笹倉湿原【石鎚山森の中の神秘的な湿原】
西日本最高峰である愛媛県・石鎚山。四国のど真ん中にそびえる霊山でその周辺には手付かずの自然が多く残っている。
そんな豊かな自然の中に、四国では珍しい高層湿原がある。それが笹倉(さぞう)湿原だ。
アクセスは、石鎚山の南山麓を中腹まで一気に登る石鎚スカイライン。その途中の駐車場に車を停める。ここからは車が通れなくなった林道跡を登っていく。
川沿いに深い森に分け入り笹倉湿原を目指す
夏の強烈な光に照らされた深い緑が青空に鮮やかに映える。空の色も深く、夏雲が浮かんでいた。
歩き始めて少しすると、冷たい水を注ぐ堰堤に到着する。ひと休みするには絶好のポイントだ。川面に反射する夏の光がゆらゆらと揺れている。水と一緒に運ばれてきた木々の深い匂いに、夏の香りを感じた。
堰堤を流れる透明で透き通った水。手を浸すと、痛いほど冷たい。汗をかいた頭を水の中に放り込む。脳みその中まで、ミントを放り込まれたようにすっきり爽快だった。
木々の中から姿を現した、西日本最高峰の石鎚山。山肌は深い緑に覆われ、すっかり夏模様だ。
美しい森の中で育まれる命たち
ここから笹倉湿原に向けて、本格的に登りを開始する。石鎚スカイラインから、笹倉湿原へ向かう道。それは清流をたどる、谷沿いの道。山を下る清らかな水は、目に見えなくても、地表をゆっくりと流れ、森に潤いを与える。潤った森は、深い緑に包まれ、命にあふれる。まるで屋久島を思わせるような、深い森が広がっていた。
足元を見ると、苔むした倒木から生えたキノコ。その生命力に、美しさを感じる。
朝露に光る小さな緑。小さな緑の葉が地面いっぱいを覆っている。
倒れた木。いっぱいの苔に覆われ、緑の森の景色を作り出している。木の上には、苔の他にも別の植物が芽を出している。その中に混じり、ひときわ大きな木が、倒木の上で育っている。
この木は倒木の子供。
『倒木更新』
倒れた親を踏み台にして、子供は大きく育っていく。朽ちた命は、新しい命に吸い込まれていく。森は終わった命でその命を若返らせ、紡いでいく。
深い森の中、生い茂る笹をかきわけ、さらに森の奥、山の上へと進んでいく。夏の強烈な日差しをさえぎり、涼しい日陰になる森だが、やはり夏の登山は暑い。
しかし、笹に覆われつつある道は、急に開けた場所にでる。そして、気持ちのいい音が、冷たい空気を運んでくる。
美しい沢に出会った。清流が絶えず、緑の中を流れている。
その流れに手をつけると、冷たい。汗にまみれ、火照った体が一気に冷やされる。顔を洗い、口の中に水を含む。冷たい。汗をかき、水分を失った体は、水を含むだけでは物足りない。一気に流れる水を飲み干す。
冷蔵庫で何時間も冷やした水のように冷たく、とてもおいしい。いくらでも飲めそうだ。
しかし、湧き水ではなく、流水。勢いよく流れ、とても冷たいので、安全性は高いが飲みすぎは腹痛の原因。のどの渇きを潤した時点でやめておく。
沢にはワサビが自生している。まだ小さいので、根は十分に生育していないようだ。
ワサビは本当にきれいな山の水の流れる場所にしか生えない。山の清流を山でいくつも見てきたが、なかなかこんな緑を育んだ流れには出会うことはなかった。この水が、いかに清らかであるかわかる。
倒木の下を流れる清流。
静と動。明と暗。
異なるものが交わり、広がっている空間。とても不思議。ただ、心地よい流れと、冷気が立ち上り、暑い夏の陽射しから全てを癒してくれている。
森の中に緑の絨毯を敷き詰めたような笹倉湿原
笹をかきわけ、いくつもの沢を越えると、突然目の前が明るく開ける。ここが笹倉湿原だ。一面に広がる緑色の絨毯はウマスギゴケ。
湿原のため、水が多いときは、このコケも水没するくらいに水がたまり、池の様相になるらしい。しかし、訪れたこの日は夏の日。梅雨の晴れ間とはいえ、水は少なく、湿地とは思えないほど乾いていた。
この笹倉湿原は標高1400mに広がる高層湿原。急峻で砂礫や岩盤が多い四国の山には湿原は珍しく、これだけ山の中に登山道を分け入らないと見ることができない貴重な風景だ。笹倉湿原は年々小さくなってきているとの事。周辺より笹が湿原の中に進出してきている。いずれこの湿原も、なくなってしまうのだろうか。
湿原の中には、ウマスギゴケが隙間無く生息し、美しい緑色の絨毯が敷かれたようだ。
横たわる倒木はさながら、瑠璃色の水に浮かんでいるみたいだ。
よくみると、ウマスギゴケが小さな花をつけている。誰も気付かないくらい、小さい花だ。
森の中に入ると、木々の間から見える湿原はとても幻想的。暗い森の中に緑色の幻想的な光を放っていた。
笹倉湿原登山に便利な宿
笹倉湿原
場所:石鎚山系・筒上山山麓
交通:石鎚スカイラインにてアプローチ
登山口:石鎚スカイライン、金山手前右側に登山口あり。
標識は一切出ていない、鎖で封鎖された林道(廃道)を歩く。
途中、壊れた防砂ダムの前で沢を渡り、左側へ。
林道が途切れたところに「笹倉」の登り口の看板がある。
駐車場:金山橋を渡って左カーブしたすぐのところ、左側に駐車スペースあり。
約10台ほど停められる。
コースタイム:登山道入口から笹倉湿原まで約1時間45分
下り1時間15分
コース状況:笹が多く、ややヤブコギのような場所がある。
コーステープと踏み跡に注意する。
倒木が何本もあり、またいだりくぐったりする場所も多い。
比較的道は安全で、緑が深く、ワサビが自生する沢も通り、バリエーションに富む。