経塚山【大分で一番早く咲くミヤマキリシマ】

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大分県日出町にそびえる経塚山は、標高610mの低山ながら、県内で最も早くミヤマキリシマが開花する山として知られています。九重連山の平治岳など人気の山々では、ミヤマキリシマの見頃が5月末から6月上旬になるのに対し、経塚山では5月中旬には鮮やかな花が山肌を彩り始めます。花の規模こそ決して大きくはありません。しかしその分、九重のミヤマキリシマの名山・平治岳のように大勢の登山者で賑わうことも少なく、静かな山歩きの中でゆっくりと花を楽しめる“穴場の名山”です。しかも山頂からは、由布岳、鶴見岳、そして青く広がる別府湾とミヤマキリシマの競演を一望できるという贅沢な景観が待っています。

さらに経塚山の魅力は花だけではありません。いくつかある登山口のうち二箇所には豊かな湧水が湧いており、登山と名水巡りを同時に楽しめます。今回は、経塚湧水から登り、山田湧水へ下山する周回ルートを歩いていきます。

【経塚山・ミヤマキリシマの見頃 5月中旬】

経塚湧水からの登山道

経塚湧水の登山口には駐車場が3箇所あります。ひとつは「ほけじ花公園」、もうひとつは経塚湧水前、そして最も奥にある登山口駐車場です。公園や湧水は一般利用者も多いため、登山目的ならできれば最奥の登山口駐車場を利用したいところ。10台ほど駐車可能です。

この日はちょうどミヤマキリシマ開花のシーズンでしたが、それでも駐車している車はわずか。しかも何台かは地元の草刈り作業の車両でした。九州のミヤマキリシマシーズンといえば大混雑する山も多い中、この静けさは驚きです。まさに知る人ぞ知る穴場の山だと実感します。

【経塚湧水の詳細はこちら】

林道の終点には、小さな滝が流れ落ちています。その岩肌には十三体の仏像が刻まれた「十三仏」があり、神秘的な空気が漂っています。そして、その十三仏の横から登山道が始まります。

……が、いきなり難関。登山道は滝横の岩場を鎖を使ってよじ登るワイルドなスタート。低山だからと油断していると、最初からしっかり“山”らしい洗礼を受けます。足元に気を付けながら慎重に身体を持ち上げていくと、一気に冒険感が高まります。

道標や赤テープによってコースは確保されていますが、歩く人は決して多くないため、場所によっては踏み跡が薄く感じる箇所もあります。特に落ち葉が積もる時期や新緑の季節は道が森に溶け込みやすく、赤テープを見失わないように注意しながら進みます。

静かな森の中、自分だけが山を歩いているような感覚。この“秘境感”も経塚山の魅力です。

登山序盤は、かつて山麓に存在した法花寺の奥の院へと続く歴史ある道。苔むした古い石段が所々に残っており、長い年月を感じさせます。かつて信者たちが歩いたであろう山道。鳥の声しか聞こえない静寂の中を歩いていると、どこか時間が止まったような感覚になります。

やがて奥の院跡へ到着。今は小さな祠と道標だけが静かに残されていますが、その場所には独特の厳かな空気が漂っています。

奥の院を過ぎると、登山道は一気に山らしさを増します。深い森の中の急登。木の根を掴みながら登る場所もあり、標高以上に登り応えを感じるルートです。

急坂を登りきると、突然視界が開け、平坦な場所へと飛び出します。そこに現れるのが、まるで童話の世界から抜け出してきたようなツリーハウス風の手作り展望台。

森の中にぽつんと建つその姿は実に印象的で、思わず「こんな場所に?」と足を止めてしまいます。木材を組み合わせて丁寧に作られた展望台には温かみがあり、秘密基地のようなワクワク感があります。

しっかりと造られたツリーハウス展望台からは、日出町の町並みと別府湾が大きく広がります。眼下には別府市街地、海沿いに伸びる町、そして遠くには高崎山。さらにその向こうには大分市街まで見渡せる圧巻の大パノラマ。海と山、町並みが一度に視界へ飛び込んでくる景色は本当に見事で、思わず言葉を失います。

足元を覗けば、先ほど歩いてきた山道を見下ろすこともでき、自分が登ってきた高さを実感できます。

この先の山道は、それまでの急登に比べるとずいぶん穏やかになります。木々の背丈も低くなり、ところどころ展望が開ける気持ちのいい尾根歩き。風が吹き抜けるたびに木々が揺れ、初夏の爽やかな空気が肌を撫でていきます。急登を終えた後だけに、この穏やかな道がより心地よく感じられます。

低い森の中を抜けると、経塚山山頂へ向かう分岐点へ到着します。

ミヤマキリシマ咲き誇る経塚山頂上

そして分岐から少し歩けば、ついに経塚山山頂です。

標高610mの山頂看板には「ミヤマキリシマ自生地」と記されており、その周囲には鮮やかなピンク色の花々が咲き誇っています。

ミヤマキリシマは、九州の火山性高山に自生するツツジ科の低木。阿蘇山や霧島山、雲仙岳、そして九重連山などで、5月末から6月初旬にかけて紅紫色の花を咲かせます。

火山ガスにも耐える強さを持ち、荒々しい火山の山肌を一面鮮やかなピンク色に染め上げるその姿は、まさに九州を代表する初夏の絶景。そんなミヤマキリシマを、ここ経塚山ではひと足早く楽しめるのです。

そして何より感動的なのが、別府湾とミヤマキリシマの組み合わせ。大分県内でも、これほど間近に海とミヤマキリシマを同時に楽しめる山は多くありません。代表的なのは鶴見岳と経塚山くらいでしょう。特に経塚山は標高が低いため海との距離感が近く、青い海と空、そして鮮やかなピンク色の花が見事なコントラストを描きます。

湾の向こうには高崎山が海からせり上がるようにそびえ、まさに大分らしい風景が広がっています。

経塚山は活火山ではありませんが、火山活動によって形成された海沿いの山。その山頂付近は風も強く、土壌も厳しい環境のため、他の植物が育ちにくくなっています。だからこそ、この過酷な場所にミヤマキリシマが群生しているのです。

広々とした山頂にはかなりの数のミヤマキリシマが点在しており、静かな空間の中でゆっくり花を観賞できます。

山頂の一角からは、鶴見岳と由布岳、そしてミヤマキリシマを同時に眺める絶景ポイントがあります。この日はやや雲が多めでしたが、それでも十分に美しい景色。もし空気が澄み渡る快晴の日なら、日本屈指の温泉地を見守る名峰たちと、美しい花々の競演を楽しめることでしょう。

ザビエルの道での山田湧水への下山

経塚山山頂でミヤマキリシマを堪能したら、今度は山田湧水方面へ下山開始。登りで通った分岐から別方向へ伸びる細い道へ入ります。

山頂からわずか10分足らずで、最も山頂に近い登山口へ到着します。ここまでは車で来ることも可能です。ただし、山頂へ続く林道は距離こそ短いものの非常に狭く、すれ違いには困難。駐車スペースも6〜7台程度しかありません。

駐車場の奥、フェンス沿いに登山道が続いています。

やがて道は二手に分岐。旧道は急坂を一気に下る最短ルート、新道は距離こそ長いものの比較的緩やかな下り道です。脚力や天候に応じて選択したいところ。

旧道を少し進むと「別府湾ビュー」と名付けられた展望スポットがあります。その名の通り、眼下に広がる別府湾を一望できる爽快な場所。海風を感じながら眺める景色は格別です。

最短コースは、七ツ石山と経塚山の鞍部へ向かって急降下していきます。

かなりの急坂で、雨上がりは滑りやすそうな場所も多め。コンディションによっては、無理せず迂回ルートを選ぶほうが安心でしょう。

緩やかなコースと合流して少し進むと、七ツ石山やその先の縦走路へ向かう分岐が現れます。

「鹿鳴越連山」とは、日出町と杵築市の境に、別府湾沿いに連なる山々の総称。鹿が鳴くほど険しい山道だったことが名前の由来ともいわれています。ここから鹿鳴越連山を縦走し、山田湧水へ戻るロングコースを歩く登山者も少なくありません。

今回は七ツ石山のみを往復することにします。

分岐から約20分で七ツ石山山頂へ到着。標高623m。日出町の最高峰です。

先ほどの経塚山よりさらに海との距離が近く、眼下いっぱいに広がる別府湾の眺めは圧巻。低山とは思えないスケール感があります。

再び山田湧水へ向けて下山開始。途中には「ザビエルの道」の道標が立っています。

この道は、戦国時代に宣教師フランシスコ・ザビエルが、大友宗麟に布教の許しを得るために通ったとされる歴史ある道です。

ザビエルはこの道を下り、別府湾を船で渡って大分へ向かったと伝えられています。はじめて大分の地を目にしたであろう、この場所からの景色。異国の地ヨーロッパから遥か海を越え、日本へたどり着いたザビエルは、この風景をどんな思いで眺めたのでしょうか。

歴史に思いを馳せながら歩く山道は、単なる登山以上の味わいがあります。

山道の途中には「一目城」の跡があります。ここは街道警備や別府湾監視のための物見台として機能していた場所。すぐ横には江戸時代から昭和初期まで稼働していた石切場跡も残っており、大量の石材が今も周囲に点在しています。石切場の城だったことを物語るように、深い山中には立派な石垣が今なお残されています。

自然だけでなく、歴史遺構まで楽しめるのも経塚山周辺の面白さです。

やがて登山道が歩きやすい道へ変わると、下界はもう目前。その先の登山口には、名水として知られる山田湧水があります。水に恵まれた日出町の中でも“三大湧水”に数えられる名水。長い下山を終えたあとに飲む冷たい湧水は格別です。

ぜひ最後は、この美味しい水で喉を潤しながら、経塚山の静かで贅沢な山旅を締めくくってください。

【山田湧水の詳細はこちら】

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