温泉旅館京屋【石鎚山登山に人気の温泉】

西日本最高峰で日本百名山のひとつ、愛媛県の石鎚山。今なお多くの信者を集める信仰の山でもある。そんな石鎚山の表玄関にあたる石鎚登山ロープウェイ。その乗り場にある昔ながらの「京屋旅館」では、下山してすぐに浸かれるひなびた温泉が人気だ。ロープウェイを降りると、「温泉300円」という看板がいくつか出ている。この温泉旅館はロープウェイからすぐの所にある。駐車場から車を出さずに、汗をかいたままバスに乗る前に入浴できるのはとにかく魅力。

昭和レトロなひなびた雰囲気が心地よい温泉

京屋旅館の外観。ロープウェイ乗り場の駐車場の入口にあり、アーケードの下に宿の玄関がある。駐車場料金は500円するが、ロープウェイの乗車のために車を停めていたら、車はそこに置いたまま入浴できる。
このロープウェイの山頂駅には四国屈指のスキー場である「石鎚成就スキー場」があり、訪れるスキーヤー、ボーダーも多い。京屋旅館は大きな食堂も営業していて、この温泉を利用する人も多いのかと思ったのだが・・・ガラガラでした。どうしてもその外観の古さや鄙びた感が敬遠されているのだろうか。確かにここから車で30分も走れば、きれいで大きな温泉施設は多くある。しかし、この温泉、知っていれば温泉好きの四国人なら絶対に行きたくなるある要素を秘めている。食堂にいる宿の人に料金300円を支払い、宿の奥へと進む。

浴室へつづく廊下。昭和の匂い漂う、とても味のある廊下。迷路のように右に左に、上に下に廊下はこの先も続いている。いかにも川の谷間に造られた、鄙びた温泉旅館の雰囲気だ。

脱衣所。簡単な棚、イス、扇風機があるだけの簡素なつくり。鍵のかかるロッカーはないが、希望があれば貴重品は宿の人が預かってくれる。浴室と脱衣所を仕切るドアはクリアなガラス扉1枚なので、人の荷物を物色していたらすぐに浴室内からわかるけれど・・・

四国では珍しい白濁の湯で温泉情緒満点

さて、早速浴室に入る。浴室は内風呂がたった1つとお世辞にも広くない。しかし、僕は歓喜の声を上げた。「四国にも、あったんだぁ~♪」何があったかというと・・・この白濁したお湯だ。
「何が珍しい?」と本州や九州の方は疑問に思われるかもしれない。しかし、四国の温泉には濁り湯がほぼ皆無なのだ。日本最古の温泉、道後温泉などを擁する温泉大国愛媛県だが、そのお湯は無色透明ばかり。四国で濁り湯に浸かった記憶はない。だが、あったのだ。石鎚山の懐に抱かれた、ここ石鎚山温泉に、白濁した温泉らしいお湯を湛えた秘湯が。

いつまでも浸かりたくなる白濁の湯。四国では味わえないと思っていた、温泉の醍醐味に思わず長湯。風呂の縁にたっぷりと堆積した温泉成分が、温泉に包まれる実感を増長させる。
不思議なことに、これだけ濃厚な湯なのに、温泉独特の匂いが少ない。無臭に近い匂いだった。やはり泉質が違っても、四国の湯は基本無臭なのだろうか。愛媛県の温泉は条例で塩素消毒か義務付けられており、この湯にも投入されているようだが、塩素の匂いは微塵も感じなかった。
内湯は気泡風呂になっていて、ジャクジーのようでとても気持ちいい。湯が濁っていて中が見えないが、1段段差が設けられている。出入りするときは注意しよう。

さて、お風呂に入っているとどうしても気になるのがこれ。すごい音立てて、お湯を吸い込み吐き出している。データでは、この温泉は加温・掛け流し。ちょっと装置の鉄パイプにお湯をかけてみると・・・ジュッすごい音がして鉄パイプにかけてお湯が蒸発した。どうやらこれは簡易循環式の加温装置のようだ。原泉温度は16℃なので加温は絶対必要なのだが、なかなか簡素でかつワイルドな装置だ。間違って鉄パイプにもたれたりないようにしたい。
洗い場は狭いながらもシャワー付きのカランが6つほども用意されている。お湯の出も申し分なく使いやすい。ボディソープとリンスインシャンプーもいっぱい使ってくだされと言わんばかりに用意されいてる。登山やスキーで汗をかいた体を思う存分洗い流せる。愛媛の日帰り入浴施設にはボディソープやシャンプーの備え付けがないところが多いので、これは助かる。
浴槽からあふれ出した乳白色の湯を見ていると、温泉成分がいっぱいに含まれている。色がついた湯というより、いろいろな成分が混じった湯といった感じだ。

湯から覗ける石鎚山から流れ出す透明な渓流が気持ち良い

浴室の窓から外を覗く。眼下には石鎚山系に源を発する、美しいエメラルドグリーンの清流が流れる。川のせせらぎを聞きながら浸かる白濁の湯は、温泉の幸せを倍増させてくれる。ロープウェイの麓、深く美しい川辺で浸かる温泉は、どこか信州の「新穂高温泉」を思わせる。僕が大好きな「新穂高温泉」にとてもロケーションがよく似たこの「石鎚山温泉」ここで湯につかっているだけでも、とても遠くの温泉郷に来た気になり、とても旅情を感じる。ただ、残念なのは、新穂高温泉には何十軒も温泉宿があるが、石鎚山温泉にはここ京屋しか温泉宿はない。

土曜日の夕方なのだが僕以外誰もいない。こんな素晴らしい湯を独り占めして、絶好のロケーションを楽しめるなんて、まさに天国。とても長湯をしてしまった。こんな素晴らしい湯が300円で入れるなんて、本当は誰にも教えたくないくらいだ。鄙びた温泉地が大好きな秘湯ファンには垂涎ものの湯だった。
ここは石鎚山登山の表玄関となる場所。石鎚山を登った後は、その石鎚山の成分がたっぷりと溶け出した良質の乳白色の湯で、疲れをぜひ癒したい。

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石鎚山温泉・温泉旅館京屋(日帰り湯)

自家源泉・加温・掛け流し
乳白色・微臭

泉質: 含二酸化炭素ナトリウム塩化物炭酸水素塩泉
原泉温度: 16℃
湧出量: 100リットル/分
浴槽: 男女別内風呂 各1

場所: 愛媛県西条市西之川甲106
電話: 0897-59-0335
料金: 300円
休み: 無休
時間: 17:00~19:00(土・日曜、祝日は13:00~)
駐車場: 500台/1日500円 (石鎚登山ロープウェイの駐車場を利用)
交通: 松山自動車道西条ICより車で約60分
    松山自動車道小松ICより車で約35分
    JR西条駅よりせとうちバスにて約55分(1日4便)

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