金剛杖を身に纏い、歩く人々の姿は、今の四国でも良く見かける。現在では、車やバスで早く楽に霊場を回る人が増えた。しかし、交通機関の発達していない昔は、全て徒歩での巡礼。白装束を身にまとうのは、何処かで果てるかも知れない険しい道のりに旅立つ覚悟の表れだ。
ところで、お遍路さんには、「橋の上では金剛杖をつかない」という決まりがある。それは、橋の下には弘法大師が休んでおられるからだ。

なぜ、橋の下に、崇拝される弘法大師がおられるのか?
そのルーツとなった場所が、愛媛県・大洲市の「十夜ヶ橋」(とやがばし)だ。十夜ヶ橋は八十八の霊場には入っていない。番外札所という扱いだ。番外札所は別格とも言われ、八十八の霊場以外の弘法大師のゆかりの場所のこと。実は、弘法大師はこの場所で大変な目に遭っている。

「行きなやむ 浮世の人を渡さずば 一夜も十夜の橋と思ほゆ」
この橋の下で詠んだ弘法大師の歌。弘法大師はこの地で夕暮れを迎え、泊めてもらえる家を探すも、ついには見つからなかった。仕方なく、橋の下での野宿を決意する。しかし、寒さや空腹が容赦なく襲う。その上、橋の上を通る人の杖の音がうるさく眠れない始末。たった一晩が十夜にも感じたと、泣きべそでこの歌を詠んだのだ。
弘法大師のような聖人には考えられない。ヒューマニティーあふれるエピソード。そのため、お遍路さんは、橋の上では弘法大師様を困らせてはいけないと、杖を突かないのだ。そして、その故事にちなんでこの橋は「十夜ヶ橋」と名づけられた。
お遍路の慣わしのルーツとなる場所であり、弘法大師の人間性を感じられる場所だ。そのため、番外札所にも関わらず、多くのお遍路がこの場所を訪れている。

十夜ヶ橋では『野宿修行』をすることができる。希望者はゴザを貸してもらい、野宿を敢行できるのだ。四国の霊場で唯一、野宿を勧めている場所でもあり、多くのお遍路さんがここで一晩を過ごす。弘法大師様に思いを馳せながら。
ただ、歩きでお遍路をする人の多くの人は、野宿をする人は多い。背負っている大きなザックには必ず、寝袋やテントが装備されている。実際に、公園・東屋・バス停などで、お遍路さんが野宿をしているところはよく見る。それゆえに、野宿はこの十夜ヶ橋だけに限ったことではない。ここで行われるのは、『野宿』ではなく『野宿修行』なのだ。
弘法大師はこの橋の下で、眠れない長い一晩を過ごした。だから、お遍路もこの橋の下で、眠れない長い一晩を過ごさないといけないのだ。その理由はこれ。

弘法大師にまつわる聖地でありながら、その上を通る橋は四国の大動脈、国道56号線。さらにその上には、高速道路の高架がかかっている。ひっきりなしにトラックや自動車が往来している。うるさく、埃っぽい。ここで一晩を過ごすのは、まさに「修行」ではないか。
ここで野宿修行する歩き遍路は、車の走る音に半べそでこう思うのではないか・・・
お遍路さんは車に乗って橋を渡らないという決まりをつくってくれと・・・

十夜ケ橋近くのホテル

十夜ヶ橋

場所:愛媛県大洲市
交通:松山自動車道・大洲インターすぐ
駐車場:10台(お寺の前に駐車可能)
参拝料:無料

【投稿時最終訪問 2007年4月】

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